本年度追加予算の新財源として創設される非戦災者特別税は、戦災をまぬかれた家屋並に非戦災者の動産に対する課税であるが、これによって戦災者の精神的負担を幾分でも和らげることができるならば、恐らく本税創設の目的は達成されたと云えよう。しかし乍ら、本税がそう云う目的の外に財源としての見地の重きを置き、高率課税を目指して居るならば、それは政治的社会的に影響が少くないのみならず、惹いては生産阻害の原因ともなり、また名目的に財政収支のバランスを合わせ得ても、赤字金融を通じて却ってインフレを促進する虞れがある。即ち
一、先づ個人に対する影響について云えば、免税点が低く、税率が高い場合には、生活内容に余裕のない低額所得階層に広く負担が及び、これが給料賃金の増額要求に転嫁されることはは容易に想像されるところである。然るに現在の多くの企業体はかゝる要求を受け入れる力がなく、自然之が実現すれば製品価格の騰貴とならざるを得ず、又それができなければ、生産意慾の減退となって生産を阻害することとなる。
二、次に法人への課税は、当面の運転資金にも困っている諸会社の生産資金を圧迫し、原材料の手当に支障を来すが、さりとてこれを融資で賄うことは実際上不可能とする場合が多いであろう。仮にこの点について特別の措置が講ぜられたとしても金融逼迫のおりから結局日銀の貸出を通じて、インフレを促進することとなろう。又この場合納税負担額を特別損失とし、資本又は債権の負担によって処理するとしても、その結果は金融機関、従って預金者の負担を増大し国家補償を増加させる場合も生じ擬制資本の打切でイレフレ促進への刺戟を緩和せんとする目的も達せられない。
三、更に本税に於て高率の課税を不可とする他の理由は、課税対象並に課税標準から見て、所得又は財産に対する負担の公平が、課税技術上到底期し難い点にある。本税はその性質から云えば、一種の財産税であるから、所得に対する均衡を一応論外に置くとしても、課税対象としての財産は家屋と一部の動産に限定され、且つ課税標準を粗雑な賃貸価格に置いて、これに一定倍率の課税をすると云うが如き負担公平の観点から合理性の無い方法を採用せざるを得ない実情にある。したがって税率を高めれば、この矛盾を益々増大することになる。
畢竟、物的財産税を以て当面緊急の財源たらしめ、インフレ防止の目的を達しようとする所に根本の矛盾と無理とが伴うのである。だから本税は若し之を実施するとすれば、専ら戦災者と非戦災者との負担の均衡という社会政策的観点に重きを置き、経済的考慮としては税率をできるだけ低くすると共に、免税点を高めて生産阻害に陥らぬよう注意することが肝要である。若しそれ健全財政の維持という本来の目的からするならば、むしろ徹底せる行政整理等による国家経費の節約と、困難でもインフレ所得層への課税にもっと重きを置くべきである。
なお本税を実施するに当っては右の趣旨を充分徹底せしめる他、左記の諸点につき慎重配慮せられることを望むものである。
(1) 非戦災者税については戦災者、引揚者の外、在外資産、賠償指定物件につき一定割合以上を喪ったものは免税とし、特経会社で特別損失が既に資本、債権に及ぶ状態にある場合はこれを減免すること。
(2) 非戦災者家屋税についても特経会社の特別損失が既に資本、債権に及ぶ状態にある場合には之を減免すること。
(3) 進駐軍接収建物並に終戦後火災、水害等を蒙った建物等に対しては非戦災家屋税を減免することとし、且つ同種の理由ありと認められる物件については納税者側から事情を具して減免税の申請をなし得るようにすること。
法人の非戦災家屋税は当該建物が負担する一回限りの課税であるから、会社の撰択により不動産税、登録税と同じく税額をその記帳価格に加算し得る如く経理上特別の措置を講ずること。
現在に於ける諸会社の経理状態を以てしては実際上納税資金を調達することは極めて困難なものなものが多いから、延納、国債、地方債その他の有価証券による代納、増資株又は新発行社債による代納等を認めるよう特別の措置をなすこと。