企業債権整備の審査方針は今後の企業の在り方を決定する重要な意義をもつとともに、一面認許された整備計画の実行上影響する範囲が頗る広い。然るにさきに発表された経理の認可基準をはじめ、すでに原則的に内定を伝えられている審査方針の一部には、現状の修正を余りに急激に行おうとしたり乃至はその実施によって生ずる影響に対する考慮が欠けていたりする傾向が見られる。本委員会は再建整備の円滑且つ合理的な実行を期する建前からこの問題に慎重検討を加えてきたが、問題の所在とその処理方針に関し次の如き結論に達した。
但し今後比較的短い期間に非常な金額を処理する必要のある証券処理問題については更に別の専門委員会で検討することになっている。
一、経理の認可基準によれば第二会社の資本金額は固定資産と通常固定すべき運転資金の合計額を下らないことを原則とする方針のごとくである。かゝる措置は会社経理を健全化するためには理想として当然望ましいであろうが、しかしこれをこの際一挙に実現せんとすれば非常な無理を生ずる。戦補税の処理及び集中排除後に於ける会社経理の実状をみると、固定資産だけでも全額自己資本で賄うには容易ならぬ困難がある。そのうえ固定資産の帳簿価額をはるかに超えるであろう所の固定的な流動資産をも自己資本で賄うとすれば、巨額の増資株を一時に発行し処分することを要する。然しそれをやれば、現在の一般的な事業不振と貧弱な投資力とからみて、株価を不当に下落せしめることは必至で、その結果は株式の発行を益々困難ならしめ旧会社の整理は永びき、同時にまた新会社の資金調達を困難にするのであろう。
そこでこの避け難き事態を緩和するためには必要とする増資株式の発行を消化能力に応じて何段階かに分ける必要がある。すなわち事業振興その他に関する見透を立てて、一定年間における増資に附する計画を定め、漸次その資本構成を理想の標準に達せしめ得るように、認可基準の運用に伸縮性をもたすことが必要であると考える。
二、経理認可基準の運用においては、社債は自己資本に準ずるものと見做すことになっているが実際問題として一挙に多額の発行をなすことは極めて困難である。よって会社の旧債務にして一定期間にこれを社債に転換する計画の確立せるものについては、これを社債と見做して取扱う必要があると考える。
三、以上の方法によって、経理の健全化を目標に資本構成を漸次自己資本中心に改めるとしても新会社発足の当初においては比較的小額の資本金をもって望まざるを得ない会社が多いと考えられるが、その場合、社債発行限度に関する現在の商法の規定は実際上重大な障害となる場合が少なくないであろう。
よって特経会社については決定整備計画の実行の期間中は、これに除外例を設けて商法の規定にかかわらず、払込資本の限度を超えて社債を発行し得る如くすべきである。
四、旧会社の整理を進捗せしめるには一般に金融機関の有する旧債権に対して株式による代物弁済を広く認めることとなるものと解されるが、普通株に対する金融機関の保有限度は独占禁止法で五%に制限されて居り、今回また会社の無議決権株の実行限度を商法の規定にならって資本金の四分の一を超えることができないと定められた。従って金融機関の株式保有は非常に窮屈となり、これがため旧会社の清算に支障をきたす惧れがある。
よってこの際金融機関の株式保有に便法を設けて一定期間内(例えば一年以内)に売却することを條件として、右の限度を超えて株式を保有することができるようにする必要がある。
五、整備計画の審査方針では第二会社設立の場合新勘定に生じた欠損は、旧会社において之を負担し反対に利益を生じたときは、これを新会社に帰属させることができることに内定したごとくである。これは理論的に首尾一貫せざるばかりでなく旧株主及び旧債権者に不当の損失を与えることになり、又損失が金融機関に及ぶ場合、その最終的負担の帰属も明確でない。元来新旧勘定の分離は旧株主及び旧債権者が特別損失を負担し一方新勘定は旧会社との関係を離れて全く別個の経営的基礎を得ることをたて前として行われたものである。
したがって新勘定の損益はそのまま第二会社に全部継承されるのが当然の筋道である。又万一それができないとしても、少くも将来新会社に一定限度以上の利益金が生じたときは、その利益金で旧会社の負担した新勘定欠損を補填しうる方法を別途に考慮するのが至当と考える。特に新勘定の赤字は概して原料と製品の丸公改訂の時期のずれによるものかあるいは価格差補給金の未払に原因するのである。かかる原因によって生じた差損は本来政府が何等の方法をもって補償すべきであるが、万一それが出来ない場合でもこれをその儘旧会社の負担に帰するごときは絶対に避けなければならない。
六、賠償指定物件は整備計画において評価を零として計上し第二封鎖預金並に特計会社等への債権は切捨見込額を計上することになっているが、その全部又は一部が整備計画認可の日以後において生き返ったときは、その生き返った金額は税法上その生き返った日に属する事業年度の益金と認めることになっている。またこれを仮受金に整理した場合でも旧会社において仮勘定から移して資産に計上すれば益金と見做して課税する方針の如くであるが、もともとその会社に帰属しているものに対し、新たな資産の所得と同じ取扱いをすることは当を得ない。
賠償指定の如きは広く一応の網をかぶせたものに外ならず、指定によってその資産が喪失したものと考えるところに見解の誤りがあるのであってかかる措置は根本から改める必要がある。但し、特別損失を出す前に、指定時をもって終了する事業年度の利益金等を指定時現在で計算した損失の補填にあてた場合には法人税等の課税を減免されて居るので、その減免額を右の生き返った金額から納めさせることは差し支えないであろう。