証券民主化に関する意見

昭和22年11月29日発表
経済団体連合会

一、戦後経済の再建は、産業の復興を促し生産を増大せしめることによってはじめてこれを期待し得るこというまでもなく、これがためには原料、資材、動力の供給確保、食糧その他生活必需品の確保、労働関係事情の正常化等基本諸問題の解決を必要とするが、また一回、戦後極度の荒廃欠乏状態にある蓄積資本、なかんずく産業資本の回復をはかることが不可欠の緊要事である。

思うに、いまわが国が、優秀な労働力を極めて豊富に擁しながら、これを充分有効に活動せしめ得ない一つの重要な理由は、産業資本が著しく欠乏し、両者のアンバランスが文字通り破局化していることにある。しかも、戦争以来産業資本の重要性は甚だ軽視せられ、不当の虐待をうけて、資本は新蓄積どころか、逆に滔々たる喰込減耗を余儀なくせられつつある。このため、ひいては僅少の蓄積余力すらも産業投資を回避するに至った。現下における株式市場異常の低迷はその端的な表現である。その結果、産業資本の欠乏はいよいよ激成せられたが、ここに産業復興上最も本質的な隘路があり、ここに過剰労力ないし失業の根源があり、ここにインフレーション激成の禍根があるのである。これら現下わが国経済安定上の基本問題をこの際解決するが為には、資本に対し正常の処遇をあたえ、なかんずく産業資本の蓄積と産業投資とを助長し、且つ容易にする措置を講ずることが焦眉の急務である。

一、わが国はまた、ポツダム宣言による経済民主化達成のために、株式の大衆化を実現せねばならぬ大きな責務を負っている。殊にその焦眉の急を要する問題として、財閥解体、独占禁止法財産税その他による株式分散の要請があり、その額は約二百億円を算している。更に企業再建整備法、経済力集中排除法関係の下に新規発行を要する株式は、経理認可基準をそのまま実施するとすれば、三百億乃至五百億円に上るものと推定され、その消化見透しの立たぬ限り、企業並に金融機関の再建整備は進捗し難い事情にある。のみならず経済復興のためには、別に巨額の新設増資株の発行が必要であるが、前記の要分散株式が未解決である限り、これら新規株式の発行も到底困難である。

また一面、わが国はいまインフレーション防遏対策として国民貯蓄の必要を強く要求せられているが、これは単に預貯金のみに頼ってその目的を達し得べきものではない。広く株式投資を活用し、以上が両翼となってはじめて所期の目的を達し得るものなることを銘記せねばならぬ。元来、株式投資は産業資本吸収の正統なルートであり、産業資本の欠乏補給の根源をなすものであって、この意味においても株式投資の助長促進をはかることは緊要である。

株式大衆化問題は、いま以上のような重要な地位を占めている。それにも拘らず、国民が株式投資を忌避すること今日の如く甚しきはない。その基本原因の一つが、前記の如き資本の虐待にあること勿論であるが、現行の諸施策が株式投資を著しく不遇にしていることに基因するところも多大である。よってこの際、株式投資に対する諸般の圧迫を除去し、これに正当な地位を与えると共に、特に有価証券はその流通の円滑なることが特色なる事実にかんがみ、株式の流通秩序を至急再確立することが肝要である。

なお株式の大衆化は、株価が低落すれば自ら需要を喚起し、その目的を達し得るとの説をなすものがあるが、実際においては、株価が不当に低落すればするだけ大衆は不安人気に襲われて、投資を躊躇するものであることは、過去の長い歴史の証明するところである。事実、株価の異常低落は、過去においては、大衆投資層の不安に乗じ少数大資本の独占化を誘致するのが常であったのである。また百歩ゆずって、既存株式の分散は株価の低落によってその目的を達し得ると仮定しても、かくては新規株式の発行は全く不可能となり、戦後における産業復興は勿論、企業再建整備法等の要求する株式発行すら到底実現出来ないこととなるのである。

一、以上にかんがみ、本委員会はこの問題に種々検討を加えた結果、当面の対策として左記のごとき結論をえた。われわれはその急速なる実現を望むものである。

第一、現行法制に改正を要すべき事項

(1) 配当制限を速に撤廃し、会社の責任において自由に配当をなしうるようにすること

(2) 法人税は少くとも最近の金利水準に照して妥当な配当をなしうる程度に軽減すること。なおこれに準じて会社解散の場合の清算所得に対する税率も軽減すること

(3) 源泉選択課税を配当所得についても認め、配当所得と公社債預金利子との間に存する差別観念を払拭すること

(4) 株式の譲渡所得課税、有価証券移転税を廃止すること

第二、価格形成に関する事項

産業の基礎を確立し、その資本の蓄積吸収を可能ならしめるため、価格形成に際し適正なる利潤竝に減価銷却を認めること

第三、証券の流通円滑化に関する事項

(1) 証券取引所を速に再開すること

(2) 証券業者の質的向上をはかること

(3) 会計監査制度を確立し会社経理を公開して投資家保護に万全を期すること

(4) 証券処理調整協議会において処分する旧財閥の持株並に財産税等の物納による株式はこれを大衆に広く分散せしめるため、公債及び農地証券によるこれが引換えを認めるごとき措置を講ずること

第四、証券金融に関する事項

産業資本の獲得につき復興金融金庫の融資に対する依存度を軽減し、より多くを国民大衆の株式投資にまちうるようこれを誘致する方策として、インフレーションを助長することとならない限り、次の如き証券金融を認めること

(1) 日本経済再建に緊要な企業の株式払込金又は新設増資株に対する株式払込金に対し必要に応じ証券金融をなすこと、特に第二会社の株式については優先的に取扱うこと

(2) 証券処理調整協議会より放出する株式に対しても同様融資を考慮すること

第五、臨時証券金庫(仮称)の設置に関する事項

企業の再編成と民主化を促進し、尨大なる株式流出の圧迫を調整し、証券の流通を円滑ならしめ、且つインフレーションを抑圧する構想の下に、証券を一時所得保有する公的機関を設置すること

第六、国民大衆に対する株式投資の普及宣伝に関する事項

以上の諸施策に併せて、国民大衆に対し株式投資に関する正しい認識を与え、もって投資意欲を誘起せしめるよう普及宣伝をなすこと

以上