新勘定赤字対策並に再建整備資本対策に関する覚書

昭和23年8月3日建議公表
経済団体連合会

産業復興の当面の課題は、企業再建整備計画の速かなる実行にあるが、新勘定の赤字処理問題をはじめ、再建整備後の資本構成に関連して増資新株式の発行並に消化の問題などなお未解決の点があり、為めに整備計画は容易にその実行を期し難い状況にある。

われわれはこれらの問題が至急解決せられて再建整備が急速に実行せられるよう切望するのでこの際本問題に関するわれわれの見解を明かにして当局の参考に供したい。

一、新勘定の赤字処理方策

新勘定の赤字の処理については、業種によって企業努力で大部分解決し得るものと、石炭等のごとく企業努力のみでは到底解決困難なものとあり、またそのよって来たる原因から見ても企業の経営上の責任に帰すべきものと、明かに価格政策の矛盾と不手際によるものとがある。従ってこの問題は業種別にその実情に即して処理すべきである。

勿論われわれは企業努力で自力によって処理し得るものについては、その原因の如何を問わず、この問題に対する積極的な努力を惜しむものではない。即ちこのための第一段の措置としては、第二会社に出資すべき流動資産の評価換え、並に一部資産の処分等によって極力新勘定の赤字を補填する。次に第二段の措置として、旧会社の整理計画に余裕のある場合には、旧会社ではこれを負担してもよい。然し実際問題として、旧会社がかかる負担能力を持つことは稀であると見られるから、石炭等のごとく赤字の累積のはなはだしい業種では、結局赤字の多くの部分を新会社に移す他ないであろう。

しかして、赤字を新会社に移さざるを得ないような場合には、その赤字は価格政策の矛盾、不手際等に起因する場合が少くないのでこれについては当然、政府が何らかの形で赤字解消の責に任ずる必要がある。その方法としては、

(一) 政府の補償金交付によること

(二) 価格差益金の徴収減免によって補填すること

(三) 物価に重大な影響を及ぼさない程度において価格におりこんで償却すること。但し将来公定価格が廃止になった場合は残額を政府が補償すること

等、いろいろ考えられるので、実情に従ってこれらの方法を適当に組合せて案を立てるべきである。

然し新会社に移される赤字と雖も其の起因によっては企業自ら責任を負わねばならぬであろう。即ちそれらは、経営の合理化、資産の処分、固定資産の再評価等によって赤字処理の案を立てなければならない。

以上の方針にもとずいて速かに最終処理方法を定める必要があるが、現実の資金手当としてはいずれも新会社発足後の問題となるから整備計画に於ては一応特別勘定を設けて処理する必要がある。しかし最終処理方針を定めない単なる棚上げは、企業の金繰りと信用に支障を来たすから、方針だけは整備計画と同時に定める必要がある。而して既に最終処理方針を定める以上、特別勘定の残存期間と雖も利益処分について特別の制限を設けるようなことは避ける必要がある。

二、増資又は第二会社株式の消化方策

資本構成に関する経理認可基準は、運用によって幾分緩和されたとしても、なお増資又は第二会社株式の新発行額は一千億円を超えることがほぼ確実と見られ、現在の資本市場の消化力からみて、かかる多額の株式を短期間に、一時に消化することはほとんど不可能と思われる。よって後記の如く、株式の分割発行制をとり入れて、市場の消化力に照応せしめると同時に、当面の措置としては、過般決定の証券金融を励行する外、次のような方法を併用することが必要と考える。

(一) 新旧勘定合併前において増資を必要としこれが可能なる会社に対しては、なるべく事前増資を慫慂し、早くこれを認可するようにすること。

(二) 旧債権に対する株式の代物弁済の方法により、金融機関が相当額の株式を引受け、その保有期間は議決権を停止しうるごとく経理認可基準を改めること。

(三) 独占禁止法にもとずく法人持株の処分については、その処分に相当の期間を要し、もしまた一時にこれを処分せんとすれば、不当に株式の市価を崩して、却ってその処分を困難にするおそれがある。よって再建整備を速かに完了せしめるため、独占禁止法第百七條による法人の持株処分を一定期間(例えば二年間)延期し、且つ右の法人株主に対しては再建整備による新株を議決権に制限を加えて割当てうるごとく経理認可基準を改正すること。

三、授権資本制の採用

資本市場の消化力に照応させるために株式の分割発行制を採用する必要のあることは、これまでわれわれが再三主張してきたところであるが、さらに、事業将来の見透が現在では未知の不確定な條件の下におかれ、且つ賠償施設の帰趨が判明しない今日の事態等に鑑みて欧米の授権資本制に準じて、一応資本金の最高額を定めておき、今後必要に応じて当初定められた資本金の限度まで何回でも株式を発行し得るごとくすることが是非共必要と考える。しかして新旧勘定合併によって存続する会社についてはできうれば整備計画の認可前に本措置を実行し得ることが望ましい。

四、再編成計画と再建整備計画との調整

集中排除法にもとずく再編成計画と経済再建整備計画はほとんど類似の内容を規定しているが、再建整備計画の提出が遅れるため、すでに認可のあった再編成計画の内容に変更を要する点が出てくるので、この場合は自動的に両者の調整をなしうるごとくすべきである。しかしてこの両計画の間の最も甚だしい矛盾は、第二会社新株を一時的に旧会社で引受けた場合の議決権の行使の委任に関する事項であるが、この点はすべて持株会社整理委員会に委任し得るごとく、両者の見解を統一することを望むものである。

以上