連合軍総司令部の指示により昨年八月十五日制限附民間貿易を実施して以来丁度一年を経て輸出については、最低ドル建価格制の下に業者の責任においてなす直接取引が認められることになった。 また輸入についても、近き将来民間取引が開始される見透しであって、かくてわが国の製造業者ならびに貿易業者に自由活動の途が漸次開かれつつあることは、日本経済自立化への一歩前進として、われわれの大いに歓迎し、かつ深謝するところである。貿易の体制は、国内的にも、国際的にも、将来における為替レートの設定とともに、一層広範な自由取引が行われるようにならなければならない。ただしかし、今回の民間貿易取引の実施は、なお国内物資の欠乏状態に照応する経済統制の必要により、あるいは外国政府または業者の要求によって、自ら相当の制限を受けざるを得ず、政府間の取引に残されるものも少なくないであろう。したがって今回の民間貿易は自由貿易の端緒ではあっても、一方で政府間の取引が存続し、従来の貿易庁―公団方式の貿易手続と各々の実務とが民間取引と平行することになる。
思うに公団貿易方式は、所詮過渡的形態に過ぎない。したがって今回の一部民間直接取引の実施によって、公団の業務範囲がそれだけ縮小するのは当然であり、また今後も民間取引の拡大、為替レートの設定などに伴う貿易統制の必然的緩和等によって、漸次その機能を喪い、ついには公団のごときは廃止されるのを理想としなければならぬ。しかし現在の段階において直に公団を無用視し、あるいはその根本的改組を主張するのは甚だ早計のそしりを免れない。
われわれは、今回の貿易手続変更に伴ってなすべき最も妥当にして必要な措置は、概ね次のごときものであると考える。よってこれを関係当局の参考に供し、あわせてその実行を要望する次第である。
一、今回取引が政府間から民間に移行するに当っては、特に輸出貿易の促進のため、民間貿易の育成発達を期さなければならぬ。これについては就中公団より金融上の便宜を受け得なくなった業者の必要貿易資金を確保しうる措置を講ずるとともに、バイヤーとの契約、手続その他に関し適当なる指導斡旋機関を設けられたい。
一、民間貿易の拡大が行われても、所期の生産恢復が達せられるまでは、貿易統制を解く段階に至らないため、貿易庁の機能は依然として極めて大きいが、この機会になるべく貿易庁は従来のごとき貿易関係業務から純粋の行政機関に切り替えて、専ら貿易に関する計画を樹立しこれに従って貿易業者及び輪出関係産業に対する指導統制監督を行う方向に向うのが至当である。
一、従来貿易庁の実務機関たる公団については、民間貿易の実施とともに、その職能上不必要となった部門は当然これを廃止すべきであるが、形式的な統合整理や改組は、せっかく軌道に乗りかかっている機能を混乱に陥れ、その実務能力ならびに能率を低下させる原因となり、ために輸出を停滞させる惧れがあるから、急激にこれを行うことは避けられたい。
しかして将来政府間取引が大巾に民間取引に移され、公団の活用範囲が縮小され、公団数を減少することが要請される場合にも、現在の建前を尊重しつつ漸次その数を減らして行くのが実際的であると考える。なお貿易公団の執務振りについては民間に兎角の非難があるが、公団当局はこの機会にその改善に十分の意を注ぐべきである。
ただし右の場合、原材料貿易公団は、その事業の一部が配給公団である特性にかんがみ、他の貿易公団とは別個の取扱いをする必要がある。
一、民間貿易に移された分野についても、わが方の業者に貿易資金、資材ならびに諸般の危険負担等堪えがたい事情がある場合には、必要なる輸出貿易に関する限り、これを政府間貿易として従来の如く公団が活動しうる余地を残されたい。
一、わが国の貿易業者ならびに輸出関係産業の業者は、海外の市況について、専らバイヤーを通じてのみその状況を知る以外に別の方法をとりがたい現状においては、業者の利便をはかるため、業者の渡航、あるいは出張所を外国に設置することが切望される。なお現状においては、貿易庁の支所を主要貿易相手国もしくは海外市場に設置することが必要と考える。