貿易行政機構に関する意見

昭和23年11月26日建議公表
経済団体連合会

最近輸出貿易の振興が一段と強く要請せられつつある折柄、新内閣は貿易行政の全面的改革を意図しつつありと伝えられ、安本の貿易局、大蔵省の為替関係、外務省の通商関係等貿易と外資に関係する部門を一括して、海外経済庁のごときを新設の上、これを内閣の直属とし、その長官を閣僚たらしめて強力な発言権を持たせ、あるいは貿易庁の現業部門を貿易公団に移管し残りの貿易行政部門をもって内閣直属たらしめ前案同様にその長官を閣僚たらしめる等の案が流布されている。われわれは、この際、貿易振興の見地から行政機構にも再検討を加え、その運用の改善をはかることは固より賛成である。しかしわれわれは、伝えられる改革案についてその根據、利弊等を一通り検討した結果、大様左記のごとき諸点にかんがみ、かかる形態の改革は今日は未だその時期に非ずという結論に達した。ここに率直に意のあるところを披瀝して一般の参考に供し、特に吉田内開の善処を要望する次第である。

一、現在の貿易行政は、生産計画、資材の割当等生産に関する諸行政措置と切離してはなり立たない。このことは終連から現在の貿易庁に、貿易行政が移管される当時、この間の事情が十分に考慮されたものと考えられる。とくに最近、連合軍総司令部においても、繊維部門のごときは、生産部面における行政と貿易行政を組織上一本にしつつありと伝えられている際、わが方もまた、同様の方向に一層両者の関係を密接ならしめる必要をこそ認めるのであって、たとえば貿易実務部面と行政面とを分離せしめるとはいえ、これを商工省から切離して内閣に移管することは、果して行政上の不統一を来すことなきやが危惧される。

二、内閣に貿易行政のごとき現業庁を移管することは、一般的にいって行政事務の遂行上からも不適当といわなければならぬ。内閣の直属庁として、内閣が行政上の監督の任に当るのは、かえってその責任を、事実上弱める結果となる事を惧れる。

三、内閣移管ということが、万一政変の都度、貿易行政ないし貿易庁の運営に重大なる支障をおよぼすものであるならば、輸出振興上全く論外の沙汰である。特に貿易行政および貿易庁の業務は、国際的諸関係と密接な関係があるので、しばしば起ることの予想される政変と独立に、継続的に遂行されうる体制が望ましい。

もっとも貿易行政ならびに実務機関の長官が閣議に列席し発言をなすことについては異論がない。しかし閣僚として政治の動向に左右せらるるに至るであろうことは、当を得たものとはいい難い。

四、貿易行政あるいはその他の対外経済行政事務を一本にして強力ならしめることの趣意には賛同する。 われわれもまた、現行の貿易行政機構ならびにその実施力が弱体なること、また運用上満足しがたい点のあることを認める。ゆえに、強力にして実効ある輸出増強のための新制度が、果敢に採用されることを要望するものであるが、その具体的方策については、諸般の行政関係を十分に考慮して、ただちに実効をおさめ得るものたらしめるよう政府部内に、民間人をもまじえた民主的な機構改革審議会を設置し、慎重に研究をすすめられたい。

これを要するに、行政機構の改革は当にその過渡期において事務の混乱を惹き起こし易いことに十分の注意を払い、現在のごとき過渡的貿易形態の下にあっては、当面輸出伸展の実際的施策に重きを置くと同時に、機構の改革についても、当面の輸出振興に弊害を来さざるよう注意することが肝要である。

以上