当面の政策課題と税制の役割


膨大な経常黒字、累積する財政赤字、バブル崩壊の影響などわが国経済を取り巻く環境は 非常に厳しく、その一方で国民の価値観が多様化するなど、経済運営は困難の度を増して いる。このような中、経済政策については多面的に取り組む必要があり、税制の役割は 今まで以上に高まっている。 という3つの基本的な政策課題の解決に向けて税制の活用を図るべきである。

豊かな高齢化社会の実現に向けた対応

経済活力の源泉は、勤労者であり消費者でもある国民が安心して働き、生活できる社会を 築くことである。

高齢化社会において勤労者の「働く意欲」を失わせないためには、中堅所得層の痛税感を 更に緩和するとともに、夫婦合算申告制度(二分二乗方式)の導入等により共働き家庭の 税負担を見直す必要がある。

現在、わが国企業は、雇用の確保、退職後の生活保障、従業員の健康管理、更には住宅の 提供など社会保障の一部を肩代わりし、国際的に見て効率的なわが国の社会保障制度の 一翼を担っている。今後もその役割を果たすことが求められるが、政府は、この実態を 踏まえて、税制面の整備を行うべきである。具体的には、企業が従業員の福祉への備え として行っている退職給与引当金制度の拡充、賞与引当金制度の維持、企業年金に係る 特別法人税の撤廃を行う必要がある。とりわけ退職給与引当金については、最近の雇用 情勢から見ても、年金現価から見ても、著しい積立不足となっていることを忘れては ならない。

あわせて、国民一人一人が行う自助努力に対しても、個人年金に係る所得控除制度の整備、 生命保険料控除の拡充などの支援を行う必要がある。逆にこれに対する課税強化は、 大衆課税につながる。

限りある土地を有効に活用し、国民が豊かさを実感できるゆとりある生活空間を整備して いくことが求められている。そのためには、土地の需給逼迫状態を改善するための 宅地供給促進策、円滑な土地利用の転換策、機動性・弾力性を備えた金融政策など総合的な 施策を講ずる必要がある。税制面では、広い空間を持つ、質の高い住宅の取得を支援する ため、住宅取得促進税制や個人住宅の買換特例などを拡充すべきである。

経済の活性化と雇用確保のための税制の活用

高齢化社会への対応を考えることはもとより必要であるが、日本経済の活力が失われれば、 すべての前提が崩れてしまう。福祉社会の実現には、わが国経済の活性化を図り、雇用を 確保することが大前提である。国際的にみて過重になっている法人税は、経済の活性化の ためはもとより、高齢化への対応、国際的ハーモナイゼーションの見地からも軽減が不可欠 である。

国際的にみてわが国の法人の実質税負担が著しく重い上に、先に述べた社会保障のための 負担も加えれば、企業負担は諸外国に比べて飛び抜けて重いものとなっている。これに 加えて、ファンダメンタルズから見て過大な円高の進行により、企業の海外進出が急増し、 産業の空洞化が急速に進みつつある。空洞化によって、雇用の機会が失われれば、深刻な 社会不安が生じかねない。このような事態を回避し、企業の雇用吸収力を確保するには、 国・地方を通じた法人関係税の税率を引き下げるとともに、企業会計上義務づけられている 引当金制度を維持・拡充することによって、法人の実質税負担の国際的な イコールフッティングを実現する必要がある。

租税特別措置は一部に大企業優遇という誤った認識があるが、これは事実に反する。しかも 近年の見直しにより、その規模は毎年縮小されてきている。政策税制は、政策目的に適った 企業努力の成果に対して恩典を与える結果重視の制度であり、政策目的を実現する上では 補助金などよりも有効な制度である。既に役割を終えたものを廃止するなどスクラップ・ アンド・ビルドは当然であるとしても、政策手段としての意義を無視して財源捻出のために 縮減することは適当ではない。

景気に明るさは見えるものの、設備投資は回復せず、雇用も厳しい情勢が続いており、活力 ある経済とは程遠い状況にある。先に景気対策としてとられた長期保有土地の減価償却資産 への買換特例、投資促進税制などについては、引き続き経済活性化税制として拡充・延長を 図るべきである。

また、わが国産業が空洞化を回避しつつ、新天地を切り開いていくためには、研究開発を 促進するための増加試験研究費の税額控除制度の拡充、高度情報化を推進するための支援 税制の創設、新たな市場・雇用を生み出す新事業・新企業の創成を支援するための税制措置 の創設など前向きの活性化対策が不可欠である。

バブルの後遺症を1日も早く払拭し、中長期的に安定した成長を維持するためには、繰入率 を大幅に上回って貸倒が急増していることに対応して貸倒引当金制度の拡充などを図るべき である。

景気回復への力強さが感じられないのは、円高と並んで資産デフレが背景にあるためである。 経済を本格的な回復軌道に乗せるためには、健全な市場原理による合理的な地価形成が 行われる必要がある。しかるに、わが国の土地税制は、バブル期を通じて臨時的、応急的な 税制措置が積み重ねられたため、過重な負担によって土地市場を崩壊させている。そもそも、 バブル期に生じた異常な地価の高騰は、本来、住宅等の供給促進策や金融政策によって対処 されるべきであった。固定資産税と地価税を合わせた土地保有税負担は、経常利益に比べて 過大となっており、地価が正常なトレンドに復した現在、土地税制を抜本的に見直す必要が ある。

土地保有税については、固定資産税が平成6年度の評価替えに伴って大幅に増大したため、 負担能力を超えた極めて重い負担となっている。固定資産税については、その本来の性格を 考慮して、評価に対する考え方ならびに評価水準を適正化するとともに、負担調整措置の 拡充等を行うべきである。

地価税は、固定資産税との二重課税となっている上、生産手段として既に有効活用されている 土地にも課税され、また業種や地域によって負担に偏りがあるなど、地価を抑制し、また 土地の有効活用を図るという政策目的にそぐわない税である。このように地価税は税理論に 反しており、その存在は税制そのものに対する信頼を損なうものであって、廃止に踏み切る べきである。

石油関係諸税については、国際的に見て極めて重い上に消費税が単純併課されていることに よって最近の原油価格の2倍にも達する過重な負担となっており、しばしば産油国からも 批判されているところである。あまりにも過大な石油に対する課税は、エネルギーコストの 高騰を通じて、国民経済に甚大な悪影響を及ぼしており、石油関係諸税の軽減を図るべきで ある。

グローバル時代に相応しい税制の整備

わが国経済は否応なくグローバル・エコノミーに巻き込まれている。この潮流の中で、 わが国経済が活力を失わないためには、税制面において国際的整合性を図ることが極めて 重要である。

近年、わが国の金融・証券市場の空洞化が懸念されているが、その大きな要因の一つが取引 コストを増大させている税制にある。空洞化を回避し、金融・証券市場の活性化を図るには、 先進諸外国ではほとんど見られない有価証券取引税の撤廃や、わが国においては十分に 行われていない配当に係る二重課税の排除を行うなど税制面において国際的整合性を確保 すべきである。更には、本年、解禁された自己株式取得を円滑に進める上からも、みなし 配当課税を撤廃する必要がある。

最近では、分社化・子会社化が進んでおり、企業経営の実態を正確に捉えるため、連結決算が 重視されている。税制面においても、先進諸外国では連結納税制度が一般的となっており、 わが国においても同様の制度の導入を図ることは、税制の国際的なハーモナイゼーションを 実現する上で不可欠である。また、諸外国に比べて整備が立ち遅れている合併・分割税制の 整備が必要である。

経済の国際化により、わが国企業の対外進出が活発になっているおりから、海外進出した 企業の税負担が過大とならないよう、外国税額控除制度の拡充などを図る必要がある。また、 移転価格税制をはじめ国際租税制度は、国際的な調整が特に求められる分野であり、各国間の 協議の場であるOECDにおいて引き続き調整を図る必要がある。

国際摩擦を解消し、また円高を是正するという観点から、製品輸入の促進、資金還流の促進が 必要であり、製品輸入促進税制や海外投資等損失準備金制度などの拡充を図るべきである。

政治・行政改革と税制

政治改革を進める上では、政治資金を公的助成と個人献金で賄っていく仕組みを確立していく 必要がある。個人からの政治献金を促進するため、税制面からも環境整備を検討する必要が ある。

行政改革、規制緩和の一環として、地方税における一括納付制度の導入や法人税等に係る 帳簿保存義務の見直しなど、税務処理を簡素化、合理化していく必要がある。


日本語のホームページへ