円滑で効率的な輸送の実現に向けて
─ 交通基盤整備のあり方 ─ 〔概要〕

1995年3月1日
社団法人 経済団体連合会


  1. 基本的考え方
  2. (1) 戦略的な整備計画の策定と重点的な投資の実施
    交通基盤整備は1億2千万人の国民の生活や世界第2の経済大国の産業活動を支えるという観点から、重要度の高い政策分野である。 限られた財源の中で、21世紀に向け交通基盤の整備を効率的に進めていくためには、国及び地方自治体が、広域的な地域の特性や住民、利用者のニーズ、事業者の意向などを踏まえ、「快適性」、「安全性」、「資源・エネルギー利用の効率性」、「環境保全性」、「国際性」、そして「高齢化への対応」などに配慮して交通ネットワークを形成するという視点に立ち、戦略的な交通基盤整備計画を幅広く議論する場を設け、そこで得られた結論をもとに重点的な投資を実施していくシステムを構築していくことが重要である。
    今後の交通基盤整備に当たっては、以下の点が重要である。

    1. 国・地方を通じ公的な負担を拡大して十分な財源を確保すること(特に地方自治体の自主財源の強化)
    2. 一般公共事業費配分を大胆に見直すこと
    3. 円滑な輸送を妨げるボトルネックを打開する基盤や地域間の交流人口を増大させる基盤の整備に重点化すること
    4. 整備体制について総合調整が図れる体制とすること (各種特別会計の制度上の均衡の確保、交通基盤総合会計の創設、総合交通省への統合・簡素化等の検討)
    5. 国・地方自治体、事業者、利用者、開発利益享受者などの費用負担のルールを明確化すること、 特に公共料金を極力抑制する観点から、利用者の負担軽減方策を幅広く検討すること
    6. 地方自治体が中心となって必要な交通基盤を選択し自ら整備を行う新たな整備手法の構築を図ること
    7. 各交通基盤の整備主体のあり方を見直すこと
    8. 限られた財源を効率的かつ有効に活用するため用地取得方法の多様化、各基盤整備の低コスト化と高品質化、 メンテナンス技術の向上に積極的に取り組むこと
    9. ナショナルセキュリティ確保の観点から、施設の耐震性を強化するとともに、多重的な交通基盤の整備に努めること

    (2) 内外価格差問題への対応
    人流、物流の共通課題である内外価格差の問題に取り組むには、まずその実態把握に取り組むとともに、 各種交通基盤の整備に加え、諸規制の緩和などソフト面からの対策の実施を通じて、輸送事業の生産性を向上させることにより対応すべきである。ソフト面の対策としては、以下の点が重要である。

    1. 経済的規制の緩和・撤廃を図るとともに、社会的規制も国民、企業の自己責任原則の徹底を図ったうえで着実に緩和していくこと
    2. 取引商慣行を改善し、取引に係わるコストの削減に努めること
    3. 複合一貫輸送を担う輸送事業者に対して金融・税制上必要な支援措置を講ずること

  3. 各交通基盤の整備を巡る当面の諸課題
  4. (1) 道路
    地域社会の活力を維持するためには、今後とも道路整備を着実に推進することが必要である。 全国プール制を堅持する一方で、国の一般財源の投入拡大を図るとともに、地方自治体独自の財源を弾力的に投入できるようにするなど有料道路財源のあり方を見直していくべきであり、適正な料金水準を実現する観点から用地費の取扱いの変更を検討すべきである。
    また高速道路料金低減につながるよう永久有料制等、新たな仕組みの導入も検討すべきである。
    なお車両の大型化は物流効率化や労働力不足への対応等の観点から重要な意味を持っており、早急に橋梁強化などの道路改善を進め、新規制値で通行可能な区間の拡大に努めるとともに、将来的には、海上コンテナ等の積載も可能な大型車両の通行が可能となるよう、車両の総重量や高さなどに関する規制を諸外国の規制を参考としつつさらに見直すべきである。

    (2) 港湾
    わが国の港湾が今後アジアのハブ港としての機能を取り戻すことは重要な課題であり、 いわゆる三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)や北部九州等のわが国を代表する港湾の重点的な整備を進める。特にコンテナターミナルの大型化を推進し、輸入対応型ヤードや高能率荷役システムを備えた後背地とのアクセスの良いターミナル整備を進めるべきである。ソフト面では、(1)内航貨物と外航貨物を同一埠頭で取り扱えるようにすること、(2)日曜日の荷役を可能にすること等により競争力の回復を目指すべきである。また震災等の大災害に備えた海上ルートの確保、耐震性強化岸壁の整備も重要である。

    (3) 鉄道
    鉄道は省資源・省エネルギー型の交通基盤で、環境保全性、安全性にも優れていることから、 その着実な整備を図るためには、事業者の設備投資負担を相対的に減らすことが何よりも重要である。したがって今後は鉄道整備基金を拡充していくなど国の鉄道整備に対する関与を深めていくべきである。

    1. 通勤新線の建設に当たっては、地下鉄建設と同様に建設費に対する直接補助の拡充等国の関与を深めること、 資金調達方式の多様化を図ること、などが重要である。
      また民営鉄道の設備投資についても、公的補助をさらに拡充するとともに、地方自治体が複々線化工事等の早期実現に協力すべきである。
      一方整備新幹線については、わが国の背骨となる幹線であることから、基本的には全線フル規格での早期開通が期待されるが、当面は整備の時期、手法等を選択するかたちで漸進的に進めていくことが適当である。

    2. 鉄道貨物の抜本的な輸送力増強のためには、経営母体である貨物鉄道会社の経営基盤強化とともに新たな貨物鉄道基盤の整備が必要となる。 当面、輸送力増強に向けた新たな基盤の整備について、その実現方策の検討を急ぐことが不可欠であり、整備新幹線が建設される区間においては貨物列車通行ルートを確保することが求められる。

    (4) 空港
    羽田の沖合展開、成田の二期工事、関西の全体構想、さらに中部新空港の建設といった大規模プロジェクトに対応するためには、 現行の公共事業費のシェアを大胆に見直し、国の一般財源の大幅な投入拡大により、国の責務としての戦略的重点投資を行っていくことが求められる。またこれら国家的プロジェクトであっても、開発利益の吸収・還元を実現すべきである。
    航空会社が航空機燃料税や着陸料を負担し、最終的に運賃・料金に転嫁される受益者負担の方式は既に限界にきており、受益者負担の軽減を図る意味からも、空港使用料水準の検討がなされるべきである。
    また羽田については、現行の沖合展開計画を着実に進めることが重要であり、加えて既存空港を含めた首都圏における処理能力拡大につながる空港整備のあり方についても合意形成を図ることが求められる。加えて国内線と国際線のネットワーク接続を首都圏においてどのように達成していくかについて、検討を急ぐべきである。

  5. 交通基盤整備の財源のあり方
  6. (1) 交通基盤整備計画のあり方 〜地域を中心とした計画の策定、重点投資の推進〜
    今後の交通基盤整備計画は、以下の2段階で策定すべきである。
    1. 国全体としてモード横断的な「総合交通基盤整備計画」を国及び地方自治体が共同で策定、それに基づき重点的な財源配分を行うこと
    2. そのうえで地方自治体が地域整備計画を策定し推進すること

    自律的な地域の発展を図るためには、各地域における高速交通体系の整備は重要な課題であるが、高齢化社会の到来を控え、従来の右肩上がりの経済成長を前提に交通基盤整備を進めることは事実上困難であり、限られた財源の有効活用という観点から、例えば「広域的な地域の交通体系をどうすべきか。地域の交通基盤整備の戦略をどうするか」といった検討を十分行い、各地域が自ら投資効果を高めていく方法を考えていかなければならない。

    (2) 交通基盤整備負担のあり方
    財源問題を考えるに当たり、以下の点を解決する必要がある。
    1. 土地資産価値の上昇に代表される開発利益を広く吸収し、整備財源として還元すること、 また今後の交通基盤整備に際し、固定資産税等土地保有に関する税収を原資とするなど、一般財源の投入を拡大すること
    2. 近年、諸外国では鉄道基盤・施設の建設・保有と運行業務の経営主体を分離する いわゆる「上下分離」システムが導入されるようになってきており、今後わが国の鉄道整備においても、運行業務のみを行う第二種事業、線路を保有して他者の用に供する第三種事業等の活用も含め基盤整備・費用負担のあり方を考えていくこと
    3. 今後もプール制を維持し高規格幹線道路網の整備推進を図っていく必要があるが、 その運用に際しては、地域間・利用者間の費用負担と受益の関係に著しい不平等が発生することを防ぐこと、空港整備に関しては、プール制や種別制度に基づく空港整備負担率のあり方を見直し、明確なプライオリティーをつけた戦略的な重点投資計画を策定していくこと

  7. 物流円滑化に向けた多面的な取り組み
  8. 将来における労働人口の減少、環境・エネルギー問題への配慮等を勘案し、複合一貫輸送を実現することを通じて円滑で効率的な物流の実現に向けた取り組みをこれまでにも増して多面的に推進していく必要がある。
    (1) 複合機能ターミナルの整備と共同配送の推進
    モード間の連携を強化し輸送の効率化を図るためには、物流の拠点やターミナルについて、 各交通基盤の整備状況を考慮しながら整備を進めていく必要がある。各モードが結節する地点への大規模な複合機能ターミナルの建設やそうした拠点への事業者誘導を進め、また荷主のニーズに対応する観点から、物流事業者間の協力体制を強化する必要があり、共同配送をより一層推進していく必要がある。

    (2) 複合一貫輸送に適合する輸送モードへの支援
    複合輸送に対する行政の支援策として、複合一貫輸送を担うモードに対する税制上の優遇や種々の規制緩和等を図るべきである。

    (3) ユニットロード化の推進と荷役作業等労働環境の改善
    物流の効率化を妨げている運転手の手荷役や船員の長時間労働は、業界の労働力確保のネックとなっている。 今後は一貫パレチゼーションなどのユニットロード化とこれに伴う荷役作業の合理化といった労働環境の改善を一層推進し、物流の効率化と労働時間短縮を進めていく必要がある。

    (4) 商慣行の改善によるトラック事業の生産性向上
    トラック事業における生産性の向上はトラック事業者の努力だけでは困難であるため、 荷主とトラック事業者が相協力して、物流の取引商慣行を改善するなど、積極的な取り組みを行っていくべきである。
    商業貨物の効率的な輸送を実現するため、荷主は自らの必要性に応じ、余裕のある配送時間の指定を行う必要がある。これに対応してトラック事業者も複数の小口配送貨物の計画的な積み合わせを行うなど、輸送の効率化を強力に推進していくべきである。

    (5) 荷さばき・駐車に配慮した都市づくり
    ビル等における積み卸しのほとんどは路上で行われており、渋滞や物流効率の低下の要因となっている。 今後は荷さばき場などを道路整備の際に一体的に整備するとともに、一定規模以上のビルに対してトラックの集配用駐車スペースなど建物の地下等において物流専用の施設を予め設けるよう、政策的に誘導すべきである。

    (6) 物流円滑化に資する技術開発の強化
    物流の円滑化につながる複合一貫輸送やモーダルシフトを促進するためには 鉄道や海運など今後の期待が高いモードの技術開発の推進が不可欠である。
    具体的には、オンレールトレーラーやテクノスーパーライナー、石油パイプラインの活用を可能とする技術開発を急ぐべきである。


日本語のホームページへ