証券市場活性化に関するわれわれの見解
─ 市場不振打開のための緊急対策 ─

1995年4月3日
社団法人 経済団体連合会


経済の心臓部ともいうべき証券市場が不振を極め、発行市場が閉塞状態にあることは、わが国経済界全体にとって重大な問題である。証券市場の極度の不振と厳しい円高の悪循環が続けば、重大な雇用問題を引き起こし、さらには、日本経済の崩壊にもつながりかねないと憂慮される。
現在の市場低迷が、景気立ち直りの遅れ、急激な円高、金融システムの不安定と密接に絡み合っていることを考えれば、市場活性化のための対策は、それら全般を見据えたグランドデザインに基づく総合的な対策でなければ効果を期待できない。
そもそも、株式会社制度のもとで、株式による資金調達と資金運用は、企業にとっても国民にとっても、きわめて重要な意義を持つ。にもかかわらず、株式投資を罪悪視する風潮が見られることは誠に遺憾である。株式投資の有用性に対する適切な認識と正しい株式投資への教育の徹底によって、このような誤った風潮を払拭し、意識改革をはかるべきである。そのことによって投資層を拡大し、市場に厚みを加えるとともに、投資家の自己責任原則に支えられた自由闊達な市場を作り上げることが市場活性化策の基本である。
われわれは、以上の基本認識のもとに、経済界の総意として、政府が事態の緊急性を認識し、果敢に総合的な対策を講ずるよう求めるとともに、経済界自身としても、自ら実行すべき対応措置を講ずる決意である。

【記】

(1) 景気回復こそ市場活性化の王道

市場の低迷と景気立ち直りの遅れは、表裏一体の関係にある。この際、景気の本格的な回復のために、阪神大震災の復興対策はもとより、円高の是正、規制緩和、公共投資基本計画630兆円の前倒し、税制、金利政策など、従来の発想を超えたあらゆる対策を総動員して、内需の拡大をはかるべきである。そのことによって、景気の本格的な立ち直り・企業業績の回復が実現することこそ、株式市場活性化の王道である。

(2) 抜本的な金融措置

金融システムに対する不安感が市場関係者にとって心理的な足かせになっていることを考えれば、これを一日も早く払拭すべく関係者が最善の努力を払うべきである。あわせて、郵便貯金の急激な膨張、コ−ル市場の肥大、低調なマネ−サプライを是正するなど、膨大な貯蓄余剰が国民経済のなかで円滑かつ適正に循環するよう金融政策面の配慮も不可欠である。とりわけ、コ−ル市場の資金量が42兆円にものぼり、しかも長期に運用されるべき資金が多量に流入している現状を改め、資金が株式市場に循環するよう適切に誘導することは即効性のある市場対策である。

(3) 規制緩和と税制改革

株式ならびに社債市場については、既に店頭登録制限、適債基準ならびに財務制限条項の撤廃等々、規制緩和が講じられつつあるが、さらに、抜本的な規制緩和が不可欠である。グロ−バル・スタンダ−ドに基づく市場の効率化を実現するため、時価発行増資に関するル−ルの撤廃など徹底した規制緩和を進め、市場原理が働く市場にするとともに、有価証券取引税や配当の二重課税を撤廃し国際的に整合のとれた証券税制を確立する必要がある。また、関係業界の協力を得て、取引コストの軽減にも英断を求めたい。
また、わが国経済活性化の基本となるベンチャ−・ビジネス育成のため、米国のNASDAQに匹敵する、自由闊達な、新しい店頭市場の育成にも早急に取り組むべきである。

(4) 発行会社たる企業の対応

発行企業においても、これまでの意識を思い切って改める必要がある。
企業としても、自己責任原則に裏付けられた信頼される市場形成のために、ディスクロ−ジャ−の一層の充実をはかるとともに、投資魅力の向上のために、また、買入消却をふくめ株式市場における需給改善のために、思い切った対応が必要である。具体的には、広く個人投資家層を市場に引きつけるため、株主への利益還元を重視した経営姿勢への転換、配当水準の引き上げ等を行うとともに、投資単位を引下げ、より多くの個人投資家にとって参加しやすい市場へ向けての環境整備を行う必要がある。
優良子会社の上場についても企業は積極的に協力すべきであり、そのための条件整備の一環として諸規制を緩和すべきである。
昨年の商法改正で、自己株式取得の規制が緩和されたが、実務上のネックとなっているみなし配当課税を撤廃し、買入消却促進へ向けての環境を整備すべきである。企業としても、新しい制度を積極的に活用し、買入消却によって株式の需給バランス改善に協力することが望まれる。


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