一方わが国では、急速な円高の進行により生産拠点の海外移転が加速し、産業空洞化が現実のものとなりつつある。21世紀に向けて、わが国産業をリードする新産業を育成し、産業構造の転換を円滑に進めることが求められる。そのためには国際分業の新たな姿を追求する必要があり、APECへの積極的な参加や環日本海経済圏の構築といったアジア・太平洋諸国との交流拡大・連携強化に向けた取り組みが極めて大きな意義を持つようになろう。
そうしたなかで、内外からの要望に応え得る、余力のある大規模拠点空港を整備していくことは、国の将来に対する備えとなる。したがって今後は、大規模拠点空港を国際的な競争・共生の拠点として位置づけ、その重点整備を急ぐ観点から、21世紀を見据えた空港整備計画を確立することが何よりも重要である。
空港を利用者や航空事業者のための施設にとどめることなく、一般市民に対しても開かれた都市として整備し、併せて臨空型の各種産業を誘致することは、空港建設のメリットをより効果的に地域に波及させる方策として有効である。政府においても、将来におけるわが国社会経済の活性化に資する大 規模拠点空港の整備に一般財源を重点投入する方針を打ち出すべきである。
なお、南北に長く、大地震などの自然災害を常に想定しておかなければならないわが国の国土・地理的条件を考慮すれば、国内線・国際線の接続機能を完備した大規模拠点空港は複数整備される必要がある。大規模拠点空港は、災害に強い国土づくりや新たな国土軸・地域連携軸形成の一翼を担っていくものであり、国、地方をあげた取り組みが期待される。
こうした競争環境が整備されるなかで、航空事業者は利用者に対し、より低価格で質の高いサービスを提供していくことが求められてくる。余裕のある空港容量のもとで自由な競争が展開されていけば、現在進められている航空運賃・料金、運航サービス等に係わる規制緩和の効果が顕在化するのみならず、さらに思い切った規制緩和を進めることが可能となろう。空港容量の拡大は、いわば航空事業者間の競争促進を現実のものとし、利用者の便益を増大させる有効な手段と位置づけることができる。
また空港容量の拡大は、経済的にも大きな波及効果をもたらす。試算では、2010年時点で、新東京国際空港(成田)の2期工事の完成や首都圏第三空港の具体化、東京国際空港(羽田)の管制見直し等による発着回数の拡大、関西国際空港の2期工事、中部新国際空港の完成が実現した場合、潜在的に航空利用を指向していた旅行者が実際に航空を利用することが可能となり、その運賃、宿泊費などの拡大を通じて年間約3兆 9,500億円にのぼる生産誘発効果が期待される。
具体的には、まず各社会インフラごとの縦割り整備を助長してきた各種の特別会計制度を改めて点検し、国民のコンセンサスの得られる優先度の高いインフラ整備に、相対的により多くの一般財源が配分されるよう、それぞれに対する一般財源の投入のあり方を相互に調整していくことが求められる。
空港については、国民の多くが航空を内外地域への移動の手段として日常的に利用するようになってきていること、また21世紀に向けわが国が積極的に整備を進めるべき基幹的インフラであることなどを考慮し、これまでにない思い切った一般財源の投入を図るべきである。またその際、直接・間接に便益を受ける地域側の負担についても留意することが重要である。特に地方自治体の税収を通じた開発利益の吸収・還元を実現することが不可欠である。
また、国民の内外価格差是正に対する関心が高まっているなかで、国際線・国内線の空港使用料等をできるだけ国際水準に近い水準に設定することも重要な課題である。
むろん、開港後の採算性を向上させる観点から、空港建設費そのものを抑制する対策を講ずることも不可欠である。とりわけ海上空港については、浮体工法等の新技術をいち早く採用し、少ない建設費で機能の充実した空港の整備を進めていくべきである。