今後の空港整備のあり方
−大規模拠点空港に重点を置いた空港整備計画の策定を求める−

1995年5月16日
社団法人 経済団体連合会


2.21世紀を見据えた空港整備の必要性

  1. 重点化を指向した空港整備計画の策定
  2. アジア・太平洋諸国の経済成長が加速し、グローバルな“大競争時代”に突入している。そうしたなか、アジア近隣諸国などで進められている大規模拠点空港の整備は、いずれも21世紀の航空需要を念頭に置いた中長期的戦略に基づくプロジェクトである。経済発展のボトルネックとなりかねない空港容量の不足を回避するため、国の強力なリーダーシップの下で新たな大規模拠点空港の整備が進められているのが各国の実態であろう。

    一方わが国では、急速な円高の進行により生産拠点の海外移転が加速し、産業空洞化が現実のものとなりつつある。21世紀に向けて、わが国産業をリードする新産業を育成し、産業構造の転換を円滑に進めることが求められる。そのためには国際分業の新たな姿を追求する必要があり、APECへの積極的な参加や環日本海経済圏の構築といったアジア・太平洋諸国との交流拡大・連携強化に向けた取り組みが極めて大きな意義を持つようになろう。

    そうしたなかで、内外からの要望に応え得る、余力のある大規模拠点空港を整備していくことは、国の将来に対する備えとなる。したがって今後は、大規模拠点空港を国際的な競争・共生の拠点として位置づけ、その重点整備を急ぐ観点から、21世紀を見据えた空港整備計画を確立することが何よりも重要である。

  3. 大規模拠点空港整備に対する財源の重点投入
  4. わが国では予てより、国土の均衡ある発展を目指し、研究開発機能や業務・商業機能の分散・集積を促進する諸施策が展開されてきたが、今後は大規模拠点空港を地域開発や産業振興の中心に据え、わが国の社会経済全体の活性化を図っていくべきである。そうした観点から、大規模拠点空港の整備と周辺の都市づくりや産業基盤、さらには交通アクセス等の整備を結びつけた総合的な地域開発計画を地域の自治体や経済界のイニシアティブで策定し、具体的にプロジェクトを推進していくことが必要である。

    空港を利用者や航空事業者のための施設にとどめることなく、一般市民に対しても開かれた都市として整備し、併せて臨空型の各種産業を誘致することは、空港建設のメリットをより効果的に地域に波及させる方策として有効である。政府においても、将来におけるわが国社会経済の活性化に資する大 規模拠点空港の整備に一般財源を重点投入する方針を打ち出すべきである。

    なお、南北に長く、大地震などの自然災害を常に想定しておかなければならないわが国の国土・地理的条件を考慮すれば、国内線・国際線の接続機能を完備した大規模拠点空港は複数整備される必要がある。大規模拠点空港は、災害に強い国土づくりや新たな国土軸・地域連携軸形成の一翼を担っていくものであり、国、地方をあげた取り組みが期待される。

  5. 空港容量の拡大と競争促進を通じた利用者の便益増大
  6. わが国では、国内線、国際線ともに現実に極めて大きな航空需要が存在する。試算では、今後、三大都市圏の空港容量を拡大していけば、2010年時点で三大都市圏を出発地とする航空需要(出発便ベース)は、概ね国内線で現在の1.6倍、国際線で2.7倍になると見込まれる。この需要を満たすためには、
    1. 首都圏において新東京国際空港 (成田) の2期工事の完成、首都圏第三空港の具体化、東京国際空港(羽田)の管制見直し等による発着回数の拡大、
    2. 関西圏において関西国際空港の2期工事の完成、
    3. 中部圏において中部新国際空港の完成、
      が必要である。またこれらに加え、
    4. 方面別ゲートウェイとしての新千歳空港の拡充や東北地域における新国際空港の検討推進、現在構想中の九州国際空港の具体化、さらには中国、北陸等地域における拠点空港の整備、
    を進めていけば、わが国全体の空港容量は飛躍的に拡大し、内外航空事業者の乗り入れ増大を通じて、効率的な航空ネットワークの構築が図られよう。

    こうした競争環境が整備されるなかで、航空事業者は利用者に対し、より低価格で質の高いサービスを提供していくことが求められてくる。余裕のある空港容量のもとで自由な競争が展開されていけば、現在進められている航空運賃・料金、運航サービス等に係わる規制緩和の効果が顕在化するのみならず、さらに思い切った規制緩和を進めることが可能となろう。空港容量の拡大は、いわば航空事業者間の競争促進を現実のものとし、利用者の便益を増大させる有効な手段と位置づけることができる。

    また空港容量の拡大は、経済的にも大きな波及効果をもたらす。試算では、2010年時点で、新東京国際空港(成田)の2期工事の完成や首都圏第三空港の具体化、東京国際空港(羽田)の管制見直し等による発着回数の拡大、関西国際空港の2期工事、中部新国際空港の完成が実現した場合、潜在的に航空利用を指向していた旅行者が実際に航空を利用することが可能となり、その運賃、宿泊費などの拡大を通じて年間約3兆 9,500億円にのぼる生産誘発効果が期待される。

  7. 純粋一般財源の投入拡大と開発利益の吸収・還元
  8. 大規模拠点空港の整備を進めていくためには、極めて膨大な財源を安定的に確保することが前提となる。わが国では、今後本格的な高齢化・少子化への道を辿るなかで、租税等国民負担率の上昇と財政の逼迫が同時に進行していく。そうした状況のなかで、国民にとって真に必要な社会インフラを効率的に整備していくためには、メリハリのある財源配分を行うことが必要である。

    具体的には、まず各社会インフラごとの縦割り整備を助長してきた各種の特別会計制度を改めて点検し、国民のコンセンサスの得られる優先度の高いインフラ整備に、相対的により多くの一般財源が配分されるよう、それぞれに対する一般財源の投入のあり方を相互に調整していくことが求められる。

    空港については、国民の多くが航空を内外地域への移動の手段として日常的に利用するようになってきていること、また21世紀に向けわが国が積極的に整備を進めるべき基幹的インフラであることなどを考慮し、これまでにない思い切った一般財源の投入を図るべきである。またその際、直接・間接に便益を受ける地域側の負担についても留意することが重要である。特に地方自治体の税収を通じた開発利益の吸収・還元を実現することが不可欠である。

    また、国民の内外価格差是正に対する関心が高まっているなかで、国際線・国内線の空港使用料等をできるだけ国際水準に近い水準に設定することも重要な課題である。

    むろん、開港後の採算性を向上させる観点から、空港建設費そのものを抑制する対策を講ずることも不可欠である。とりわけ海上空港については、浮体工法等の新技術をいち早く採用し、少ない建設費で機能の充実した空港の整備を進めていくべきである。

  9. 空港アクセス等を重視した空港の整備
  10. 空港整備に当たっては、利用者利便の視点に立ったアクセス整備が不可欠であり、空港整備と整合のとれたアクセス整備事業が進められることが望ましい。空港整備全体としての投資効率にも配慮しながら、旅客・貨物両面のアクセス手段、さらにはパイプライン等の航空機燃料供給施設の整備をも網羅した総合的な整備計画を策定し、一体的に推進していくことが必要である。


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