今後の空港整備のあり方
−大規模拠点空港に重点を置いた空港整備計画の策定を求める−

1995年5月16日
社団法人 経済団体連合会


3.空港整備財源、並びに制度の見直し

  1. 財源措置のあり方
  2. 前述の通り、21世紀に向けて、複数の大規模拠点空港の整備を促進するためには、現行の公共事業費のシェアを大胆に見直し、国の一般財源の大幅な投入拡大により、国の責務として重点投資を行っていくことが求められる。

    また、東京国際空港(羽田)の沖合展開事業に投入された財投からの借入金(最終的には1兆円超)の償還が第7次空整期間以降、本格化することにより、空港整備特別会計の収支余力が弱まっていくと見込まれる。着工から完成まで長期間を要する空港整備事業の特性を踏まえ、今後の財投資金の新規投入については、慎重に考えるべきである。少なくとも建設期間中においては、多額の有利子資金の投入は避けるべきであり、一般財源や無利子融資等の拡大により対応すべきである。なお、実行済み財投資金も含め、その借入期間、元本返済開始時期等の借入条件の見直しを図ることも重要である。

  3. 開発利益の吸収・還元のための具体的な仕組みづくり
  4. 交通インフラの整備に関わる費用は、多様な受益をできるだけ適正に反映したかたちで負担されるべきである。空港整備も例外でなく、開発利益の吸収・還元のための具体的仕組みを早急に確立する必要がある。

    1.ターミナル事業との一体化
    健全な空港経営を実現するためには、空港ごとの収支を明らかにするとともに、ターミナルビルに入居する店舗等からのテナント収入など、航空機の離着陸に直接関連のない事業からの収入も空港施設整備費に充てることができるよう、事業を一元化する方向で検討すべきである。これにより、空港施設整備主体の事業収入の多様化が図られ、各空港ごとの収益力に見合った投資が行われ、経営基盤の強化が図られることが期待される。現に欧米やシンガポールをはじめとする諸外国では、ターミナル事業の関連収入が空港の維持管理費用の多くを賄っており、わが国においても、特に今後の大規模拠点空港の整備に当たっては、空港整備事業とターミナル事業とが一体となった空港運営を実現していくべきである。

    2.周辺開発事業との一体化
    空港用地造成事業と周辺開発事業とを併せて行うこともまた、開発利益の吸収・還元のための有効な方策となり得よう。この手法は財源調達の観点のみならず、空港建設に伴う経済的波及効果を極大化し、地域の新たな発展の起爆剤とするという面でも期待が大きい。

    具体的には航空・宇宙関連産業や軽量・高付加価値製品を生産する臨空型先端産業の誘致、フォーリン・アクセス・ゾーン制度を活用した外資系企業の誘致等が考えられる。その際、空港施設整備主体による用地取得・造成コスト等を軽減する観点から、国や地方自治体等の公的セクターが空港用地と周辺開発用地の取得・造成工事等を行い、空港の施設整備や管理運営を行う主体に空港用地を割安な地価で払い下げるなどの方法を採り入れるべきである。また、周辺開発で得た収益をもとに、空港事業主体に対する財政支援や企業立地に対する税制・金融上の優遇措置等の支援措置を講ずることも求められよう。

    3.証券化手法の導入による建設資金の調達
    空港建設のための財源調達の手法として、空港建設に伴う債権を証券化し、民間資金の導入を図ることが考えられる。例えば、まず国や地方自治体が共同で空港用地の取得・造成工事を行う主体として公団(あるいは公社)を設立し、地方自治体が同公団に対して空港用地を原価で譲渡する。同公団は造成済み用地を現物出資して、空港施設整備と管理運営を行う株式会社形態の空港会社を設立する。そして、新空港建設後、空港会社が上場した際に株式に転換できる公団債を発行し、機関投資家等に対して販売する。この債券は転々譲渡が可能で、投資家は配当のほかにキャピタルゲインが期待できる。

    こうした証券化手法は、後述する「上下分離方式」とともに導入されることが望ましい。

    証券化による空港整備の一例

    4.免税債の導入
    地方自治体等が自ら空港用地の取得・造成、施設整備のための財源調達を円滑に行うための手法としては、米国で行われているTIF(タックス・インクリメント・ファイナンス)債の発行があげられる。例えば、地方自治体がTIF債(免税債)を発行して一般投資家に販売し、空港整備のための資金調達を行う。その際、空港建設に伴う開発区域を特別財源調達区域とし、その地域の地価上昇分から徴収される税収のうち、一定割合をTIF債の償還財源とする。わが国の場合、固定資産税の増収分を関連費用の償還財源に充てるというかたちが考えられよう。

    5.民間出資を促す税制上の優遇措置の導入
    以上のような施策を組み合わせることにより、各主体は多様な財源調達手段を持つことが可能となる。さらに民間出資を円滑化するためには、出資所得控除等、民間出資に対する税制上の優遇措置を講ずることが必要となろう。

  5. 国際的に高水準にある空港使用料等の見直し
  6. 新東京国際空港(成田)や関西国際空港では、建設コストを直接反映させた極めて高水準の空港使用料等を課しており、両空港を主基地とする航空事業者の国際競争力に影響を与えている。また、国内線の空港使用料等についても、利用者負担は高い水準となっている。そうしたなか、今後は、空港整備に対する一般財源の拡充を通じ、利用者負担の軽減を図る方向で、全体として国際線・国内線の空港使用料、施設賃借料、給油施設使用料等を見直す必要がある。

    また、空港建設・運営コスト削減に向けた多面的な対策を講ずるとともに、空港容量の拡大を通じて発着回数を増加させ、着陸料等の単価の引下げを図ることも重要な課題である。

  7. 合理的な空港整備主体の組成
  8. 第一種空港としては初めて第三セクター方式が採用された関西国際空港では、莫大な建設コストの7割を有利子資金で賄ったため、着陸料が国際的にみて高い水準となっている。

    こうした事態を回避するためには、例えば、既に諸外国の鉄道事業等で用いられている、用地取得・造成を担当する主体と施設の整備・管理運営を担当する主体を分離する、いわゆる「上下分離方式」の導入を真剣に検討すべきである。この方式では、用地取得・造成に係わる費用と、空港の施設整備・管理運営に要する費用とが明確に峻別され、運営主体の経営の幅が広がることが期待できるとともに、用地造成を地元自治体等公的セクターが行うことにより、開発利益の吸収・還元が容易になるというメリットもある。このメリットを活かすためにも、造成主体のコスト負担については、運営主体や利用者の負担軽減に資する水準にする必要がある。

    また民間活力活用の受け皿となる第三セクターの設立、運営に当たっては、公団方式に比較して不利な税制上の取扱いを公団なみに是正するとともに、大幅な権限委譲を行うことにより第三セクターが創意工夫を持って柔軟に事業を運営できるようにすべきである。

  9. 空港容量拡大方策の多様化
  10. わが国では、国土利用上の制約から、北海道など一部地域を除き、新たに大規模拠点空港が立地できる広大な用地を確保することは相当困難であるうえ、諸外国に比較して多額の用地取得コストがかかる。したがって、技術開発の促進による建設コストの低減策や管制技術の進歩等に即応した発着回数の拡大など、多様な方策を講じながら、空港容量の拡大を図っていくことが必要である。

    また空港建設コストの低減のための方策としては、特に海上空港の建設において、浮体工法の採用や離着陸の走行距離の短い航空機の開発による滑走路長の短縮等が期待される。今後の空港建設計画の策定に当たっては、新技術の導入を前提とした検討を積極的に行い、それらの進捗状況を踏まえつつ、投資効率向上の観点から、計画を弾力的に見直す柔軟性が求められる。

    さらに航空機燃料の輸送体制にも配慮すべきである。現在、中部新国際空港や東京国際空港(羽田)への導入が検討されているパイプラインによる移送方式に関して、空港本体の整備に対し後手に回ることのないよう、予め十分な検討がなされるべきである。むろん石油パイプライン建設には多額の資金が必要となるが、その公共性を踏まえ、税制、財政面からの支援が求められよう。

  11. 空港整備の新たな枠組みづくり
  12. わが国の空港は、空港整備法に基づき3種類に区分され、それぞれの機能分担が定められている。しかしながら現在では、国際定期便が二種空港、三種空港にも就航する一方、国際定期便が就航しない一種空港が存在するなど、当初定められた制度と実態が合わなくなってきている面がある。

    今後は、21世紀を見据え、空港間の新たな機能分担や、国と地方、官と民の協力体制のあり方を踏まえた枠組みづくりを進めていくべきである。


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