対日直接投資拡大・輸入促進に関する意見

1995年6月20日
社団法人 経済団体連合会


1.はじめに

  1. 経団連では1992年に国際産業協力委員会と国際企業委員会との共同で対日投資問題専門部会を設置して対日投資促進策に関する提言を行った。93年には国際企業委員会の下に外資系企業の環境改善に関する部会を設置して、92年意見書のフォローアップを行うとともに外資系企業の事業環境改善に関する検討を行ってきた。その結果、外資系企業の環境改善は内外資双方にとって新規参入を促すことにつながるとともに、わが国経済の活性化、ビジネス・チャンス拡大のために外資系企業の対日投資促進は不可欠であるとの結論を得て、93年12月に意見書「外資系企業の環境改善とわが国経済の改革について」を発表し23項目の具体的な提言を行った。

  2. わが国政府においても、93年9月の行政改革大綱、「対外経済改革要綱(94年3月)」、「今後における規制緩和等の推進について(94年6月)」、「規制緩和推進計画(95年3月)」などの規制緩和策を内外の要望を募った上で発表するとともに、95年4月には公共投資の積み増し、5年計画である規制緩和推進計画の前倒し実施などを骨子とする緊急円高・経済改革を発表している。また、対日直接投資促進のために1994年11月に内閣総理大臣を議長とする対日投資会議を設置して、在日米国商工会議所(ACCJ)、欧州ビジネス協会(EBC)など内外産業界の意見を反映させて検討を行うなど、対日投資拡大・輸入促進の気運が高まっている。
    こうしたわが国政府の一連の規制緩和策では、経団連が要望した多くの案件に関する改善策が示されており、一定の評価はできる。例えば、政府調達に係る入札手続の明確化、総合評価入札方式の導入など政府調達制度の改善や景品規制の緩和などについては改善措置がすでに発表されており、外資系企業の事業展開・新規参入を促す一助となると期待できる。しかし、一方で措置が不十分であると思われる案件や措置が示されていない案件も残っており、依然として対日直接投資促進のためになすべきことは多い。

  3. 外資系企業は、新技術、新商品、サービス等の提供や良き企業市民としての活動を通じて、わが国における競争を活発化し、国民生活向上の一翼を担っている。経団連は、わが国経済の国際化や構造改革のために外国からの対日直接投資を歓迎することをあらためて表明し、以下に、93年12月「外資系企業の環境改善とわが国経済の改革について」での提言に対する政府の措置が不十分である項目について更なる改善策を求めるとともに、新たな対日直接投資拡大・輸入促進に資する項目を含む重点項目を提言する。

2.重点要望

  1. 輸入促進地域(FAZ)の抜本的拡充
  2. わが国では、1992年7月の「輸入の促進及び対内投資事業の円滑化に関する臨時措置法(輸入・対内投資促進法)」によって、輸入促進地域(FAZ)が設定されている。しかし、現行のFAZ制度は輸入関連施設の整備に留まっており、法の目的である輸入・対日直接投資促進のためには輸入・投資事業者に対するインセンティブを拡充する必要がある。

    (1)総合保税地域の認定要件の緩和
    米国のフリー・トレード・ゾーン(FTZ)に対応する制度としてFAZには総合保税地域制度が導入されている。しかし、総合保税地域の指定を受けるには、
    1. 一団の土地・施設であること、
    2. 加工・展示・倉庫施設があること、
    等の要件があるため、現在までに総合保税地域として認められているのは大阪市のアジア太平洋トレードセンター(ATC)のみとなっている。総合保税地域制度を活用するため、こうした指定要件を緩和し、輸入・投資事業者に対するインセンティブを拡充すべきである。

    (2)土地利用区分の廃止
    都市計画法による商業、工業地区の土地区分のために、FAZにおいても同一施設で加工・展示を行うことが困難な場合がある。総合保税地域の利便性の向上、FAZ地域内の効果的な施設利用のためにもFAZ域内を土地区分の対象外とすべきである。

  3. 税制
  4. 対日直接投資促進のためには、わが国の高コスト構造の改善が不可欠である。特にわが国の諸外国と比較して高い税負担を軽減することが重要である。そのためには、まず法人税率の引下げを実施すべきである。また、あわせて連結納税制度の導入を図るとともに、OECDモデル条約にあわせ各国と租税条約を締結して、在日子会社から外国の親会社への配当に係る源泉徴収税率の5%への引下げ、および利子、ロイヤリティへの源泉徴収税の撤廃を図るべきである。さらに、税制の国際的な整合化、印紙税、有価証券取引税の撤廃を含めた見直し、外資系企業の参入・事業活動円滑化に資する税負担軽減措置の拡充を実施すべきである。

  5. 年金通算協定について
  6. 年金支払いに関する通算協定の締結は、公的年金保険料の二重支払いを防止するうえで在日外資系企業、在外日系企業双方に資するものであるが、これまで締結された実績はない。日本政府は主要国との年金通算協定の締結を急ぐべきである。

  7. 持株会社の解禁
  8. 政府は、規制緩和推進計画において純粋持株会社の解禁のための検討を3年かけて行うこととしている。国際的法制度との整合化、企業のリストラクチャリングの円滑化、外資系企業の対日投資策の観点から純粋持株会社を解禁するとともに、連結納税制度を導入するよう強く要望する。

  9. 政府調達に関する業者登録窓口の一本化
  10. 昨年3月の「対外経済改革要綱」などにより、わが国の政府調達制度の改善が図られているが、各省庁別に行わなければならない業者登録に関しては改善策が発表されていない。政府調達に係る業者登録窓口を一本化するよう改めて要望する。

  11. 民間有料職業紹介事業の自由化
  12. 外資系企業がわが国に投資する場合に人材の確保が困難であるという問題に直面する。労働市場の流動化が問題解決の前提となるが、その一助として、わが国の雇用問題への対応や外資系企業の人材確保のために民間主体が適切な条件(資格等)の下で職業紹介事業を展開できるようにすべきである。

  13. リース・クレジット債権の流動化に関する規制の緩和
  14. 規制緩和推進計画において「特定債権等に係る事業の規制に関する法律」の対象となるリース・クレジット債権に係る資産担保型証券について、95年度を目途に所要の措置を講じた上、導入することになった。柔軟かつ効率的な資金調達が可能となるよう、必要な法的整備も含めて、同措置を遅滞なく実施するよう要望する。

3.継続要望

以下は、意見書「外資系企業の環境改善とわが国経済の改革について」(1993年12月21日)において当会が要望した事項について現状を評価したものである。

  1. 政府調達制度の改善
  2. 政府調達に関する情報が外資系企業に必ずしも行き渡らないとの批判もあり、経団連では
    1. 政府調達に関する情報提供ルートの確立、
    2. 業者登録の簡素化、
    3. 総合評価落札方式の導入、
    などの要望を行った。
    政府では、94年3月28日「対外経済改革要綱」において「政府調達に関するアクション・プログラム」を発表し、調達情報の公示や入札手続きに関わるルールを明確にした。さらに企業の調達情報入手に要する負担軽減のために日本貿易振興会(JETRO)にデータ・ベースを設置して調達情報の提供サービスを実施することが発表されている。また、外務省では外資系企業を対象とした政府調達情報に関する説明会を開催するなどして情報の提供・広報に努めている。落札方式については、コンピュータ、情報通信、医療技術分野の調達の場合に総合評価方式が導入されているが、他の分野においても早急に総合評価方式を導入するため評価基準のガイドライン策定が検討されている。
    しかし、総合評価方式が導入されている分野においても入札者が予定価格として非常に低い価格を提示した場合、価格のみが決定要因となる可能性がある。また、各評価項目に対する得点配分は、その必要度・重要度などによって決定するが、入札前に得点配分が入札者に開示されていない場合もある。そのため総合評価による落札方式が実質的に機能していない事例が見られる。さらに、政府調達に関する業者登録窓口の一本化についての改善策は図られていない。これらについて一層の改善を図るべきである。

  3. 行政の透明性向上・行政手続の簡素化
  4. 行政手続法の施行により行政手続の透明性向上が図られているが、一方で依然として不透明な分野もある。このため経団連では、
    1. 対日直接投資関連法およびその運用の改善、
    2. 厚生年金基金設立要件の改善、
    3. 金融商品の認可に関わる行政の透明性の向上、
    4. 補助金による事業に関する透明性の向上、
    等を要望として提起した。
    対日直接投資関連規制について92年の外国為替および外国貿易管理法(外為法)改正により、OECDの資本移動の自由化コードでわが国が留保している業種(農林水産業、石油業、革・皮革製品、鉱業、航空運輸業、海運業、投資信託)および安全保障に関わる業種を除く投資について事前届出から事後報告に改善された。さらに規制緩和推進計画では、OECDの多国間投資協定に関する議論を踏まえて事前届出業種の削減を検討することとなっているが、早急な対応が望まれる。
    金融商品の認可制については保険業法改正により、96年度から保険商品、料率に関して届出制の導入、拡大を図ることになったが、他の金融商品についても届出制の導入、認可要件および期間の明確化を図るべきである。
    また、厚生年金基金の設立要件や補助金による事業についても早急な改善が望まれる。

  5. OTOの機能強化
  6. わが国では、輸入、対日投資の際に生じる具体的な苦情に対応する機関として市場開放問題苦情処理体制(OTO)が設置されている。OTOの機能強化を図るため、94年2月の閣議決定により、OTOは本部長を内閣総理大臣とする機関に格上げされた。また、「市場開放問題苦情処理対策本部運営要領」が発表され、苦情処理にあたっての手続や苦情申立者への通知期限、苦情処理の基本方針などが明示された。しかし、実際には運営要領に沿った苦情処理が実施されていないなど、依然としてOTOの苦情処理能力では抜本的な制度の見直しに限界がある。さらに、外国人を含む民間人が参加する専門家会議での討議が苦情処理結果に反映されていない場合も多い。政府はOTO推進会議や専門家会議での討議内容を公表するとともに、運営要領に記載されている方針を遵守してOTOの権限や実質的な問題解決能力を強化すべきである。

  7. 景品表示法
  8. 本年3月28日に「景品規制の見直し・明確化に関する研究会」の報告書が公表され、公正取引委員会では同報告書に基づき、95年度中に景品規制の見直しを行う予定である。同報告書では、百貨店業者の行う景品付販売に係る公正取引委員会告示および事業者景品告示の廃止、ならびにオープン懸賞告示、懸賞景品告示及び総付景品告示に係る上限金額の引上げを行うとともに、景品の範囲等規制内容の明確化を図ることを提言している。この提言は景品規制の見直し、明確化に関する公正取引委員会の前向きな姿勢の現れの第一歩として評価できる。これらの措置を早急に実施するとともに消費者、企業双方にとって、より時代に即応した景品規制の整備を今後とも継続的に進めることを望む。

  9. 年金通算協定の締結促進について
  10. わが国では、これまで諸外国との間に年金通算協定を締結していなかったため、企業は公的年金保険料の二重支払いを余儀なくされてきた。早期に主要国と協定を締結すべく、わが国政府から働きかけていくよう強く希望する。

  11. 電気用品取締法の規制緩和
  12. 規制緩和推進計画では政府認証の必要な甲種用品に該当する家電製品117品目を乙種(自己認証)用品に移行するとともに、技術進歩等を踏まえ、型式区分の見直しを行うこと、1999年を目標に安全基準をIEC(国際電気標準会議規格)へ整合させることが明記された。これらの措置を遅滞なく実施するとともに米国のUL規格との相互認証も促進するよう要望する。

  13. 持株会社の解禁
  14. 持株会社規制について規制緩和推進計画では、わが国市場をより開放的なものとし、また事業者の活動をより活発にするとの観点から、3年以内に結論を得るものとすると記載されているが、廃止の方向が明確に示されてはいない。持株会社を解禁するとともに、連結納税制度の導入などこれに関連する制度の整備を図るよう強く要望する。

  15. 社債、CPの適債基準の見直し
  16. 社債の適債基準については規制緩和推進計画において撤廃を含む抜本的見直しを行い、本年度中に緩和プログラムを発表することになっている。また、CPの発行適格基準については規制緩和推進計画に関する中間報告において、CPの無担保約束手形という法的性格から見直しにあたっては慎重に検討する必要があるとしている。さらに、ノンバンクによる社債・CP発行に関する規制についても本年度中に使途制限の明確化、期間の延長などの措置が講じられることとなっている。経団連としては一連の緩和プログラムの公表後にこれを評価し、再度要望を取りまとめる。

  17. 保険市場の改革
  18. 保険市場については92年3月の保険審議会答申「今後のわが国の保険事業の在り方について」に基づいて保険業法が改正された。関連の措置が早期に実施されることを望む。

  19. 情報通信分野の規制緩和
  20. 政府は、94年7月に国際VANサービスの対地国拡大のための当該国との業務協定の許可を不要とするとともに、国際VANサービスによる基本音声サービスを95年5月から公衆網と接続しない形態で実施し、97年より公衆網との接続を含めて完全実施するとしている。また、音声通話の公専接続については95年4月より「公専」片端接続、97年より「公−専−公」接続についても自由化することとなった。これらの措置が遅滞なく実施されることを望む。

  21. 外国法事務弁護士の活動について
  22. 94年の外国法事務弁護士法の改正により、(1)日本弁護士との共同経営、(2)共同事務所による日本人弁護士の雇用、(3)職務経験要件の緩和、(4)本国のローファームの名称使用が認められるようになった。さらに、(5)国際商事仲裁代理の自由化についても本年10月を目途に検討を行うことになっている。

  23. 事業者団体
  24. 事業者団体による独占禁止法違反行為の未然防止を徹底するために「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針(事業者団体ガイドライン)」の原案が本年4月3日に発表された。ガイドラインでは事業者団体による参入制限行為に関して、違反となる行為、違反の惧れのある行為、違反とならない行為が明記されている。今後、内外の意見を踏まえ検討を行い、本年度中に最終的なガイドラインが策定・公表される予定であり、この動向を注視していく。

  25. 税制
  26. 対日直接投資促進のためには、わが国の諸外国と比較して高水準にある法人税をはじめとする税負担の軽減を図り、税制上のインセンティブを拡充する必要がある。そのため、経団連では、
    1. 法人税率の引下げ、
    2. 連結納税制度の導入、
    3. 租税特別措置の活用、
    4. 外資系企業による投資税額控除の導入、
    5. 新規投資に関わる欠損繰越期間の10年への延長、
    6. 海外親会社への配当に対する源泉徴収税率の引下げのため租税条約締結の推進、
    を要望した。政府では欠損繰越期間の10年への延長を行っているが、税負担軽減のためには、さらなる措置をとるべきである。

  27. 資金調達
  28. 外資系企業への資金調達手段の拡充について、日本開発銀行の低利融資制度の融資限度枠が50%に拡大された。日本輸出入銀行、北海道東北開発公庫における諸制度を含め、さらに融資額、融資比率、優遇金利制度、融資対象などを拡充すべきである。

  29. その他
  30. 以下の案件についての政府の対応は不十分である。早急に改善が図られるよう重ねて要望する。

    (1)建設業許可要件の緩和
    総額900万円以上の建設工事については建築業法に定める一般建設業許可を取得しなければならない。そのためには「建設業に関し、5年以上経営業務の管理責任者としての経験を有するもの」を常勤役員の一人とすることが要件となっており、建設業に新規参入するには建設業界から役員を迎え入れなければならない。内外企業の参入を促進し、競争を活発化させる観点から本要件を廃止すべきである。

    (2)減価償却資産耐用年数の見直し
    減価償却資産の耐用年数等に関する大蔵省令では電子計算機の減価償却資産耐用年数が一律6年であり、長期にわたって減価償却費用が発生している。パソコンやワークステーション等は技術革新が非常に早く、先端技術の利用を促進して経営効率の向上を図るためにもパソコン、ワークステーションなどの機器については減価償却耐用年数を2〜3年とすべきである。また、減価償却資産の耐用年数全般について見直す必要がある。

    (3)適格年金資産の運用規制の緩和
    適格退職年金資産の運用機関として信託銀行、生命保険会社および農業協同組合連合会しか認められておらず、資産の配分も規制されているため、その他の事業者の参入を困難にしている。弾力的な年金資産の運用を可能とするため、運用委託機関の制限や資産総額に対する配分規制を緩和すべきである。

    (4)適格年金資産の特別法人税の引下げ
    適格年金資産には1.173%の特別法人税が課せられており、厚生年金基金契約に比べ、税負担に不公平な状況が発生している。高齢化社会への対応、従業員の福祉向上のためにも厚生年金基金と同様の取扱として税負担を軽減すべきである。

    (5)政府の委託・補助による研究開発成果の取扱
    国の委託研究は一部を除き、その成果は国に帰属し、研究参加企業による利用および第三者への実施許諾に際しては国の同意が必要で利用料が徴収されている。研究参加企業に十分なインセンティブを与え、国際的整合性を図るために、(1)研究成果を受託企業に帰属(少なくとも共有)させ、(2)受託企業に対する特許の無償利用権および無償実施許諾権も付与すべきである。また、研究開発契約締結の際には、対象となる秘密、秘密保持期限などを明確にして受託企業に過度の秘密保持義務を負わせるべきではない。

    (6)統計報告・調査についての整理・合理化
    類似・重複する統計調査を関係省庁および地方自治体が別個に実施しており、記入者の事務負担は多大なものとなっている。可能な限り政府での調査の共同化、統計データの共有化を推進すべきである。


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