国民生活の質向上に資する宇宙開発の推進を要望する

1995年6月21日
社団法人 経済団体連合会


  1. 宇宙開発の意義
  2. 科学技術はわが国の経済成長を支える大きな要因であるが、なかでも宇宙開発は21世紀の科学技術を先導し、幅広い産業の芽を生み出しうるものであり、科学技術立国を目指すわが国が優先的に推進するのに相応しい分野である。
    さらに、衛星を用いた地球環境・災害監視、通信・放送、気象観測、測位等の実利用が定着するとともに、民生品の小型化・軽量化・長寿命化・信頼性向上等に宇宙開発技術が利用されている。身近な例としては、カー・ナビゲーション、国際電話、天気予報、軽量な炭素繊維強化プラスチックの活用などが挙げられる。特に、阪神大震災を契機に、防災の観点から衛星の活用に対する期待が高まっている。
    その他、宇宙開発はわが国が国際社会に貢献していくうえでも恰好の分野であり、宇宙の真理の探究も、引き続き進めるべき重要課題である。

    産業界も政府に協力して、宇宙開発関係の情報提供体制の整備等により、宇宙開発に対する国民の理解促進につとめる所存であるが、政府は、将来の技術力強化、安全で質の高い国民生活を目指し、特に以下のプロジェクトに重点をおいて、来年度宇宙開発予算の編成を進めるべきである。

  3. 当面推進すべき重要プロジェクト
  4. (1) 将来型輸送系の研究開発
    H−IIロケットの3度の打上げ成功を受けて、今後は自前の輸送手段を持つことにより、わが国宇宙活動の多様性を高める必要がある。この観点から有翼往還機の開発が望まれており、まず、有翼往還機の試験機の開発を早期に進めるべきである。また、H−IIロケットに対するニーズの多様化や国際競争に対応するため、H−II発展型の開発に着手すべきである。

    (2) 衛星を利用した地球観測システムの早期構築
    地球環境保全・災害監視のため、国際協調のもとで当面アジア地域のニーズに対応するための地球観測システムを構築する必要がある。政府としても、地球観測計画を早期に策定し、防災対策という面からも、その実現に直ちに取組み継続的に推進していくべきである。また、衛星からのデータ利用を促進するための体制整備が必要である。

    (3) 宇宙ステーション計画の着実な推進
    宇宙環境利用における宇宙ステーション計画の重要性に鑑み、国際協力のもとに行われている同計画を、積極的に推進すべきである。

    (4) 宇宙環境利用の推進
    新産業創出に大きな可能性を有する「軌道上研究所」ともいうべきJEM(宇宙ステーション取付け型実験モジュール)を最大限に活用すべきである。そのためには、JEMの運用開始に先立って、国内の落下塔の活用や小型ロケットを活用しつつ予備実験を行うべきである。さらに、より一層の宇宙環境利用の経験を積むため、日本人宇宙飛行士の米国のスペース・シャトル等を利用した宇宙実験に係わる機会も継続して拡充する必要がある。

    (5) 通信・放送衛星技術の開発
    情報通信基盤整備の総合的な推進に資するため、大量の情報伝送ニーズに対処できる、大容量で高速な衛星通信技術の研究開発を進めるべきである。また、携帯型端末の利用および高品質な音声放送の聴取を可能にする、次世代移動体衛星通信・放送システムの技術を宇宙実証するための衛星の開発を推進する必要がある。
    さらに、ニーズに対応した衛星通信の新規の利用方策も検討すべきである。

    (6) 宇宙の科学的探査の推進
    わが国の宇宙科学研究は、宇宙科学研究所の科学衛星等による科学観測計画を中心にコンスタントに継続され、宇宙の真理の探究の面で世界の最先端にある分野も出てきている。平成8年度には、大型のMーVロケットの初号機の打上げが予定されており、科学観測計画は新たな時代を迎えるが、今後はこの計画をより一層加速して推進すべきである。

    なお、以上の全てのプロジェクトを通じて、信頼性の維持・向上を念頭におきながら、官民あわせてコストダウンにつとめることが肝要である。

  5. 中長期的課題
  6. 予算編成にあたっては、当面推進すべきプロジェクトに加えて、以下の中長期的課題にも十分配慮すべきである。

    1. 商業化を推進するための宇宙産業政策の検討
    2. 全地球観測システムの具体化
    3. 宇宙ステーション供用期間におけるJEMの計画的利用
    4. 完全再使用型輸送システムの開発、宇宙ロボティックスなどの軌道上サービスの開発、月・惑星探査、有人宇宙活動、他

  7. 宇宙開発予算の飛躍的拡充
    1. 昨年7月に公表された宇宙開発委員会・長期ビジョン懇談会の報告書には、今後15年間で7兆円程度の資金が必要である旨盛り込まれた。これは、年平均約5千億円に相当するが、平成8年度は、その数値を裏付けるよう大幅に宇宙開発予算を拡充すべきである。

    2. 加えて、衛星からの画像、通信・放送等、様々な分野で衛星が防災対策に威力を発揮するという面からも、宇宙開発予算の抜本的な増加をはかるべきである。このためには、例えば宇宙開発の公共投資的側面に注目し、「公共投資基本計画」の投資額の一部を宇宙開発予算に向けるべきである。


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