太平洋地域における経済発展上の課題とわが国の役割
― 国際産業協力委員会太平洋部会報告書 ―

1995年6月30日
社団法人 経済団体連合会


≪序論 太平洋地域の発展のための基本的認識≫

太平洋地域は、歴史、文化、宗教、言語、政治体制、経済発展の程度など、さまざまな分野において極めて多様である。戦後一貫してこの多様な地域の発展を支え、今また世界経済の牽引車としての役割を可能にしているのは、自由な貿易の流れとその基本的枠組みたるGATT/WTOの多角的自由貿易体制である。そして今日では、直接投資の連鎖的展開がさらにこの動きを加速している。

現在この地域には、北米自由貿易協定(NAFTA)、APECなどさまざまな枠組み、構想が存在している。これらの枠組み、構想について産業界として検討することは、今後の国際通商体制のあり方を考える上で重要であるのみならず、現実のわが国産業の国際的発展の基盤を形成するためにも有益である。その際、民間企業の自由な経済活動がこの地域の発展を支えてきたと認識することが肝要である。こうした自由な経済活動をさらに促進しつつ、地域の継続的発展を達成していくには、各国が一層の規制緩和を含め、何をなすべきかの課題を明らかにすることが必要となっている。とりわけ日本には、本年のAPEC会合の議長国として、この地域の経済発展のために強力なリーダーシップを発揮することが期待されている。

太平洋部会では、この地域の経済発展過程を踏まえた上で、貿易・投資ルールや為替等の地域全体にまたがる総論と、法制度、行政の透明性、商慣習、人材育成などの個別具体的な課題について、地域で実際の経済活動を行なう立場から検討をすすめてきた。以下に、地域の直接投資・貿易の進展の概観、経済枠組みの評価、経済活動の現場からの課題を整理する。地域のさらなる発展のため、各国政府、企業など経済活動に関わる諸機関に対し、解決に向けた努力を求める。

なお、太平洋地域の経済をめぐる多様な考え方がある中、太平洋部会では、以下の基本的認識に立脚して報告書のとりまとめを行なった。

  1. 太平洋地域の継続的発展は、各国の国民経済への利益になると同様、日本経済にとっても長期的利益となる。
  2. 同地域の経済発展を促進する方策は、構成国の歴史、発展段階、宗教、文化など、社会経済の安定に影響する要因に十分に配慮したものでなければならない。
  3. 同地域の経済発展の基本は、民間企業を中心とする貿易・投資両面での自由な経済活動である。ODAなど政府の行なう地域協力、自由化の枠組み設定などは、そのための環境整備に資するものでなければならない。
  4. 日本は域内の先進国として、また、95年11月のAPEC閣僚会議の議長国として、太平洋地域の発展に積極的に貢献しなければならない。

注)
この報告書における「太平洋地域」とは、北米(米国、カナダ、メキシコ)、アジアNIEs(香港、台湾、韓国、シンガポール)、ASEAN(タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア等)、アジア新興諸国(ベトナム等)、オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)、中国、インドおよび日本を指す。


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