太平洋地域における経済発展上の課題とわが国の役割
― 国際産業協力委員会太平洋部会報告書 ―

1995年6月30日
社団法人 経済団体連合会


≪第4編 わが国の課題と役割≫

  1. わが国の課題
    1. 規制緩和の推進
      太平洋地域の経済発展のためには、わが国が他の太平洋諸国に十分に市場を提供していくことが必要である。日本市場における規制が内外企業を問わず新規参入を妨げている側面があることは否めず、わが国は規制緩和を強力に推進することにより、太平洋地域および世界に対する責任を果たす必要がある。また、域内諸国が今後規制緩和を進めていくにあたり、わが国がこの動きをリードしていくことが重要であり、わが国が規制緩和に消極的と受け止められるようなことがあってはならない。規制緩和の推進による輸入拡大は、太平洋地域の経済発展に資するのみならず、日本市場での競争を活性化させ、消費者の選択の幅を広げ、国民の厚生を増大するものである。
      経済界は、政府の規制緩和推進の努力を積極的に支援するとともに、自身も自己責任原則を徹底し規制緩和の痛みを受け入れ、市場活性化の成果を活用していくばかりでなく、合理性に欠ける商慣行については見直すべきである。

    2. 対日投資の積極的施策
      対日直接投資の拡大は輸入増にも寄与するが、現状では日本からの海外直接投資に比較して極端に少ない。これを改善するためには、規制緩和ならびに行政の透明性を高めるとともに、地価などのコスト要因を改善することが必要である。また、製造業の海外移転などいわゆる「空洞化」がいわれる中にあって、わが国での新たなビジネスの創造、国際分業の推進のためにも対日投資促進の総合的施策が不可欠となっている。わが国は、外資系企業の参入・事業活動円滑化に資する税負担軽減措置の拡充、年金支払いに関する通算協定の締結、純粋持株会社の解禁と連結納税制度の導入、政府系銀行の優遇金利制度など資金調達面での優遇措置等、積極的施策の促進に努力すべきである。

    3. 円の国際化
      ニクソン・ショックから今日に至るまでわが国産業が為替相場の動向に大きな影響を受けてきた。また、東アジア諸国の対米貿易収支黒字の累積は、自国通貨の切り上げにつながりかねない側面を持っている。今後ともドルを基軸通貨とする体制が継続するにしても、地域全体の通貨の安定性のためには、複数基軸通貨制を念頭に円を一層国際化していく必要がある。円取引の拡大は、対外取引の信頼性の確保ならびに国際通貨体制の長期的安定化に資する。また、空洞化が懸念されるわが国金融・資本市場の活性化に寄与し、金融情報の集積、雇用の増進等につながるものと考えられる。
      こうしたメリットを持つ円の国際化を促進するためには、金融分野における規制緩和と競争原理の導入を行うことが必須の要件であり、円の公約準備比率、取引通貨比率の向上が円滑にすすむような措置を検討する必要がある。
      なお、アジア諸国に多様な資本調達の場を与えるという観点からも、わが国にとって金融分野の規制緩和と一層の競争原理の導入を促進するための努力が不可欠である。

  2. わが国の役割
    1. 事業環境の整備
      わが国は、太平洋地域内の先進国として、人材、技術、経営ノウハウなど多面的な協力を促進するという役割を担っていかなければならない。
      人材育成については、各企業が社内研修・社内教育を中心として積極的な取り組みを行なっている。また、政府ならびに関係機関同士の協力、3ヶ国以上が関係する人材育成システムなど多様な試みが行われており、さらなる深化が期待される。人材育成の一部は、経営ノウハウと直結しており、各企業が現地に適した独自の経営ノウハウ構築にコミットしている。
      技術面では、直接投資による現地生産等を通じた域内各国へ技術移転、ライセンスを含めた契約上の技術協力などいくつかの方法がとられており、各国の経済発展に寄与している。ここ数年、R&D機能の一部の海外移管、R&Dセンターの海外への設置など、より高度な技術を移転する機会が増えている。
      これらを今後とも継続していくことが重要だが、その際太平洋地域内の先進国間の相互理解と協力は不可欠である。わが国は、太平洋地域の各国の立場を理解し、地域全体の経済発展と厚生の増大のために積極的な役割を果たしていかなければならない。

    2. 環境問題への積極的な取り組み
      地域の急速な経済成長に伴い、環境保全対策は国境を越えて関心を集めている。域内各国・地域の官民が全力をあげて取り組むべき重要課題である。経団連では1991年に「地球環境憲章」を制定し、世界の良き企業市民たることを旨として、全地球的な環境保全と地域生活環境の向上に企業が主体的に取り組むべき行動指針を公にした。わが国企業が有する環境保全に関わる技術・ノウハウを活用し、進出先にも移転する必要がある。また進出先の環境基準の厳守はもとより、同基準が日本よりゆるやかな場合は、自主的により厳しい環境保全努力を行うべきである。

    3. エネルギー問題への協力
      エネルギーの安定供給の確保は極めて重要な問題である。現在、石油の輸入国の上位は欧米および日本が占めているものの、中長期的に東アジア諸国が産業発展と工業化に伴い、石炭から石油へとエネルギー源をシフトし、石油の輸入を増加させることが予想されると同時に、電力等二次エネルギーの不足が懸念される。日本はエネルギー節約型の技術やノウハウの移転などを通じ、地域のエネルギー問題に貢献するべきである。

  3. 太平洋地域の発展のための日米経済協力
    1. 安定的な日米経済関係の維持
      日米両国は緊密な二国間関係を維持し、引き続き太平洋地域の経済関係の深化に寄与すべきである。
      日米経済関係については、とかく摩擦の側面が強調されがちである。しかし、実際には技術交流・合弁・部品供給などさまざまな分野において企業間の広汎で建設的な協力関係が成立しており、厚みのある緊密な相互依存関係が出来上がっていることを認識しておく必要がある。また日米間の二国間協議においても、両国経済の調和の観点からさまざまな構造改革が提案され、実施されてきたことをまず評価しなくてはならない。また、安定的な日米経済関係は太平洋地域の安定的発展にとっても不可欠である。

    2. 日米のマクロ政策協調
      太平洋地域における経済規模からみる限り、日米の比重は極めて大きく、この地域が将来的に安定した成長・発展を遂げることができるかどうかは、日米両国のマクロ経済運営に負うところが多い。両国はこの責任と課題をよく認識し、透明で適切かつ規律をもったマクロ政策を心掛けなければならない。
      日本においては、公共事業費配分を抜本的に見直し、生活基盤インフラを着実に増大していかなくてはならない。また、高齢化への対応、税負担感の増大等に対応する上で更なる税制改革が求められている。高齢化に対応してやがて純貯蓄が縮小していくが、税制改革、歳出構造の改革を通ずる内需主導型経済運営も経常収支黒字の早期縮小をもたらす。
      米国においては、早急に財政を健全化することが必要である。併せて、消費に過度に依存した経済から貯蓄、設備投資、生産力の増大を重視する経済へ構造変化すべきである。財政赤字削減による貯蓄・投資インバランスの改善が経常収支赤字を減少させ、ドル安要因を取り除くことも期待できる。
      日米のマクロ政策協調の必要性が強調されて久しい。しかし、近年は政策協調の実効が上がっているとは言いがたい。両国政府は改めてマクロ政策協調の長期的有効性を確認しつつ、一層緊密な協議を通じて責任ある対応を取る必要がある。


日本語のホームページへ