社団法人 経済団体連合会 新産業・新事業委員会中間提言

「新産業・新事業創出への提言 ─ 起業家精神を育む社会を目指して」

第1章 基本認識


  1. なぜ今、「起業」が必要か
    1. 戦後半世紀を経て、これまで有効に機能してきたわが国の経済社会システムは大きな転換点にさしかかっている。今、産業界自らが大胆な変革に取り組まなければ、長期にわたる景気停滞から脱し、将来に向けてわが国経済の活力を維持・発展させていくことは困難であり、世界経済におけるその役割を担うことができないばかりか、国民福祉の向上もおぼつかない。

    2. 特にリーディング産業の成熟化とともに、急激な円高により産業空洞化の懸念が現実のものとなりつつある中で、経済の活性化を図り、雇用を創出するためには、社会的なニーズと技術的なシーズを適合させた新たな産業とそれを担う企業が登場し成長することが重要である。もとより、既存の企業も、組織・事業のリエンジニアリング、創造的破壊により、新産業・新事業の中核を担うことが求められている。

    3. 米国経済の活性化の背景には、激しい競争の中で、ハイテク分野をはじめとする多くのベンチャー企業が誕生し成長を遂げ、新たな産業分野を形成しつつあるともに、既存大企業がリエンジニアリング等によって再生するなど企業をめぐるダイナミックな展開があった。これには、1980年代に大胆な規制緩和とともに税制改革が進められ企業活力を促す基盤が整えられたことが大きな契機となっている。
      また、欧米のみならずアジア諸国も、大幅な制度改革を含む変革に迅速に取り組み、ボーダーレス・エコノミーにいち早く対応しようとしている。

  2. 「起業」を阻んでいるものと変革の方向
    1. これに対し、わが国の現実は、起業への動きはあるものの、これがダイナミックな成長を遂げ、経済に新鮮な力を与えるに至っているとは言い難い。
      また、既存企業は、厳しい環境の中で経営の刷新を図っているものの、必ずしも明確な将来展望を描き切れていない。既に、製造業では廃業率が開業率を上回る状況にあり、このままでは、わが国経済全体が縮小均衡に陥りかねない。

    2. わが国において、新産業・新事業の展開が捗々しくないことの原因としては、戦後の目覚ましい発展という成功ゆえに安定を良しとする風土が定着し、反対に何事にも失敗を恐れず取り組む意識や創造的な試みや挑戦への気概の希薄化が社会全体にみられるということは否定できない。
      同時に、事業活動や資金調達に係わる様々な規制の存在、それと裏腹な関係にある既得権重視型の制度や政策運営の仕組みが、本来、自由で活力のあるべき市場メカニズムの働きを妨げていることが、新たな企業の創設や既存企業の創造的な事業展開を阻んでいることも明らかである。これらの制度・環境的要因が、国民の意識を起業家精神からさらに遠ざけ、社会全体が「起業」に重要な価値を見いだせない構造を作り出している。

    3. このような現状を改めるには、まず何よりも、国民・企業自らが自己革新を 図り、自己責任原則の下に新たなチャレンジを行おうとする気風を養わなければならない。併せて、規制緩和や商慣行の是正をはじめとする経済・社会全体にわたる改革を推し進め、市場における様々な試みが現状を維持しようとする力に潰されることなく実行に移され、評価を受けることが可能とならなければならない。
      それとともに、新たな事業に挑もうとする者が自己責任の下にリスクを負い成功の報償を得、出資者等リスクを分担する者も成功の報償を公正に分かち合える仕組みの構築が必要である。


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