日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

1.建設


  1. 現状
  2. 建設省によると、建設投資額の1995年度見通しは、名目82.8兆円(前年度比1.7%増)、実質66.8兆円(前年度比1.0%増)であり、うち政府投資は名目37.9兆円で過去最高水準になるとしている。このうち阪神大震災の復興向け総投資額7兆9800億円の46%に当たる3兆6000億円が95年度投資となる見込みであるとしているが、公共工事はともかくとして、民間設備投資、民間住宅投資に関しては、権利関係の調整の遅れ、円高による海外投資のシフトなどにより、投資が必ずしも順調に推移しているとはいい難い状況にある。
    建設業界の業績回復は、景気変動に1年〜2年のタイムラグがあるため、ここ2、3年は大手建設業者にとって厳しい状況が続くと思われる。不況の影響で民間の建築投資、とりわけオフィスビル、マンション等の民間非住宅部門が激減し、この分野を主な市場としていた大手ゼネコンは対応に苦慮している。低コスト体質への転換が強く求められており、生産システムの合理化、資材調達の見直し、ゼネコンとサブコン(協力業者)の業務一体化等に取り組んでいる。
    また、公共工事における新たな入札・契約制度の改革が進展しており、従来の指名競争入札に加えて、工事規模や工事の特性により制限付きながら一般競争入札方式や公募型あるいは意向確認型という方式の指名競争入札が導入された。
    この他、企業行動の見直し(社内に業務刷新委員会を設置・検討。企業倫理の再構築を目指した企業行動規範を作成)に取り組んでいる。

  3. 課題
  4. 中期的な建設業の課題としては、第1に自由競争の激化への対応が挙げられる。公共工事の入札・契約制度の改革、違法行為への処分の厳格化、独禁法の運用強化等の影響で競争が激化する中、業界再編成が進む可能性が高い。あらゆる建設分野を事業領域としてきたゼネコン各社は、今後は総合的事業展開を図る企業と自社の得意とする分野に特化する企業等に分かれるとみられる。
    第2の課題は、「内なる国際化」である。ここ数年、外国建設会社の日本市場への参入が進んでいるが、制度、慣習、マーケット構造の相違は大きく、実績を挙げるには至っていない。公共工事における一般競争入札の導入によって、従来指名されなかった外国企業にも入札参入の門戸が開かれる。また、これまで「企画・調査」「コンサルティング」業務は、大部分がインハウスで担われてきたが、今後は国内企業はもとより、この分野を得意とする外国企業による市場参入が徐々に進むようになるであろう。
    第3の課題として、海外事業展開の見直しが挙げられる。70年代後半以降積極的に海外進出を果してきたが、収益面で芳しいものはなく、海外事業のあり方を再検討する時期に来ている。
    第4の課題は、生産性の向上である。建設業の生産性は製造業と比較して低いといわれてきた。生産システムの改善、省力化・自動化の推進、マネージメント能力の向上による施工管理体制の強化を図る必要がある。
    第5に、技術開発・研究開発の推進が挙げられる。高度化・多様化するユーザーのニーズに応じるため、建設の様々な分野で新しい技術が開発されてきたが、自動化・合理化をめざした技術、免震・制震技術、超々高層ビルや大深度地下、新素材、環境問題等に関連した技術の開発に注力する必要がある。
    第6に、地球環境問題への取組みの強化が挙げられる。建設業は常に環境と深い係わりをもって事業活動を行っていると同時に、環境保全に関する様々な技術を有する。廃棄物の排出抑制、最大限のリサイクル推進、適正処理の推進等の対策に積極的に取り組む必要がある。

  5. 中期的展望
  6. 景気波及効果の高い建設投資を順調にこなしていくことは、内需を中心とした日本経済の堅調な発展に貢献し、わが国の巨額な経常収支黒字の縮小にも寄与することが期待できる。
    工事の絶対量が減らなければ、雇用に関して大きな問題は生じないものと考えられる。逆に今後の建設投資の拡大や若年労働者参入の減少等の影響から、現場作業員が不足する恐れがある。労働者の平均年齢が40歳半ばと高い上に、高齢化が3年に1歳と急速に進んでいるため、業界では雇用・労働条件の改善、施工の合理化、若年層の人材確保・育成等により対応しているが、今後外国人労働者の問題が再燃する可能性もある。
    海外建設業者のわが国市場への参入については、公共工事に制度面で相違(わが国では主に施工業務しか民間に開放されていない)があるため、外資の実績は大きいとはいえない。このため、主に日米間で建設摩擦が再燃する余地がある。

  7. 政策への提言・要望
    1. 入札制度の改革
    2. 入札契約制度の改革をさらに推進し、より透明性のある効率的な公共建設システムを実現すべきである。予定価格制と積算のあり方、最低制限価格のあり方等の見直し、ボンド制を始めとする新たな履行保証システムの検討といった課題がある。

    3. 規制緩和によるコストの削減
    4. 規制緩和を一層推進することによってビジネスの阻害要因が取り除かれることが望ましい。また海外建材・資材の輸入面での規制緩和は建設コストの削減にもつながることが期待される。この他、開発行為における規制の統一と窓口の一本化、農振法に基づく農用地域の指定解除の弾力的な運用、都市計画法による建築制限の廃止、建築基準法と消防法の規制の統合等が望まれる。

    5. 公共投資の効率化・予算配分の弾力化
    6. 経済活力が相対的に失われる高齢化社会が到来する前に、1994年10月に策定された総額630兆円の「新公共投資基本計画(1995〜2004年)」を効率良く実行していくことで、国民一人ひとりが豊かさを実感できるような社会資本整備水準を達成することが必要である。社会資本の整備には、各省庁別の公共工事関連予算を弾力的、機動的に配分するシステムが必要である。


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