日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

2.エンジニアリング


  1. 現状
  2. わが国のエンジニアリング産業の市場規模は、受注ベースで1991年度に16兆5841億円に達したが、近年の景気低迷の中で縮小傾向にある。93年度は引き続く景気低迷に加え、急速な円高進行を受け、受注高合計14兆2500億円、前年度比7.6%減となった。わが国エンジニアリング企業の国際市場におけるシェアは、アジアでは約20%を占めて強みを発揮しているものの、全世界では8.4%に留まっている(1992年度ベース)。
    専業大手エンジニアリング企業は早くから国際化を開始し、海外市場への依存度が高い。1992年度ベースで、分野別では化学プラントが78.5%を占め、その内海外比率は72.9%である。逆オイルショックの後遺症、急激な円高による価格競争力の低下、為替差損の発生、産油国の設備投資の低迷等により、1986〜89年は営業利益率が低下した。この間、人員削減等リストラクチャリングを行い、現状では従業員の過剰感はない。
    急速な円高に対応するために、海外機材の採用を進めており、海外向けプロジェクトでは、機材の60〜80%を海外で調達している。この他、工事監督への欧米人の採用等により人件費削減を図っている。
    国際競争力の強化に向け、エンジニアの多能化、建設工法の開発、コンピューター高度利用等、種々の施策を実施している。営業力を強化すべく、海外ネットワークの整備・強化を図っている。設計の一部は東南アジアや欧州で行うなど、関係先、子会社等の育成に努めたことが、コストダウンに繋がっている。また欧米企業と共同でプロジェクトを推進し、リスク分散、プロジェクト遂行の効率化を図っている。

  3. 課題
  4. わが国では21世紀初頭にかけて、従来型の設備投資需要は停滞が予想される反面、円高に対応したわが国製造業の海外移転、生活・環境重視・高齢化対応の社会資本整備、新規産業の創造・活性化等新たな社会的ニーズの増大が予想されている。こうしたニーズに応えるべく、従来の枠を越えた事業を展開する必要がある。
    具体的には、第1に、新事業分野への対応である。石油精製、石油化学等の従来型設備投資については、新規の需要の大きな伸びが期待できない。従って食品、医薬品、福祉施設、社会開発プロジェクト等、新分野への対応を強化する必要がある。
    第2として、プロジェクトへの対応強化と新技術への対応があげられる。海外のエンジニアリング企業の台頭に対応すべく、エンジニアの多能化、建設工法の開発、CAD/CAEの活用等、様々な施策を実施している。また、省エネ、省力化、プラントの操業・メンテナンスの容易性、安全操業システムの確立、プラントの小型化等を実現する技術開発に努める。
    第3に、高度情報化社会への対応が必要とされている。コンピュータ、通信衛星、マルチメディア等の急速な情報通信技術を旨く取り込み、業務の効率化を図る必要がある。
    第4に、従業員の高齢化が進んでおり、従業員の活性化と優秀な人材の確保・国際的な人材の育成が企業発展の鍵となる。

  5. 政策への提言・要望
    1. 新しい社会資本整備の推進
    2. 国民生活の充実に係わる情報・通信、教育、研究など新しい社会インフラの整備を促進すべきである。また、国・地方公共団体の企画・設計業務を外注化を図り、公共施設の整備への民間エンジニアリング能力を積極的に活用すべきである。公共工事の入札制度の改革にあたり、設計・施工一括請負方式の採用を要望する。

    3. 地球環境問題へのイニシアチブの発揮
    4. 地球環境問題解決のための基礎研究および技術開発制度を拡充すべきである。また環境ODA政策の充実を図り、途上国への技術移転を推進することもわが国が貢献できる分野である。さらに廃棄物の資源リサイクル技術の開発促進を図るとともに、リサイクルが促進される社会システムを整備することが重要である。

    5. 技術革新、新規産業の創出等による産業・経済の活性化支援
    6. 技術開発支援の予算を拡充し、国家プロジェクトを充実する。また民間の研究開発促進のため税制上の支援措置を拡充する。さらに民間の事業意欲を喚起し、新規産業の事業化が円滑に行われるように各種規制措置を緩和すべきである。

    7. 民間のエンジニアリング活動を通じた技術移転の推進
    8. 円借款の拡充と条件の緩和を図るとともに、貿易保険の弾力的運用を図り、潜在的な開発プロジェクトの具体化を支援するよう求める。また日本輸出入銀行の輸出金融の弾力的運用等により、プロジェクト実現のための金融上の支援を強化すべきである。

    9. 為替の安定
    10. プロジェクトの契約から完成までに3〜4年かかるため、途中で為替が変わること自体が混乱を招く。為替の安定化に向けた施策を期待する。


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