日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

3.食品


  1. 現状
  2. 日本国内では食生活に対する満足度が高く、人口の伸び率も0.2%台と低めで安定しているため、食品産業は量的拡大が期待し難い成熟産業である。食生活の変化(テイクアウト商品や加工食品の利用増、自然食志向、鮮度の重視)が進んでいる。また食品産業においてもグローバル化が進んでおり、内外価格差問題が円高傾向で一層目立つ状況に置かれている。またウルグライラウンドの合意による原材料の関税の削減、製造年月日から賞味期限への日付表示の変更などの要因により、輸入食品が増大しますます国際競争に直面することになる。
    食品産業全体の売上68兆円 (1990年度) の中での食品工業は33兆円を占め、特徴としては中小企業が非常に多く、清涼飲料や麺等を除き、業績が伸び悩んでいる。また昨今の円高を反映し着実に食料品の輸入が増加している。

  3. 課題
  4. こうした現状の下で、食品工業が取り組むべき課題としては、第1にローコストオペレーション体制の確立、つまり内外価格差を背景にした価格引下げ要求にどのように対応するかが、極めて重要な問題になっている。国内では製造固定費や販売経費等の徹底した削減、リストラへの取組みが必要となっている。また製品、半製品の海外調達や委託、生産拠点の海外移転を実施する必要がある。
    第2に、取引慣行問題など、流通の複雑さに対する問題提起に対し、オープン価格制を導入するなどし、従来の慣行を改め効率のよい取引関係を築く必要がある。
    第3に、内外価格差問題、低価格化志向とも関連してプライベート・ブラインドがシェアを高めており、ナショナル・ブランド・メーカーにとって大きな問題になっている。こうした動きに対応すべく、メーカー側ではコストダウンに努める一方、ナショナル・ブランドの存在価値を高めるため、高品質、差別化商品の開発を迫られている。

  5. 中期展望
  6. 人々の食に対する追求価値は、簡(簡便化、合理化)、健(健やか、健康志向)、良(良級、楽しさ志向)、絆(家族を繋ぐ絆志向)であり、この潮流に沿った事業、商品が有望である。
    また、人々のライフスタイルの変化から、中食(弁当、惣菜等外部で作られた調理済みの食品を家に持ち帰って食べる)や外食の比重の高まりという食の大きな潮流がある。特に中食は成長領域である。
    急激な円高の下で、国産農作物が割高なこと、消費者の低価格志向等により、海外からの製品、半製品の輸入が増加する。また海外進出も増え、海外子会社からの輸入の動きが加速すると考えられる。
    製販同盟による生産、物流の効率化も一層進む。競争の激化、淘汰の時代であり、2番目、3番目以下のブランドの生存は難しい状況になりつつある。

  7. 政策への提言・要望
    1. 社会資本の整備
    2. 中小企業の雇用問題に対処する再教育施設の充実、技術立国に繋げる施策が必要である。また伝統的な技術の伝承を図ることも重要である。

    3. 消費者の意識改革、研究・開発の強化
    4. 環境問題への対応からも、過度の鮮度志向や極端な安全性志向は問題であり、意識改革への教育・啓蒙が必要と思われる。また国公立大学を中心とする研究・開発の基盤強化も必要である。

    5. 適正な為替レートの実現
    6. 現在のレートは円高に振れすぎである。食品工業としても海外立地で対応せざるをえない。


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