日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

4.繊維


  1. 現状
  2. 1980年まではアメリカとヨーロッパと日本が世界の合繊産業をリードしてきたが、1980年以降は韓国、台湾が飛躍的に伸びている。1990年から2000年にかけて、欧米ならびに日本は横ばい状態である。今後、中国、タイ、マレーシア、インドネシア等が合繊の主要供給基地として成長する。
    欧米の繊維産業では比較的寡占化が進み、品種別の棲み分けが行われているのに対し、わが国の繊維産業は、競争関係が厳しい状況にある。
    日本の繊維貿易は、70年代までは輸出を支えていたが、1986年に初めて入超に転じ、それ以降、毎年輸入幅が大きくなり、94年には140億ドル近い入超に至っている。平均すると、国内消費の5割が海外製品であり、天然繊維では7割強、合成繊維では3割を輸入品が占めている。
    日本の繊維産業の強みは、最先端の技術力を有する点、非価格競争力つまり品質のよさ、クイックレスポンス体制、新製品の開発力、技術サービス力、メーカー間の垂直連携による商品開発力、多様な用途展開を進めている点等である。一方弱みは、コスト競争力である。労務費、土地、エネルギー、公共料金、流通等、非貿易財分野のコストが高いため、競争力を減退させている。
    各企業はグローバルな世界戦略のなかで生きていくとともに高分子化学や有機合成化学などをベースに、繊維以外の事業への多角化戦略を進めている。1980年代以降、多角化がグローバル化とともに進展してきている。

  3. 課題と中期的展望
  4. アジア各国の繊維産業の台頭に対し、競争力の強化を図るために次のような課題が存在する。

    1. 長期経営ビジョンを策定し、高分子化学や有機合成化学をベースに事業の多角化戦略を進める。本業を中心に技術開発に取組みながら事業体質の強化を図る必要がある。

    2. 現在の国内と海外の生産比率は3対1であり、この差は今後さらに接近する見通しである。製品特化をしながら内外棲み分けを行う必要がある。海外進出は日本への逆輸入より、現地の需要への対応や第3国への輸出が中心となろう。適度なシェアを確保するため、海外からの秩序ある輸入や日本型MFAの発動を要請する必要も出てくる。

    3. マーケットインの発想で、消費者志向型のものづくりを行う。アパレルとデザイナー、染色・織布・素材メーカーが共同の商品化を進めることになろう。縦横の連携を強化しながら産地中小企業の競争力を高めていくべきである。またコンピュータを利用し、末端の消費動向を把握したものづくりへの対応を図る必要がある。

  5. 政策への提言・要望
    1. 社会システムの見直し
    2. 経済システムの見直しや産業構造の変革を通して、トータルコストを削減し、海外製品と競争できる適正価格で適品を消費者へ提供するための条件整備を期待する。例えば流通・物流の効率化を要望する。

    3. 為替の安定
    4. 為替の安定化を図るとともに、徹底した経済的規制緩和により内外価格差を是正し、内需拡大、輸入増を図ることにより、貿易黒字を中期的視点から削減するよう求める。輸出減による貿易黒字削減という縮小均衡は好ましくない。

    5. 人材育成
    6. 大学あるいは大学院教育による技術者育成を図る。


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