日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

5.製紙


  1. 現状と課題
  2. 日本の製紙業界は、経済成長に伴う国内マーケットの旺盛な需要の下、一貫して生産を拡大してきた。この要因としては、
    1. 施設の近代化・大型化などを通じ労働生産性の向上を図ったこと
    2. 国内顧客の厳しい品質・サービス要求に対応してきたこと
    3. 原料の多様化を図るべく海外展開を進めるとともに、パルプの開発輸入を進めてきたこと
    4. 業界内の企業再編を実施したこと
    等が挙げられる。このような取り組みを通じわが国の紙パ業界は、国際競争力を維持し強めてきた。
    1986年から90年までの需要の急増に対応し活発な設備投資が行われたが、93年以降は景気後退に伴い需要が停滞し、需給ギャップが拡大したため、製品価格が大幅に下落、収益が悪化し、各社とも操業短縮、コスト削減に懸命の努力を傾けた。また、合併により日本製紙、新王子製紙が誕生した。しかし、その後、世界的な需給の引締りを背景に、わが国でも95年に入り市況は回復に向かっているが、国際競争力向上、資源確保等の課題を抱えている。

  3. 中期的展望
    1. 国内需要
    2. 今後とも国内需要中心という基本的構造には変化がないと思われる。紙・板紙の需要の伸びはGNPとの相関性が高く、日本の経済成長率低下に伴い、国内需要の伸び率は今後低下するものと見込まれる。

    3. 国際化の進展
    4. 世界第2位の日本市場に対する諸外国からの参入要請が高まっており、市場アクセスの改善策が推進されている。日本の製紙企業にとって経済合理性の観点からも国際的な最適生産体制の構築が急務であり、合弁、業務提携等による開発輸入、現地生産、輸出による海外市場開発を推進すべきである。
      また今後東アジアにおける生産の伸びと、それに対応した生産の大幅な拡大が見込まれ、同地域は今後世界紙パルプ生産の一大拠点になると考えられる。わが国が同地域から製品の輸入を行う一方、品種によっては日本から東アジア市場への輸出が増え地域内分業体制が進む可能性がある。

    5. リストラの推進
    6. 当面の不況を克服し、新たな国際化の時代に対応していくため、既に実施したリストラの効果を早期に発現させるとともに、一層のリストラを推進し、コスト競争力の強化、企業力の強化を図る必要がある。

    7. 流通の合理化
    8. 紙・板紙の流通は、代理店・総合商社からなる一次卸と卸商と呼ばれる2次卸からなる。代理店の大口需要家への販売が増え、卸商の販売は減っている。メーカーと大口需要家の直接交渉も強まる傾向にある。流通の近代化・合理化は、製紙業界において重要課題である。情報化社会の到来、物流コストの増大、大口需要の増大などの変化が予想される中で、メーカー・代理店・卸商それぞれの機能分担を見直し再構築する必要がある。

    9. 環境問題への対応
    10. 地球環境問題への取組みを強め「資源多消費型産業」から古紙の利用による「資源リサイクル型産業」へ転換し、さらに植林の推進による「資源創造型産業」への脱却を図る。

  4. 今後の見通し
  5. 現在輸出と輸入はバランスがとれている。仮に今後2%程度の経済成長率が続くとすると、輸入の比率が若干増えても、稼働率は90%台で推移し、ほぼ適正な水準となる。コスト削減の折から雇用の増加は期待できない。また2000年に向け、東アジアの需要は旺盛な伸びが期待でき、中国では年率8.5%、アセアンでは年率9%と見込まれている。

  6. 政策への提言・要望
    1. 産業の合理化、業界内再編への制度(法制、税制、財政上の)支援
    2. 割高な国産チップをカットし輸入チップへと切替えねばならず、これに伴う転業・廃業への対応策を期待したい。リストラの環境整備として雇用対策、新規事業に対するインフセンティブが必要である。
      業界の再編を促すべく、合併のガイドラインについてグローバルな視点を導入する必要がある。
      また東アジアとの連携を強化するための支援・環境整備を期待する。具体的にはインフラ整備にむけたODAの供与、海外植林に対する支援として低利融資や森林保険の付与などを要望する。
      環境問題に対する取組みを支援する目的で、古紙の回収機構の整備に向けた制度的バックアップを期待するとともに、環境対策の観点から新展開が期待できる事業に対し、インセンティブを付与するなどの政策を要望する。

    3. 規制緩和
    4. 規制緩和による非貿易財の価格値下げを期待する。特にエネルギーや物流コスト(海上、陸上両面)の規制緩和を要望する。


日本語のホームページへ