日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

6.石油化学


  1. 現状と当面の課題
  2. 過去10年間、実質GNPの伸びに伴いエチレン生産も伸びてきたが、アジアからの製品輸入拡大等を背景に、1991年以降急激に両者が乖離し、エチレン生産は減少傾向にあった。しかしながら94年後半からは、アジア経済の活況によりアジア向け輸出が急増し、加えて内需も回復基調に入ったため、エチレン生産は回復している。
    特定産業構造改善臨時措置法の解除に伴う80年代後半のプラントの過剰増設が、今日の需給ギャップと市況の下落、固定費負担によるコストの増大を招いた結果、経常利益は88年と89年をピークに急速に減少し、93年度の12社の石油化学部門での損益は過去2番目の赤字であった。94年後半に操業率が回復しても、ピーク時の利益はおぼつかないのが現状である。また現在の高生産レベルはアジアの活況に起因するところが大きく、1〜2年は現状で推移すると思われるが、その後の見通しは立てがたい。

  3. 課題
    1. 業界再編
    2. わが国石油化学産業がコスト競争力に欠く原因として、業界内の過当競争体質が挙げられる。スケールエフェクトの観点から業界内の再編が必要である。特に海外プロジェクトについては、リスク負担能力の観点から大きな単位で実施する方が有利である。

    3. 生産効率の向上
    4. 自動車をはじめとする需要側の多様な要望に細かく対応した結果、欧米、アジア諸国のメーカーにくらべて非常に多くのグレードを用意することになり、結果として研究開発費や人件費、保管料負担が上昇している。また小さなプラントで多品種の製品を製造する結果、生産効率の悪化を招くとともに、需要家のサイズが小さいため平均搬入量が小さく、物流コストが上昇している。しかも大口の需要家に対し、多数のメーカーがシェアを競う過当競争下で、ニーズ対応にかかったコストを十分に価格に転嫁できていない。このため価格に転嫁できないサービスを見直し、低価格志向の強い製品については徹底したコスト削減に努力することが求められる。

    5. 合理化への取組み
    6. 各社・各事業を国際競争力のあるものとするために、競争力のない設備の縮小、人員削減など生産面での構造改革のみならず、物流面や研究開発の面でも個別企業の枠を超えた合理化への取組みが必要となろう。

  4. 政策への提言・要望
    1. 産業活性化のための諸施策(法制度)
    2. 国際競争力を強化して生き残るために、法ならびに税制度の支援が期待される。法制度では独禁法上の問題、例えば独禁法上の市場概念の見直しが必要である。東南アジア等を含めないで市場シェアの認定をすることは意味がない。具体的には、ABS樹脂を扱う日本企業約10社の生産能力が70数万トンであるのに対し、台湾のチーメイ社(奇美化成)1社の生産能力が100万トンを超える現状を鑑みると、非常に小規模な市場の中で、独禁法のシェアの認定をしてもほとんど意味がない。また業界再編の促進に向け、会社合併の際の諸手続きを緩和すべきである。税制改正については、所得税減税の継続実施、地価税の廃止、リストラ支援税制、法人税の引下げ、連結納税制度の導入、環境税の創設反対などを要望する。

    3. 規制緩和によるコスト削減
    4. 利益保護的色彩の強い諸規則の改定が必要である。例えば、内海の船腹調整制度の廃止、トラックの営業区域の規制緩和・重量緩和等、海運業への参加に対する許認可の軽減や、運賃協定に競争原理を導入する等の施策を導入することにより、原料価格、あるいは物流コストを下げることが可能となる。
      諸規定がもたらすコスト上昇の例として、関税法基本通達内の、輸入ナフサと重質NGLについて同時蔵置禁止規定がある。こうした諸規定が、コスト上昇(別々に保存タンクが必要)や原料の多様化の妨げとなっている。
      また保安関係では、高圧ガス施設の停止検査周期の延長など弾力的な運営を要望する。


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