日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

8.非鉄金属


  1. 現状
  2. 非鉄金属業は、国内産業の成熟化といった素材産業全体に共通する課題のみならず、同業界の収支構造の特性がもたらす構造的問題にも直面している。
    非鉄金属の価格は、歴史的にかなり以前から国際相場商品となっており、景気要因や政治要因、投機的な動きもミックスされて、価格変動の山と谷が非常に大きなものとなっている。非金属価格がドル・ポンド建てで決定されるため、円高が進むと直ちに価格が下がる。また海外相場の地金価格から鉱石価格を引いた差額(製錬マージン)が収入源であるが、鉱石価格とともにドル建てとなっており、銅・亜鉛などの非鉄精錬事業は、輸入産業にもかかわらず円高に弱いという事業体質をもっている。
    厳しい円高に対応するためにエネルギーコストの低減、人員の圧縮をはじめとした固定費の削減による生き残りを図っている。厳格な環境規制をクリアするための製錬技術を開発し、競争力を強化している。
    銅の国内需要の伸びは低いものの、情報通信関連の需要をベースに平均2%程度は堅実に伸びている。また共同製錬所等の業界協調により製錬能力は国内需要を下回っており、設備過剰の問題はない。しかしながら依然として製錬を取り巻く環境は厳しい。
    電力コストの特に高い亜鉛製錬は非常に苦しい状況になっている。アルミ製錬はオイルショック時の電力コスト上昇の影響が大きく、ほとんどが閉鎖された歴史がある。円高に弱い製錬事業に依存した事業体質を根本的に変革するため、非鉄金属メーカは早くから多角化の展開に力をいれてきた。例えば金属加工事業、アルミ缶、シリコン・ウエハ、電子部品、原子力事業など積極的に事業を展開している。現在、非鉄金属産業は、「複合素材産業」へ変貌を遂げている。

  3. 課題
  4. アジアでは主に通信インフラ整備向けに、年率2ケタ近い高い銅の需要の伸びが予想されており、製錬所の新設が必要とされている。厳しい環境規制に対応可能な日本の製錬技術への期待は、国際的に大きなものがある。世界的に銅の需給バランスは締まる傾向にあり、日本のデフレ現象とは反対に、海外での銅価格は1993年比で5割近く上昇するなど、上昇傾向にある。

    1. 海外展開
    2. こうした傾向の下、アジアを中心にグローバルな事業展開を進めている。非鉄金属は装置産業的な性格が強く撤退が容易でないため、カントリーリスクや事業の採算性を十分留意した上で、技術輸出にも注力しながら、製錬事業の海外展開を進めていくべきである。また、付加価値の高い海外鉱山への開発投資にも取り組むべきである。

    3. リサイクルへの取組み
    4. 環境問題や省エネへの対応から、非鉄金属のリサイクルの必要性が増大するものと見込まれ、リサイクル拠点としての製錬所の活用が求められる。日本は資源少国ではあるが非鉄金属のストック量は大きく、例えば自動車に使用されている鉛や銅を回収するだけでも大きな資源となる。

    5. 多角化の推進
    6. 非鉄金属業が生き残るには、多角化事業の競争力の強化が要諦である。比較的順調に展開している多角化事業も、不況と円高の影響を受けている。金属加工品は自動車と電機業界の成長力低下の影響を、また内需型事業であるアルミ缶も輸入ビールや輸入アルミ缶の増加など、円高の影響を大きく受けている。
      多角化事業でも設備投資や人員の圧縮等固定費の一層の削減が必要となる。今後は開発力をさらに強化して生産技術の革新による低コスト品や、日本でなければできない高付加価値品の開発を進めて、他社品との差別化を図っていくべきである。多角化事業の多くは、サポーティング産業の性格を持っている。アジア諸国からは、工業化の基盤となるサポーティング産業の技術移転の要望は強い。多角化事業の海外展開も進めていくべきである。

  5. 政策への提言・要望
    1. マクロ政策と産業構造の促進
    2. リストラによる競争力回復に向けた努力は、一面で空洞化や雇用悪化の恐れを生じさせることになる。企業のリストラと雇用の責任の矛盾を解決するために産業政策の役割は大きい。同時に成熟化した既存産業については構造調整で切り捨てるという発想ではなく、活性化を促して体力をつけさせるという視点が必要になってくる。

      (1)為替対策
      円高の是正に向けた経済政策が待たれるところである。1ドル110円程度の水準が適正である。

    3. 産業活性化のための諸施策
    4. (1)海外での事業展開の支援
      非鉄金属は資源を扱うこともあり、海外投資に対するリスクが高い。海外投資等損失準備金制度があるものの、対象が非常に限定されおり、しかも出資のみに限り投融資は対象となっていない。海外の投融資についても対象を広げるよう求めるものである。また貸し倒れ準備率の組入率についても見直しをして、海外投資に対するリスクを軽減するべく支援を講ずるよう要望する。

      (2)研究開発
      研究開発を促進するための税制面の支援が必要である。95年度税制大綱によると、過年度比20%超の研究費についての税額控除は据え置きであったが、ハイテク関係の率は割愛された。後者の重要性は増しており、この優遇についてはむしろ拡充が必要である。


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