日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

10.自動車


  1. 現状
  2. 1985年の国内販売は556万台であったが、バブル期の90年には、1.5倍近くの778万台にまで急膨張した。91年以降、減少を続け、94年には653万台にまで減少した。
    海外市場については、円高に伴う価格競争力の低下、欧州市場の低迷、米国ビッグ3の立ち直り等により、非常に厳しい環境にある。とりわけ、完成車輸出は現地生産の拡大もあり、年々減少を続けており、ピークの1985年における673万台から9年連続して減少し、1994年には446万台まで落ち込んでいる。その結果、国内生産については、1994年には1,055万台となり、3年連続して前年を下回る結果となった。
    従って、自動車業界の収益状況は非常に厳しく、自動車メーカー11社の営業利益率が3.9%であった90年3月期から、93年3月期には0.7%、94年3月期には0.2%まで落ち込んだ。この原因は、販売台数の減少、円高によるところが大きいが、これまでの設備投資、R&D投資などによる償却負担の増加も影響している。
    次に競争力という側面で考えると、かつては日本車と米国車の品質格差が大きく、多少の値上げを実施しても競争力への影響はほとんどなかったが、現在ではすでに日本車のほうが2割以上も割高であり、また、ビッグ3が日本の生産方式を研究し、品質向上に著しい効果を挙げている。そういった意味で、日米間の競争力はかなり接近した状況になっている。

  3. 課題
  4. これまで日本の自動車産業を支えてきた「量的な拡大」といった前提が、今後は望みにくい状況にある。そのため、自動車メーカー各社は今後の低成長時代でも収益を確保できる体制を整えるため、様々なリストラを推進中であり、すでに効果をあげているものも多くある。そうしたなか、当面の対策としては、原価低減活動を強化している。設備投資の削減も進め、バブル期には1兆5,000億円程度であった設備投資は、93、94年度ともに7,000億円程度と、バブル期の半分以下の水準となっている。また、人員面での対応も進めており、雇用調整助成金を受給している企業もあるなか、残業抑制、配置転換、新規採用の抑制、期間従業員の採用凍結などにより、需要の減少に対応している。また、もう少し大きい観点からは、工場閉鎖、生産能力の削減、不採算部門からの撤退などに取組んでおり、効果を上げている。他方、製品戦略の見直しという観点からは、車型の削減や部品の共通化、車種の相互供給、低価格化、装備のシンプル化などを図っている。
    中期的な課題としては、プロフィットセンターとしての国内基盤の構築、現地化の推進等による為替フリーの体制構築、世界最適調達の推進、環境・安全問題への積極的対応、規制緩和への取り組み、非自動車分野 (新規分野) への進出などが課題となる。

  5. 中期的展望
  6. 2000年の市場・生産の見直しについては、自動車業界として統一した見方がなく、これまでの各方面の議論や調査を参考に推測すると以下の通りとなる。
    国内市場については、世帯数の増加、複数保有率の上昇、免許保有者の増加、所得水準の向上などの要素から、保有台数は若干の増加が見込まれ、2000年の市場は750万台程度と考えられる。日本の市場もこれまでのような成長型から米国と同じ成熟・循環型の市場へと移行していくと考えられる。なお、輸入車については、今後、増加し、国内市場の1割程度になると考えられる。
    海外の市場を地域別にみると、米国市場については、すでに成熟段階であり、景気循環と同じような動きを今後も続けると思われ、2000年には1,400万台プラスマイナス150万台程度と想定される。日本からの輸出が今後さらに減少を続ける一方で、現地生産が大幅に増えてくると思われる。
    EU市場については、変動を繰り返しながら緩やかな拡大を続け、2000年で1,500万台程度と想定される。
    アジア市場については、今後、中国、タイ、インドネシア、マレーシアを中心に非常に大きな伸びが見込まれ、94年の480万台から2000年には700万台程度と想定される。そのうち日本からの輸出は現状並み、現地生産は200万台から300万台程度になると推定される。
    それ以外の市場では、中南米と中東の市場拡大が予想されるが、政治情勢や原油価格などの要素により市場は不安定であり、あまり大きな期待はできない。
    この結果、国内市場が750万台プラスマイナスアルファ、輸入車が70万台程度、完成車輸出が350万台プラスマイナスアルファであり、2000年時点の国内生産は1,030万台プラスマイナスアルファと考えられる。現地生産の増加により、全世界での日本ブランド車の生産は94年より200万台増加すると考えられる。完成車輸出が現地生産に置きかわった時、現地調達率等との関係もあるが、しばらくの間は、エンジン、ミッションなどの重要機能部品は、日本からの輸出が存在する。そういった意味では完成車輸出が現地生産に置きかわった途端、まるまる仕事が減る、空洞化が起きるわけではない。

  7. 政策への提言・要望
  8. マクロ対策、ミクロ経済改革等、種々の構造改革を通じ、持続的、安定的に日本経済の3%成長を実現させることが必要である。そのための具体的な対策として内需拡大による行き過ぎた円高の是正、新事業や新技術の創出・発展を容易にする大胆な規制緩和の推進と研究開発基盤の整備、自由貿易体制の堅持が重要となる。
    さらには、創造的な人材を早く創出するということが非常に重要である。学校教育の改革、さらには産業構造を高度化していく上で中高年が円滑に産業構造の転換に応じられるようなトレーニングの充実等、大胆な施策が必要とされている。


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