日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

11.重機・造船


  1. 現状
  2. 一般機械・器具製造業から事務用機械、ミシン、毛糸手編機械製造業を除いたすべての業種と、輸送用機械・器具製造業のうち船舶と航空機、鉄道車両、産業用運搬車両を合わせた範囲の業種の合計を造船・重機械産業と定義するならば、日本産業に占める位置づけは、次のようになる。
    日本全体の産業産出額に占める製造業のウェートは37%、製造業の出荷額に占める機械工業の出荷額のウェートが43%、そのうち造船・重機械は約10%であり、産業界全体から見れば約4%のウェートを占める産業である。
    また、全産業の就業者数に占める製造業のウェートは約24%、造船・重機械のウェートは製造業全体に対しては約11%で、産業全体から見れば3%弱のウェートを持った産業である。
    造船・重機械の出荷額は93年で約30兆円の規模で、機種は多岐にわたっている。また、従業員数は約121万人、事業者数は約7万6000工場で、平均すれば1工場当たり16人規模となり、中小企業が多いことが特徴である。
    30兆円の出荷額のうち87%がいわゆる一般機械と言われる分野であり、ボイラー・原動機、農業用機械、建設機械、工作機械等の産業機械が中心である。また、造船関係は約1割、残りの3%が航空・宇宙である。
    このうち国際競争力が高いと思われるものはボイラー・原動機(発電プラント)、建設機械、工作機械、製鉄機械、印刷・紙工機械、プラスチック機械、化学機械、造船等である。

  3. 課題
  4. (一般機械)

    原動機、産業機械、工作機械を中心とする一般機械は、資本財を提供する基盤的な産業であり、各産業の設備投資対応の製品が大半であるため、民間設備投資の動向に左右されることが非常に多い。
    また、製品は約2400種類あり、多品種・少量生産の製品が多く、受注生産品が主力である。
    一般機械の輸出比率は比較的高い水準にあり、製造業平均で約20%弱であるのに対して、25%程度となっている。受注生産という性格上、工作機械などの一部の例外を除いて、今のところ海外生産の比率は低いが、円高や世界的な大競争時代においては、海外調達の拡大によるコストの外貨化はもちろん、海外生産にも積極的に取り組んでいく必要がある。

    (造船)

    船のマーケットは国際的に一つであり、円高への対応を含めた国際競争力の向上が非常に重要な業界である。また、韓国の生産能力が今後さらに増加することを考慮すると、マーケットの需給バランスによって決まる船価は低迷することが予想される。円高、船価低迷への対応としては、コストの低減が最大の課題であり、その一環として大手造船会社では海外調達比率を現在の7%から15〜20%に引き上げることを、当面の目標としている。
    生産能力の確保も重要な課題である。長年にわたる造船不況により、設備、人員とも大幅に削減されており、製造工程の省人化、高齢化対応を含め、生産能力を確保していかなくてはならない。

    (航空・宇宙)

    航空機の開発には巨額の費用がかかり、開発期間、資金回収が長期にわたるため、事業リスクが非常に大きい。リスク分散とマーケットの確保のため、国際共同開発、国際分業が世界の趨勢になっている。こうした取り組みは、今後とも続けていかなくてはならないが、対等の立場で共同開発に参画するため、自主技術の開発も必要となってくる。
    日本では、この分野の民需が弱く、航空機については防衛庁への依存度が約75%、宇宙についてはほぼ官需のみという状況である。今後、防衛需要は減少すると考えられるので、旅客機やヘリコプターなどにも重点を置き、民間需要のウェートを高めていく必要がある。
    なお、航空機産業は、通常、先進国では代表的な輸出産業であるが、日本においては慢性的な輸入産業であり、通関ベースでも大幅な入超である。

  5. 中期展望
  6. (一般機械)

    製品の種類が非常に多いため、マクロの予測は非常に難しい。日経センター「日経5カ年予測」(95/3)をベースに、民間需要は「民間企業設備投資」、官公需は「公的固定資本形成」、海外需要は「財価・サービスの輸出」の年平均伸び率(名目)を乗じて試算すると、平均で 4.2%で成長していくことになるが、実感としてはこれをかなり下回ると見た方が良いように思われる。
    中期的な課題は以下の通りである。

    1. 地球環境保全・エネルギー供給分野への貢献、すなわち、エネルギー利用の高度化・効率化を主眼とする技術開発に注力する必要がある(例:複合発電やコジェネレーションによる一次エネルギーの高度・効率利用、地域冷暖房や廃熱利用の推進による2次エネルギーの有効活用、風力・地熱・太陽光発電・原子力等CO2を発生しない非化石燃料やクリーンエネルギーの技術の開発利用、CO2の分離・回収・再利用)。

    2. 産業の高度化への対応。具体的には、メカトロ化、省エネ化、省人化、省スペース化設備のニーズに対応していくことになる。従来技術にエレクトロニクスの先端技術を組み込んで、より精度が高くて使いやすく、安い機械を供給していくことが必要である。

    3. 生活関連分野に対応した機械や設備の供給をしていく必要が出てきている。

    4. グローバリゼーションと円高への対応とともに、アジアや途上国に対する技術協力や技術指導を行なっていく必要がある。

    5. FMS化、FA化、CIM化など、多品種少量生産への対応を図る。

    (造船)

    新造船については、リプレースの需要を中心に2010年まで平均で1800〜2200万GTの需要があり、2006年以降は減少するとの試算がある。なお、造船の需要予測は、スクラップ化の進展度合や投機的な発注で需要が前後に動く可能性が高いが、潜在的な需要は存在している。

    (航空・宇宙)

    現在、世界の大型民間航空機の年間納入台数は約650機である。供給過剰と旅客の伸びが鈍化するため、2000年までは600機程度で推移し、その後は増えると予測されている。また、以下の取り組みが必要とされている。

    1. 防衛需要の減少に伴ない、大型から小型の旅客機、ヘリコプターなどに注力して、民需のウェートを高める。

    2. 欧米メーカーとの国際共同開発への積極的参加。

    3. 自主技術力の育成強化。

    4. また国に対しては、空港の整備・拡充、宇宙開発予算の拡大、ヘリコプターに係わる規制緩和の推進等を期待したい。


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