日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

12.家庭電器


  1. 現状
    1. 円高による影響
    2. 昨今の恒常的な円高傾向で、国内の家電メーカーの価格競争力が急速に低下し、海外への生産シフトが進んでいる。国内生産の縮小による国内の空洞化、それに伴う雇用問題の顕在化は非常に大きな問題である。

    3. 価格を巡る変化
    4. 従来からの機能やデザインに対するニーズに加え、価格を重視する傾向が強まってきており、内外メーカーとの価格競争、とりわけ韓国など東南アジアのメーカーの価格攻勢が一段と厳しくなってきており、価格をめぐる問題が非常に大きな問題である。また、大型量販店とチェーン店のルート間の価格差が増大している。

    5. 販売ルートを巡る変化
    6. 販売チャネルのボーダーレス化が進み、非専門店のウエイトが増えている。また、商品領域が拡大し、業務用のルートが拡大するといったルート間の変化も出てきている。

    7. 安定的な買い替え需要の存在と成熟製品の成長の鈍化
    8. エアコンや冷蔵庫などの家庭電化製品(AVを除く)については、今後も安定した買い替え需要が見込まれ、製品コストをいかに下げ、価格競争力をつけるかがポイントになる。しかしながら、テレビ、VTRなど家庭電子製品については、市場が成熟していることに加え、製品コスト、円高、内外競争の激化もあり、大きな伸びは期待できない。

  2. 課題
    1. 合理化の推進
    2. オーソドックスな対応を地道に進めることが重要であり、原価の低減、棚卸資産の縮減、経費の節減、早期売掛・早期入金の促進、設備投資の厳選・重点化、人材の再配置といった不況対策を着実に実行していく必要がある。

    3. 円高への対応としての価格競争力強化
    4. 価格競争力を強化する上で、さらなる国際化の推進が非常に大きな課題となる。カラーテレビ、VTR、エアコン、冷蔵庫、洗濯機などの生産は、東アジアへのシフトが進み、家電部門の海外生産の比率は今後、高まると思われる。

    5. 製品競争力の強化
    6. 静かさや軽さなど、明確なコンセプトに基づいた他製品との差別化、高付加価値化を進め、顧客ニーズの多様化に対応した商品を展開する必要がある。そのためには、従来の研究・開発の仕組みを変え、開発のスピードをあげることなども重要になると考えられる。

    7. 国際化の推進
    8. 海外の営業体制については、家電市場の拡大に対応して、現地販売会社、販売合弁会社の新増設、さらにはサービス拠点の拡充などの展開を進めることが重要になる。また、今後、エレクトロニクスと同様、海外家電メーカーとのアライアンスも、国際分業、共同研究開発、商品計画等の面を含め、さらに進むと思われる。

    9. 余剰人員への対応
    10. 工場の統廃合、閉鎖に伴う余剰人員をレイオフするのは非常に困難であり、新しい産業分野を作り、配置転換を進める必要がある。これまで、他事業所への配置転換やサービス部門への職種転換により対応してきたが、これも進めにくくなっている。

  3. 中期展望
    1. マルチメディア関連の市場
    2. マルチメディア関連の市場の展開は非常に不透明であるものの、中長期的には通信、放送、コンピュータ、映像、ゲームといった各産業の融合の領域を広げながら高い成長を遂げていくと考えられる。家電業界についても、その重要な一翼を担うことになると思われる。
      市場規模としては、平成10年度には1兆2000億程度、年率が38%台の急速な拡大が予想される、家電事業の分野でも家庭用のテレビ機器、ビデオ・オン・ディマンドシステム、映像システム、監視システム、ホーム用ゲーム機といった分野が考えられる。

    3. 事業分野の拡大
    4. コンシューマー・エレクトロニクスとしてのハイビジョン関連機器については、平成9年度には2000億円位まで成長すると思われ、家電メーカー各社とも、この分野の新製品の開発にしのぎを削っている。さらには、生ゴミの処理機や住宅組み込み型のハウジング・エアコン等のシステム品等の分野も重要である。

    5. 商品を巡る変化
    6. 商品のボーダーレス化が進み、テレビとビデオ、テレビとカメラ、マルチメディア関連の複合した機能をもった製品が誕生している。また、ワードプロセッサーやファックス、ゲーム機など、家庭用と業務用のボーダーレス化が進むと考えられる。さらには、ソフトのウエイトが高まり、商品のシステム化が進行している。その一方で、商品に対する顧客のニーズもライフスタイルの変化、あるいは女性労働力の増加、高齢化の進行、顧客の基本機能重視の傾向といったことで極めて多様化している。

  4. 政策への提言・要望
    1. 社会資本の整備
    2. 日本経済が自律性を高め、真に世界の中で共生していくため、国内の社会資本の整備、充実が不可欠であり、政府のマクロ政策が必要となってくる。社会資本の整備については、景気対策としてのみならず、将来の日本のあるべき姿を見据え、明確なビジョンを持って政策が打ち出される必要がある。また、都市問題の解決や情報通信インフラの整備、教育・研究機関の充実といった新産業社会資本の整備とともに、高齢化社会の対応や出生率の低下、女性の社会進出等、社会構造の変化を見越した生活社会資本の整備も遅れてはならない。

    3. 行政改革と規制緩和
    4. 縦割り行政の改善、あるいは省庁間の垣根を超えた協力体制の仕組みづくりを進めるべきである。
      また、商法の合併に関する手続きなどについて、合併報告総会の廃止など、大胆な簡素化が必要と思われる。現在の商法には会社分割の規定がないことから、合併手続きの簡素化と合わせ、分割の法制についても検討すべきである。独禁法については、一定規模以下の合併、子会社との合併は原則自由、一定規模を超える合併であっても垂直合併は原則自由にすることや、持ち株会社の禁止規定の撤廃などを実現するべきである。

    5. 新産業の創造と研究開発の促進
    6. 国内の空洞化を回避し、雇用を確保するためには、新しい産業を創造する必要がある。新たな産業分野としては、環境、資源リサイクル、あるいはロボット等の省力化、作業環境改善の関連機器、次世代情報通信システム、ライフスタイルの変化に伴う新しいサービス、さらにはアミューズメント関連産業など様々な分野が考えられる。新しい産業を育成するためには、社会資本の整備、規制緩和・行政改革と連動し、製造業とサービス産業、あるいはソフト産業が個別企業の枠を超えてダイナミックに連携・協力、あるいは融合できる法的なスキームの構築や円滑な資金の供給の仕組みといったものを検討する必要がある。
      また、日本の高度な技術力を将来にわたって維持して、世界の技術革新を常にリードするため、研究開発投資や教育機関の充実強化、あるいは国際的な研究者の育成のための国家的な施策の推進をしていかなければならない。

    7. 国際協調体制の推進
    8. 貿易や投資の自由化、あるいは国際交流の活発化を推進していくため、工業基準とか認証制度の国際的整合性、あるいは相互承認の導入、工業所有権制度の国際的調和の実現に向けての日本のリーダーシップを発揮することが必要である。また発展途上国における産業基盤の整備、エネルギー問題や環境問題を解決するための財政的、技術的な支援、あるいは研究者・技術者育成のための協力も重要であるとともに、先進国については、産業協力、国際分業、技術交流を促進するための施策を推進することも重要である。


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