日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

13.電子機器


  1. 現状
  2. エレクトロニクス産業は、1970年代から今日までにおいて、ニクソンショックのあった71年、オイルショックがあった75年、円高不況の86年と過去合計3回のマイナス成長を経験している。しかしながら、今回の円高は、さらに深刻な状況を招いており、かつて経験のない2年間連続のマイナス成長に陥っている。ニクソンショック時には民生用の輸出により、オイルショック時には米国向けの民生用の輸出、半導体等の部品の内需増により、マイナス成長を脱出することができた。さらに、86年の円高不況時にはICの輸出が急激に伸び、NTTのデジタル化投資、あるいは金融面での第3次オンラインという内需があり、非常に早く回復することができた。今回も91年以来4年に及ぶ停滞の後、世界的なPC需要・移動体通信需要の拡大に伴い、半導体を中心に需要は急回復しつつある。しかしながら、過去の回復局面と比べ、市場の大きな構造変化を伴っており明るい将来展望を描ききれない状況である。
    その大きな要因としては、
    1. 技術革新の進展につれ、エレクトロニクス機器の価格が大きく低下してきたこと
    2. 競争力の源泉がソフトウェアなど知的財産分野にシフトしつつあり、こうした分野では米国が大きくリードしていること
    3. メガコンペティション時代の到来によって世界市場が一体化してきていること
    4. 技術移転によってアジアの競争力が大きく向上しつつあること
    等、があげられる。

  3. 課題
  4. 今後、実力以上の円高が進展した場合、本当に日本の産業にとって必要な分野まで海外に流出し、空洞化が進む可能性も考えられる。従って、国際分業という考え方に基づき、海外に移すものと日本国内に残すべきものを棲み分ける必要がある。
    また、最近ではデファクト・スタンダードを狙っての覇権争い、技術摩擦が起こっており、米国は情報通信分野で自国の方式を世界の標準として広めようとしている一方、欧州は排他的標準を作ろうとしている。これらがアジア市場で競合するなか、日本の対応を検討する必要がある。

  5. 中期展望
  6. これまでの日米のコンピューター需要の推移を見ると、米国の動きを日本が5〜7年遅れで追いかける形となっている。米国では、1990年代以降、景気の立ち直りと同時に情報化投資が盛んに行われ、設備投資に占める情報化の投資率が高くなったように、現在の米国の情報革命の波が同様に日本に到達し、今後、情報化が急速に進展すると考えられる。また、マルチメディアと言われる市場が、ダウンサイジング・オープン化・ネットワーク化の進展により、本格的に拡大すると考えられる。そういう中で、ネットワーク化が非常に重要な意味を持つが、米国においては、インターネットの普及により、コンピュータ通信網の相互接続が急速に進展した。
    また、エレクトロニクス産業の海外投資は非常に増えており、累計額では年率約25%で増加し、今後、生産の海外シフトが進むと考えられる。1992年では2451億ドルの海外投資が行われており、中でも、アジアの国々に対する投資が増加している。
    国内的には、マルチメディア等の進展により、2000年前後には123兆円の市場が生まれるという試算もあるが、円高等、現在の延長線上で考えた場合、国内生産はほぼ横ばいであると予想できる。特にIC等については、国内生産に止まると考えられるが、民生関係の電子部品等は海外に生産をシフトすると思われる。従って、国内生産はむしろ減少し、現在、デバイス、集積回路、通信・コンピュータ、民生用電子部品を含め、100万人前後いると言われているエレクトロニクス産業の就業者数の大きな増大は望めないと思われる。

  7. 政策への提言・要望
    1. エレクトロニクス産業は大きく構造的に変化しようとしており、21世紀に向けた産業構造のあるべき方向性、新しいビジョンを示す必要がある。

    2. 特にマルチメディアの時代においては、現行の制度では不可能である遠隔地教育や遠隔地検診などへの制度的対応が必要となる。

    3. 新社会資本の整備拡充、さらには、情報化社会にマッチした人材の育成、教育環境の整備、研究開発機能の整備等が重要である。

    4. 円高により日本は世界一経営資源のコストが高い。経営コストの低減が必要である。情報社会に向けて、通信料金の引下げは経営コストの低減に繋がる。

    5. 情報化社会において、無駄な投資をなくし、統合的に、横断的に進めるべき課題に対応するため、行政のリストラを進める必要がある。また、行政の情報化を推進することによってチープ・ガバメントを実現することが可能であると考えられる。

    6. 技術の進展が早く巨額の開発費がかかる事業領域だが、日本では民間に依存しており政府支出が少ない。日本が持っている生産技術力を高めるためにも、技術開発に資する環境を整備すべきである。


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