日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

15.情報通信


  1. 現状
  2. 情報通信産業の市場は成長を続けており、1993年時点でその規模は23兆円以上となっている。その中でも、電気通信サービス、情報メディアの分野が増加しており、情報サービス分野にやや不況の影響が見られる。国内生産額からみると、情報通信産業の国内生産額がわが国経済に占める割合は、1980年に5.8%であったが、91年には10.4%と増加している。また、雇用者数については、85年から91年にかけて、全体の伸びが16%程度であるのに対して、26.5%と非常に高い伸び率となっており、総雇用者数に占める情報通信産業の雇用者数の占める割合も、6.6%から7.3%と大きくなっている。
    国内電気通信のマーケットは、85年の通信自由化後10年になるが、期待するほどには伸びておらず、伸びていないシェアの中で「ゼロサム・ゲーム」を展開してきた。個別では、自動車携帯電話、無線呼び出しの分野が高い伸びを示している。自動車携帯電話が28事業者、無線呼び出しが40事業者という数字からも、無線分野の急成長が読み取れる。国際電気通信市場は国内電気通信以上のペースで拡大している。
    国内通信事業のシェアについては、固定電話については実質的に市内は独占状態に近いが、東名阪の3都府県間の長距離は、いわゆるNCC(ニュー・コモン・キャリア)合計で50%を越えている。国際通信事業については、NCCのシェアは30%となっており、国内通信と同様、競争が進展している。
    国内通信事業者の売上高と経常利益の推移を89年以降について見ると、NTTについては売上高はほぼ横ばい、経常利益は93年までは減少を続け、NCCについては3社のうち2社の売上高は急伸、経常利益も93年に入り鈍化するまで、急伸していた。国際通信については、KDDが、売上高、経常利益ともほぼ横ばいであるのに対して、NCC2社は急成長している状態である。
    自由化の目的の一つが料金の低廉化あげられるが、NCCの参入以降、料金水準に一定の格差を設定しながら、ほぼ1〜2年おきに値下げを行ってきたと言える。一方、国際通信については、国内と傾向が違い、NCCがサービスを開始した89年10月以降、ほぼ同じ水準での料金で競争を行っている状態である。
    通信事業者の設備投資の推移は、全産業において設備投資状況が鈍化しているなか、堅調に伸びている。これは、通信事業も設備産業であり、設備の維持更新には一定の投資を継続する必要があることと、いわゆるデジタル化を進めてきたことによる。

  3. 課題
  4. 現在敷かれている電話網は、電話のための網と言える。今後、電話の時代からマルチメディア時代へ移り変わる上で、ネットワークを介した様々なサービスの実現には、アプリケーションの整備とともに、アクセス網の整備が欠かせない。1988年に開始されたISDNサービスは、94年に全国展開された。今後は、ユーザーと電話局間のネットワークについて、どう光設備を整備するかが重要な課題である。市内の設備投資は大きな投資を必要とし、ここを光化するためには、銅線を使う場合と同様のコストで光設備を敷設する技術の開発が重要になる。
    マルチメディア時代へ向けてのサービス開発への取組において、アプリケーションを立ち上げるための必要条件として、通信業者、端末業者、IP業者(IP:情報提供者)は緊密に連携を取ることが重要である。現状では、3者が個別に動いている状況であり、これがマルチメディアに対する不安につながっていると考えられる。

  5. 中期展望
  6. 電気通信審議会「21世紀の知的社会への改革に向けて」によると、1990年に16兆円であった市場は、2010年には123兆円になり、新たな雇用として243万人を創出すると予測されている。
    その内訳は、一定の定義のもと、既存市場の成長分が67兆円、新規市場が56兆円と計算できる。前者は、いわゆる光ファイバーというインフラが、ユーザーと電話局の間に敷設されていなくても創出される市場ということであるのに対して、後者は、光ファイバーが敷設されることによって新しくできる市場という意味である。
    情報通信基盤の効用としては、主に、高齢化社会への対応、一極集中の是正、経済構造の改革、ゆとりある豊かな生活の実現、国際社会との調和、環境問題への対応という方向性が示されている。
    21世紀に向けた情報通信基盤の在り方としては、インフラ部分は民間事業者が競争によって整備し、国は、税制優遇、無利子融資等による支援を実施することが提言されている。
    アプリケーションの整備のためには、公的なアプリケーションの需要を早期に立ち上げる必要があること、また、アクセス網の光化整備を2010年までに完了することなどが示されている。

  7. 政策への提言・要望
  8. 事業者の創意工夫による新サービスの開発やインフラ整備のための環境整備を期待する。具体的には、以下の通りである。

    1. インフラ整備の促進支援
    2. 2000年までは先行整備期間とされているが、技術開発面で間に合わないこともあり、無利子融資等投資負担の軽減措置、共同溝等の整備、地中化関連税制の拡充を期待する。

    3. 政府自らの情報化の促進、公的アプリケーションの開発・導入
    4. アメリカなどでは、実際に、公的分野の情報化に力を入れてきており、高度情報通信社会実現の起爆剤となることを期待できる。なお、中央・地方における公共分野の先導的アプリケーションのモデル事業の推進や取組の継続性、実施状況のフォローアップがポイントになる。

    5. 情報化、電子化に対応した制度・慣習の見直し
    6. たとえば遠隔医療あるいは遠隔教育の実現のための制度・慣習の見なおしを政府一体となって推進することを期待する。

    7. 基礎研究の推進
    8. 規制緩和
    9. ユーザーのニーズに即応し、事業者の創意・工夫が生かされる仕組みを構築すべきである。


日本語のホームページへ