日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

16.チェーンストア


  1. 現状
  2. 1993年度のチェーンストア業界全体の売り上げは15兆5000億円、百貨店は8兆9000億円であり、売り上げでは約1.7倍の規模、従業員数は42万人で、百貨店業界に比べると約3倍となっている。小売り全体に占めるシェアはチェーンストア業界が約11%、百貨店約7%、両方合わせて20%弱である。
    現在は第2次流通革命と言われるが、チェーンストアが登場した40年前の第1次流通革命との違いは、当時の生産者主導に対して、現在は生活者主導、消費者主導に変わってきていることである。
    バブル期を経て生活者は多様な価値観を身につけ、個性化・差別化を追求するとともに、低価格志向を強めており、価値に見合った価格でないと売れない時代になってきている。これはバブル期を経て生活者が賢明になったということもあるが、内外価格差の存在が大きい。年間約1000万人の日本人が海外旅行をして、海外で物を買って日本国内の物の値段がいかに高いかを実感をしていることが低価格志向の背景にあると考えられる。
    こういった生活者の低価格志向を背景にして、いわゆる消費不況が長期化している。客数はかなり増えているが、売り上げ単価が下がっているために、売上高としてはマイナスになってしまっているというのが現況であり、こういった状況は今後かなり長い間続くものと予想される。

  3. 課題
  4. 今日のチェーンストア業は、生活者の個性化・差別化志向や多様な価値観に対応して、きめ細かな商品提供を強く求められている。同時に低価格志向にも対応した商品を開発して、これを特売日だけではなくて、常時、低価格で供給できるシステムを確立していくことも重要である。
    対策としては、第一に、大量・計画発注、全量買い取り、直接輸入、無広告・無宣伝、メーカー・商社との連携等による低価格商品の開発・供給が必要である。この点で、POSシステムやクイック・リスポンス・システムをはじめとする情報システムをさらに高度化し、十分に活用していくことが重要である。
    第2は、低価格商品の常時供給を可能にするローコスト・オペレーション体制の確立が必要である。最近、一部の企業においては様々な試みが行われつつある。一例として、店舗は、1階ないし2階建て、床はコンクリートの打ちっぱなし、場所も郊外で、1000台以上の駐車場を持つ安い店づくりをしている。店舗運営も、ボックス陳列(ダンボールからいちいち取り出して並べることはしない)、集中レジ、カメラ警備等により経費節減に努めている。物流も、納品される物資は一旦物流センターに集め、そこで検品をして店別に仕分けし、そこから店にトラックで輸送するという形で合理化に努めている。これには、交通混雑問題に対する対策という意味あいもある、等々である。管理部門の生産性向上も課題である。
    第3は、規制緩和である。従来から大店法をはじめとして、コメの販売、酒類販売等の許認可に縛られており、規制緩和の推進は流通業界の生産性の合理化向上のみならず、基本的には生活者の利便の向上に資するものである。
    第4は、建値制、再販売価格維持契約など、商慣行の改善が必要である。

  5. 中期展望
  6. 規制緩和の進展に伴い、従来以上に競争が激化していくものと予想される。生活者の低価格指向の強まり、生活者利便への対応の強化等の観点から、業態としてはディスカウント志向の強い業態、コンビニエンスストア、通信販売といった分野が伸びていくものと予想される。
    国際的な展開としては、海外からの仕入れ、海外での商品開発は現在でもかなり進んでおり、今後さらに進展すると思われるが、海外での店舗展開はまだこれからというのが現状である。
    また、流通業は国際的に見ると生産性が非常に低い分野であり、今後、自由な市場のなかで競争を通じて生産性を上げていくことが必要である。それに伴って、従来いろいろな規制で保護されていた低生産性分野の雇用に影響が出てこざるを得ない。また、流通経路の合理化、製販直結が進むと、卸売等の中間段階での雇用に影響が出てくる可能性がある。
    しかし、チェーンストア業界全体として見ると、規制緩和によって競争が促進され、効率化、生産性の向上、企業の近代化等が進み、消費需要の拡大に伴って、雇用量も増大するものと思われる。

  7. 政策への提言・要望
    1. 規制緩和
    2. 流通業の近代化を進めるためには、参入規制等の経済的規制を原則廃止すべきである。

    3. 社会資本の整備
    4. 当業界の合理化のためには物流部門の合理化が大きな柱になる。高速道路網、空港・港湾施設等、物流関連の社会資本の整備が必要である。

    5. 財政政策
    6. 個人消費を促進することにより内需を拡大し、国際経済摩擦を解消しながら、日本経済を安定成長軌道に乗せるため、所得税減税を継続実施すべきである。

    7. 人材活用
    8. 産業構造の変化、企業のリストラの進展、産業の空洞化の進展等に伴い、企業の転廃業や離職者の増加が予想され、転業指導、教育が重要になる。
      また、雇用の流動化に対応して、人材派遣、職業紹介分野での規制緩和も重要である。


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