日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

18.証券


  1. 現状
  2. 資本市場における本邦企業の資金調達は、1989年においては、株式やCB、ワラントの大量発行のため、エクイティの比率が93.5%であったが、90年4月の時価発行増資の停止や、91年7月の国内ワラント債の発行停止を受け、92年には逆にデッドの比率が75.1%となっている。調達の絶対額では、1988年、89年をピークに、半減している。
    この間、調達をよりしやすくするために商品性の多様化が進められ、92年1月にはゼロクーポン債の発行、同じく3月にはプットオプション付きCBの発行、93年2月にはハイクーポン、ハイプレミアム債の発行が実現した他、94年3月には4年ぶりに時価発行増資が再開された。また、95年4月より新規公開の社数制限が撤廃された。
    株価は、1989年12月大納会につけた最高値3万8915円をピークに下落し始め、92年8月の1万4309円を大底に回復途上にある。証券界の現在の苦境は、6年にわたる株価不振に大きく起因している。東証一部売買代金は、88年下半期には、1日平均の売買代金が1兆4,110億円であったものが、その後の株価の低迷があり、1日平均で2,830億円(1995年4月〜8月)に落ち込んでいる。株式持ち合いの解消が始まり、売買代金10億円を超える部分の株式売却委託手数料が自由化されたことも、証券会社の収入減の要因となった。昨年10月には自社株取得の解禁がなされたが、売買高の回復にはつながっていない。
    債券市場については、2年債、5年債、20年債等の償還年限の多様化、親保証債、デュアルカレンシー債、変動利付債等の商品性の多様化が進み、事業債の発行額が増加傾向にある。また、社債発行市場の活性化のため、発行登録制度の導入、適債基準の更なる緩和、(トリプルB銘柄の無担保債発行、親保証債の発行等)等が実現している。93年10月には、社債法について、発行限度額の撤廃や、募集の受託会社を廃止し、社債管理会社を設置するという改正がなされた。

  3. 課題
    1. 証券市場の空洞化への対応
    2. 外国企業の東証上場企業数の減少の原因としては、上場維持コストが高いわりにメリットが少ないことといわれている。昨年の12月には東証から上場基準の緩和が発表され、本年10月より、新規上場手数料が引き下げられる等、引き続き上場維持コストの低減が検討されている。外国企業の場合、上場維持コストの中で、特に英語から日本語への翻訳料が高いという問題が指摘されている。
      SEAQインターナショナル(ロンドン外国株式市場)における日本株取引の増加の原因としては、有価証券取引税の存在や固定手数料等が割高であることを指摘する説もあるが、単なる日本株取引の国際化であるという意見もある。
      SIMEX(シンガポールの国際金融取引所)における日経平均先物売買高の増加は、日本の手数料、証拠金等が割高で、かつ取引所税が存在することが主な原因とも言われている。諸外国との整合を図るべく、有価証券取引税・取引所税の撤廃を行うことが必要である。なお手数料の自由化の問題については、これだけを分離独立して議論するのではなく、わが国の現況及び証券業務の自由化の進展度合を踏まえた上で、議論する必要がある。
      サムライ市場における高格付け発行体の減少の問題は、わが国の市場では海外市場と比較して発行条件における格付けの格差が小さく、その結果、高格付け、例えばトリプルAの発行体がサムライ市場に来ないと言われている。
      外資系証券業者の撤退の原因としては、日本市場の魅力低下といえよう。一つは日本のコスト高、諸規制によって自由に営業ができないということであり、もう一つはビジネス機会が減少しているということである。

    3. 魅力ある市場とするための対策
    4. 公社債流通市場の未整備が言われているが、その原因としては、受渡決済制度の不備、源泉徴収課税や有価証券取引税の存在が指摘されている。
      ベンチャー企業の資金調達が困難という点では、取引所上場基準や店頭登録基準が厳しく、またその結果として公開までの時間も長いという問題が指摘されている。これに関しては、本年7月、店頭登録特則銘柄制度の新設により、研究開発型、知識集約型企業の登録基準が緩和され、資本市場へのアクセスを容易にした。
      制限的な発行市場という点では、大蔵省の「適債基準及び財務制限条項に関する考え方」、「時価発行増資の再開について」という一種の行政指導があって、特に時価発行増資についてのバーが非常に高いものになっている。これに関しては、本年3月、1996年1月から適債基準を撤廃する方針が発表された。また、時価発行増資の基準についても今年度中に見直しの方向で検討されることになっている。
      新商品、新技術開発については、取り扱える金融派生商品に対する規制があるということで、もう一つ伸び悩んでいるのが現状である。

  4. 中期展望
  5. 企業の資金調達が多様化し、資本市場からの調達の重要性、比較優位性の認識は今後とも高まるものと予想される。特に、成長段階にある、あるいは、新規事業を計画する企業に対するリスク・キャピタルの提供という観点から、また、来年から予定されている適債基準撤廃により、原則として全ての企業が社債により資金調達を行い得ることとなるという観点から、直接金融の果たす役割は今後とも重要である。一方、高齢化が進む中での膨大な個人金融資産の効率的運用、機関投資家の運用パフォーマンス向上の必要性等の観点からも、有価証券投資のニーズはますます高まるものと予想される。
    証券市場においては、市場原理を通じて資金が各産業に配分されることになるため、わが国の産業構造の転換を進めるためにも證券市場の果たす役割は大きい。従って、より市場重視、イノベーション重視が徹底されるよう、證券市場及び證券会社に関する諸規制も必要最小限のものに緩和されていくことは国民経済的にも有益である。
    主に株式市場における出来高の低迷が原因となり、証券会社の業績は依然として厳しい状況にあるが、この証券市場の重要性の一層の高まりの中で、各社創意工夫のある経営を行うことが必要となろう。

  6. 政策への提言・要望
  7. 直接金融に係わる証券会社の経営を立て直し、証券市場を拡大していくためには、課題で指摘したような規制緩和や証券税制の見直しが喫緊の課題である。発行市場・流通市場双方に存在する規制は必要最小限にするとともに、デリバティブや証券化をはじめとする新商品開発や証券業務の自由度を広げ、市場拡大のさらなる努力が行われることが望まれる。


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