日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

19.生命保険


  1. 現状
  2. 生命保険業を営む民間生命保険会社は全部で31社あり、うち外資系が9社(現地法人7社、支社2社)である。従業員は66万人で、その内43万人をセールスが占めている。1993年の保険契約高は2,021兆円、保険料収入は年30兆円である。総資産は169兆円にのぼる。
    世帯当たりの保険金即ち保障額は1世帯あたり約4,200万円、年収の5.7倍となっており、同年間保険料は47万円、年収の6.8%を占めている。
    世帯員2名以上の一般世帯の保険加入率は82.5%であり、これに簡易保険、共済等を入れると95%程度に達する。
    一般企業の売上に相当する生保の初年度収入保険料は名目GNPとの相関性が高く、過去30年の両者の伸びは共に9%半ばであったが、近年は景気の低迷と歩調を合わせるように生保の初年度収入保険料も低迷している。

  3. 課題
  4. 生命保険会社は保険販売と運用の両方の面で課題を抱えている。販売面では、個人年金など貯蓄的な商品の契約件数が年々増加しているのに対して、保障性商品の売り上げのウェイトは次第に低下してきている。その理由としては、低成長経済の中で、加入率、保険料負担ともに高い水準になっており、生命保険に対する需要喚起が難しくなってきているということががある。1991年をピークに新規契約が減少する一方、解約、満期は逐年増えており、低成長下の販売、サービス戦略の構築が必要となっている。
    今後は、販売面での保障保険分野の伸び悩みに加えて、年金保険分野をはじめとする貯蓄保険分野の競合も激化してくる。個人貯蓄をめぐって銀行、証券、信託、投資顧問、損保など、競争が激化している。
    さらに、景気の低迷に伴う市中金利の動きを勘案すれば、予定利率の引下げは止むを得ないが、、保険料上昇の影響が今後出てくるものと予想される。
    資産運用面では、資金需要の減少により生保の運用収益の要である貸付の構成比は60〜70年代の7割から4割に低下している。バブル崩壊以降は株式や外貨建資産等を圧縮し、貸付や円建債券へのシフトにより安定収益獲得を目指してきたが、低金利局面の長期化と高利回り資産の償還から運用利回りは低下の一途を辿り、現在では予定利率を下回る逆ざや状況に陥っている。
    こうした生保の厳しい状況の中で、各社は、(1)間接部門から直接部門への人員シフト、組織のスリム化、(2)営業部員への情報装備、(3)負債構造にマッチした運用と商品設計等の対応を検討している。

  5. 中期展望
  6. 社会・経済の構造変化に伴い、従来から生命保険業界が担ってきた保障分野に加え、自助努力社会の到来を控えての年金をはじめとする人生設計分野や介護・医療・保障分野で果たすべき役割が高まってくるものと考えられる。即ち、家庭内において、いままでは男性が収入を得て、女性が介護とか家庭を守るという役割分担をしていたのが、女性の自立化により、家庭内で個人がたった関係、すなわち、「家族」から「個族」へ家庭が変化する可能性がある。その中で、家族の機能は外部サービス化し、財政を通じての将来の老齢化に対する保障は、いまの急速な高齢化の中では維持するのはなかなか難しくなり、結局、老後の支えとか医療、介護といったものも、より自助努力が中心となったものへ変わってくるであろう。そこに生命保険の「人生産業」としての役割がある。
    また更には、日本経済の産業資金の供給者としての役割や、ベンチャー企業育成への貢献を今後、より一層求められることになろう。

  7. 政策への提言・要望
  8. 長寿社会に相応しい日本型福祉社会を構築していくためには、(1)成長性の確保、(2)自助努力中心、(3)効率的なシステムの三つが必須の要素である。日本の家族の特性、世代間公平性等にも配慮した上で、これらを満足する条件としては、(1)日本固有の三世代家族をシステムの核として活用、(2)公的社会保障制度と自助努力の調和した社会システムの構築、(3)福祉サービスの市場化、競争促進が最も望ましい姿となる。
    そのためには、民間の努力に加えて、(1)高齢者・女性の就業率アップ、(2)福祉ビジョンの具体策に関する情報提供、(3)福祉サービス市場化のための規制緩和の推進等、政府の協力が不可欠である。


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