日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

20.不動産


  1. 現状と課題
    1. 住宅事業
    2. 1993年の住宅統計調査によると、総世帯数4,122万に対して総住宅数が4,594万戸で、世帯数に比べ住宅数が472万戸上回っており、1世帯当たりの住宅が1.11戸と、1割以上の空き家が出ている状況になっている。ただ、空き家の質に関しては、半分以上が共同住宅であるとか、相当な修理をしないと住めない住宅であり、全体の戸数が充足しているから住宅問題が片づいているということではない。
      質の面では、建設省の第6期住宅建設5ヵ年計画で目標としている1世帯人員を4人とした場合の最低居住水準は50平方m、都市居住型(マンション)誘導居住水準は91平方m、戸建て住宅のあるべき姿を示す一般型誘導居住水準が123平方mとされている。これに対して、持家が137.5平方m、分譲住宅90.3平方m、貸家48.3平方mとなっており、貸家の質が非常に悪いのが目立つ。分譲マンションについては、戸数ベースでは相当数が供給されており、価格もリーズナブルになっているが、面積が縮小傾向にあることには問題がある。
      宅地供給については、列島改造当時の2万3,400haをピークに下落を続け、最近では1万から1万1,000haぐらいで横這いとなっている。そのうち、民間供給は8,500ha程度を占めているが、土地の所有者が土地区画整理法に基づいて組合を作って開発するという形のものがほとんどであり、不動産会社が一定の大規模な山林等を購入し、開発許可を受けるという伝統的な開発手法があまり見られなくなっている。これは、用地の取得が困難であったり、適地がないということのほかに、関連公共負担等が非常に重く、原価が増大し、経営上採算に乗らないということも大きな要因になっている。

    3. 賃貸オフィスビル事業
    4. オフィスビル(賃貸・自用)については、東京23区の延床面積は都の調査によると1992年時点で1,735万坪とされている。75年が約762万坪であったので,約15年間で2倍強となっている。
      賃貸オフィスビルの成約面積は最近急速に増えてきているが、オフィス賃料は93年1月頃から急速に下がっており、現在もまだ弱含み状態が続いている。賃貸水準は90年レベルにほぼ戻り、あるいは90年レベルをさらに割り込んでいるのではないかと見られる。

  2. 中期展望
    1. 住宅事業
    2. 住宅は、20〜49歳の世帯が新たに購入する世帯の中核であるが、厚生省の人口推計によると、1990年で1,892万世帯で、2000〜2005年まで増加傾向が持続し、それをピークに減少してくる。したがって、今後5年ないし10年の間では住宅に関する需要は持続するものと考えられる。
      住宅着工戸数については、建設省の推計では、2000年まで年平均で140万戸強と推計されている。しかし、マンションについていえば、2000年時点で、例えば築25年超の中古マンションが累積で66万5千戸、マンションストック全体の約20%を占めると予想されている。そうなると、築年数の古い中古マンションの問題もクローズアップされてくるであろうし、また、リフォーム技術が進歩すれば、逆に新築着工の足を引っ張ることも考えられる。

    3. 賃貸オフィスビル事業
    4. 東京23区のオフィスワーカー1人当たりの使用床面積は、1990年のネット2.8坪から、93年にはネット2.6坪に落ちている。オフィス需要面積を、〔オフィスワーカー数*1人当たり使用床面積〕と考え、この1人当たり使用床面積を93年の2.6坪をベースに、過去の趨勢値 (1980年代前半)で伸ばしていくと、2000年時点で、空室率が23区全体で11%程度、面積にして111万坪程度が空室で残ることが予想される。
      しかし、90年から93年に1人当たり使用床面積が、0.2坪落ちたのは、不況に対応した一次的な縮み現象と考えられるので、予測に当たり、ベースを90年の2.8坪におくことも考えられるし、また、外国企業における1人当たり使用床面積は、日本企業の1.6倍程度となっており、今後わが国においてもオフィス環境が改善されることも十分考えられよう。
      したがって、これらの要因を考慮すると、2000年における東京23区のオフィスマーケットは、弱く見ると10%程度の空室が残り、強気で見れば空室はほぼゼロになる可能性も秘めている。

  3. 政策への提言・要望
  4. わが国の地価の長期トレンドをみると、マクロ的には名目GNPまたは名目GDPと相関性をもって推移してきているが、昭和58年を基点とした場合、地価はすでに名目GDPを下回っており、バブル部分は消滅したと考えられる。
    こうした状況変化の下で、(1)大都市圏における土地利用状況の改善、(2)都市開発・地域開発事業における新たな事業形態の創造、(3)土地税制の見直し(地価税の廃止、固定資産税負担の見直し、個人・法人の長期土地譲渡益課税の軽減〈平成3年度水準〉)が求められる。


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