日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

21.輸送


  1. 現状
  2. 高度成長期には国内の貨物輸送は大量生産・大量消費に伴って経済成長に相関するような動きであったが、最近は技術革新のもとに貨物が軽薄短小、すなわち、金額は高いが軽量化・小型化する傾向にあり、1983年度から1993年度までの間に、貨物の量は13%しか伸びていない。
    輸送機関別にみると、大部分の貨物が自動車によって輸送されているが、JR貨物は1983年当時から35%も減少している。物流事業全体の市場規模は約20兆円で、そのうちの12兆円が自動車運送である。トラック業者は零細企業が多く、10両までの車両規模で43%、20人までの従業員規模で65%という大きな割合を示している。近年、航空貨物が非常に大きな伸びを示しており、83年から見ると倍増している。
    最近の特徴的な動きとしては、消費者物流が非常に活発になってきていることで、いわゆる川下に直結した小口貨物が増加している。そのなかでも最も特徴的なのは宅配便である。1994年度の宅配便取扱個数は、民間が13億1,800万個、郵政省が3億7,800万個となっている。宅配便においても、近年、航空機による輸送の比率が急速に伸びてきている。
    国際貨物については経済の国際化を反映してかなり伸びており、特に航空貨物の伸びは非常に顕著なものがある。

  3. 課題
  4. 物流業界では顧客の要求が高度化・多様化してきており、輸送の高品質、多頻度のデリバリー、情報化等の高度な要求が出ている一方、コストダウンの要求が非常に厳しくなっている。業界では共同化、大型化、荷役の機械化に取り組んでいるが、社会全体として解決していかなければならない問題、たとえば基盤整備としての物流社会資本の充実も重要である。
    コスト面で物流を効率化するためには、外形、包装の統一、パレット化等の標準化と平準化が重要となっている。
    また、最近は「ロジスティクス」といわれる、調達から生産、販売、保管といった一貫した物流が重要視されてきている。フィジカル・ディストリビューション、バリュー・アデッド・ロジステクス、バリュー・アデッド・ディストリビューションという言葉も出てきており、物流を区間区間の細切れになったサービスだけではなくて、全体としてのサービスを求めるケースが多くなっている。
    次に国際化への対応については、わが国で稼働している外航コンテナターミナルの接岸能力などの問題がある。コンテナ船は5〜6千個のコンテナが積載可能な程度に大型化が計画されているが、日本では現在このような大型船が入るバースは少なくて、震災にあった神戸は別にして、東京に2つ、横浜に2つ、名古屋に1つだけとなっている。また、日本の港湾荷役については、六大港においては6月以降日曜荷役が例外措置として再開され、また神戸においては暫定的であるが24間荷役が行われているものの、シンガポール、香港等のサービス水準には未だ隔たりがある。さらに、港湾関係費用も日本はかなり高くなっている。こうした結果として、アジア主要港のコンテナ取扱量をみると、香港、シンガポール、高雄は非常に伸びており、神戸港は過去10年間でトランジットのコンテナの数が50%から20%に減っている。
    空港についても、国際空港の整備に問題があり、離着陸料も他国との格差が大きい。国の一般財源の投入を図って整備を促進していく必要がある。
    物流業の内外価格差の問題については、物流事業のコスト低減のための方策や物流効率化なども含め、産業界全体挙げての協力が必要となっている。
    物流業界では、全体で 135万人の労働人口を抱え、全産業の総労働時間が2,000時間を割っている中で道路運送事業者はいまだに2,300時間も働いている。一方、時間当たり賃金は全産業の77%にすぎず、物流業の労働は非常に厳しいものとなっている。
    今後は女性の物流業への進出も促進することが課題である。

  5. 中期展望
  6. 経験的には経済成長率が3%を下回ると、総量として国内貨物輸送はプラスにならないといわれている。
    貨物の輸送量は、1994〜2000年までの実質経済成長率を3.2%とすると、国内貨物量は0.3%増、2000年以降については実質経済成長率を2.4%とすると0.9%のマイナス成長と予想されるが、低成長に合わせて下方修正することが必要である。

  7. 政策への提言・要望
    1. 省庁間の連携
    2. 官庁の縦割りによる整備のために整合性が非常に問題になってきている。たとえば、道路は建設省であり、鉄道・港湾・空港は運輸省、農道は農水省、交通規制は警察というふうにそれぞれ担当が分かれており、それぞれの整合性をより一層進めることが必要である。

    3. 交通渋滞の解消
    4. 大都市中心にボトルネックが発生している。都市間の交通混雑、高速道路から都市へ入る接続のボトルネックの問題は、基本的な社会資本でありながら整備財源を原則的に受益者負担にしているところに根本的原因がある。

    5. 付帯設備の整備
    6. アメリカの場合、大きなビルには必ずフレートエレベーターがあり、貨物トラックが入るドックベイが付いているが、わが国では大規模ビルへの搬出入設備、都市内道路に付属するトラックベイ、大きなビルにおける貨物のエレベーターといったものへの理解が少ない。

    7. ライフラインとしての物流確保
    8. 阪神大震災では、物流が電気、ガス、水道、通信と同様に、被災地の最低限度の生命維持に欠くべからざるライフラインであることが認識された。日ごろから物流幹線の耐震強化のための補強、災害発生を予想したときの迂回回路の確保が必要である。


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