日本産業の中期展望と今後の課題

〔第二部〕
個別業界の中期展望と課題

22.電力


  1. 現状
    1. 日本の電気事業の位置付け
    2. 日本の電力消費量は、アメリカ、ロシア、中国に次ぎ世界で4番目の規模である。日本の発電電力量の構成は火力が64%を占め、世界の主要国と同様な構成であるが、燃料でみると、他の国々では自国で産出する石炭利用の比重が高いのに対し、日本の場合、輸入によってまかなわれる石油・ガスの構成比が高いことが特徴となっている。
      経営効率を主要国と比較すると、従業員1人当たりの販売電力量でみた労働生産性は世界のトップレベルにある。電気の質とは停電の少なさや電圧・周波数の安定性のことであるが、日本の停電時間の短さは先進国の中でも際立って短い。ただし良質の信頼度を維持するためにはコストの問題もあり、コストと質のバランスをどう考えるかは今後の課題でもある。
      また、日本の電力事業は環境問題にも積極的に取り組んできており、これまでの環境対策の結果、火力発電からのSOx・NOx排出量は、先進国の中でも飛び抜けて低い水準になっている。

    3. 電気事業の枠組み
    4. 一般の需要家の需要に対して、電気を供給する事業者は一般電気事業者と呼ばれ、現在、10の電力会社が地域毎に1社づつあり、発電から販売にいたるまで一貫した経営を行っている。一般電力事業者に電力を供給している卸電力事業者は現在、全国で56事業者あり、発電電力量では日本全体の13%を占めている。この他に自家発電があり、発電量のシェアは全国の12%となっている。自家発電は技術的な保安規制等については電気事業者と同様に規制を受けているが、現在でも、その導入・設置については自由である。
      今回の電気事業法の改正により、原則として、卸売市場、すなわち発電市場が自由化されることになった。卸売される電気を購入するのは一般電気事業者であるが、発電市場の効率化を図るとともに、公正、透明な制度にするという趣旨から入札制が導入される。また、特定の地点の顧客に対して直接電気を販売すること(特定電気事業)も可能になった。

  2. 課題
    1. 電源のベストミックス
    2. わが国の電力需要の伸びは、電力化の進展などから、GDPの伸びを上回って推移してきた。需要の内訳としては、家庭用の電灯やビル・商業用の業務用電力などの生活関連需要の伸びが高く、そのウエイトは着実に上昇してきており、近年では産業用需要を上回るに至っている。
      需要が着実に増加する一方、電源の開発は難しくなってきている。電力の消費地から遠隔な地点にしか発電所の立地ができない状況になってきている上、リードタイム、つまり最初に地元に話を持ちかけてから発電を開始するまでの期間が極めて長くなってきている。
      ベース供給力として原子力と石炭火力、ミドル供給力としてガス火力、ピークには石油火力・水力で対応することにしているが、このような状況下で、供給の安定性・経済性・環境面でバランスのとれた電源のベストミックスをどのようにして確保していくかは、今後の大きな課題である。

    3. 需要対策
    4. 電力の安定供給を果たすために、我々はかねて、供給対策だけではなく、需要家に電気の使い方を工夫していただく需要方策(DSM)にも積極的に取り組んできた。今後とも、ユーザーの協力を得つつ、ピークシフトピークカットを進めることによって、設備の有効利用を図っていきたい。年負荷率1%改善で、kWh当たりのコストが約20銭安くなるという試算もある。負荷の平準化を進めることで、需要増もできる既存の設備の利用率向上で対応し、コストダウンにつなげていきたい。

    5. 地球環境問題
    6. 近年、地球温暖化問題が浮上してきたが、CO2の抑制には省エネ・省資源の徹底とともに、環境負荷の小さいエネルギーを増加させる必要がある。ただし日本の場合、省エネルギーはかなり進展しており、経済活動が拡大すれば、ある程度エネルギー消費量は増えざるを得ない。地球規模の環境問題を解決するには一国だけではなく、技術移転などの国際協力などの視点も必要である。

    7. 国際化への対応
    8. エネルギー問題・電力問題がいま一番典型的に起こっているのは中国、東南アジアであり、今後とも、急速な電力化の進展・電力需要の急増が見込まれている。これらの地域に対して、日本の電力事業者はこれまで蓄積している、エネルギー効率を高める技術・ノウハウ、環境保全のための技術・ノウハウの提供を通じて手助けしていく必要がある。

    9. 原子燃料サイクルの確立
    10. 資源問題、地球温暖化問題等の見地から、今後とも原子力発電の推進が必要である。特にウラン資源の再利用を図り、原子力発電を真の国産エネルギーとして確率するために、国内で原子燃料サイクルを確立することが不可欠である。

  3. 中期展望
  4. 今後の電力需要の見通しとしては、1994年度を起点とした向こう10年間の販売電力量の年平均増加率は1.9%と想定している。ただし94年の夏は記録的な猛暑で冷房用需要が増えているため、94年度の需要を平年並みの気温に置き直すと、この伸びは2%台半ばになる。
    このような着実に増加する電力需要に対して、より一層の経営効率化を進め、電力需給の安定と電気料金の低減・安定化に最大限の努力を傾注する必要がある。


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