日本産業の中期展望と今後の課題

〔第一部〕
日本産業の中期展望と今後の課題(総論)

──経済の構造改革による雇用の確保と国民生活の向上を目指して──

はじめに


  1. わが国経済は、バブル崩壊後、株価の低迷や地価の下落等の資産デフレ、不良債権問題、円高の急激な進展等が絡み合って深刻な不況に陥り、最近3年間はほとんどゼロ成長の状態にある。景気は93年10月に底を打ったとする政府の景気回復宣言に対して、経団連は企業経営者の実感としては依然として景気は底を打ったとはいえないと主張してきたが、打ち続く金融不安や、最近100円近辺に戻したとはいえ依然として高い水準にある円相場もあって、経営者は先行きに対する危機感が払拭できないでいる。雇用状況も、失業率の上昇、新規学卒者の就職難など、深刻化しつつあり、早急に経済の活性化が図られなければ雇用不安が顕在化するおそれがある。

  2. さらに、そうした景気低迷と並行して進行し、日本経済の基盤を浸食しているのが、製造業、金融、運輸、技術、人材、情報などの分野における「空洞化」である。特に製造業においては、成熟化しつつある一方で、円高やアジアの発展を背景に生産の海外移転が急速に進んでおり、国内において産業の高度化、新産業・新事業の創出がなければ、将来における経済の発展、雇用の確保、国民生活の向上は期待できない。高齢化時代を間近に控え、日本経済はまさに繁栄の持続か没落かという重大な岐路にさしかかっているといっても過言ではない。

  3. 今日、わが国が直面している構造的な困難の主因は、明治以来の官主導・中央集権型の社会システムの行き詰まりにある。「追いつき、追い越せ」型の日本型経済システムは、経済規模の拡大という面では目標の達成に一定の貢献をしてきたが、歴史的な変革期にあってあらゆる面で創造性を発揮しなければならない今日においては、逆に足かせとなっている。特に、規制は政治と行政の過剰介入をもたらし、規制される側の業界にとっても既得権益を守る有効な手段となり、変革を妨げる結果となっている。
    80年代に産業の空洞化が進行したアメリカ経済は、徹底的な規制緩和と法人税・所得税の税率大幅引下げによって活力を取戻し、例えば21世紀のリーディング産業といわれる情報通信分野において圧倒的な競争力を誇っている。
    景気回復のためにも、中長期的な構造改革のためにも、わが国産業の進むべき方向と克服すべき課題を明らかにする必要がある。

  4. そこで当会では、会員企業の参考に供するため、産業政策委員会の中に政策部会を設け、各業界からのヒアリング(第2部参照)をベースに、わが国の産業を取り巻く環境の変化とそれに対する企業のあるべき対応、産業構造の方向、政策課題等を検討した。
    さらに、長期マクロモデルと産業連関表を使って、2010年における産業構造の予測を行なった。

  5. なお、この検討は産業構造的な視点から行なったものであり、本報告で指摘している不良債権問題、税制のあり方、新産業・新事業の育成等の個別の課題については、それぞれ、担当委員会において検討が行われている。
    また、経団連では現在、今後20年から30年後を展望したわが国経済社会の基本構想を作成中であり、本報告は同構想につながるものである。


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