日本産業の中期展望と今後の課題

〔第一部〕
日本産業の中期展望と今後の課題(総論)

──経済の構造改革による雇用の確保と国民生活の向上を目指して──

3.構造改革による新しい産業基盤の整備


内外の環境変化に対応し、21世紀に相応しい活力ある経済社会を実現するには、企業の自助努力はもとより重要であるが、企業がリスクに挑戦し、創意工夫を発揮していくための新しい産業基盤の構築と環境整備に向けて、政府における大胆な政策改革が不可欠である。
経済界からみて政府に期待される役割・課題は以下の通りである。

  1. 景気対策の着実な実施
  2. 産業の高度化を図り、経済を活性化させ、国民生活の充実を図るためには、日本経済を景気低迷から脱却させ、経済発展の好循環に乗せ、中長期的には3%程度の安定成長を維持することが必要である。そのためには、14兆円にのぼる経済対策を速やかに実施に移すとともに、なお一層の為替の安定化に加え、景気対策の視点からも税制の抜本改革の早期実施、規制撤廃・緩和の一層の推進が必要である。

  3. 規制の撤廃・緩和
  4. 規制撤廃・緩和は、当面の景気回復につながるとともに、日本経済が中長期的に構造改革を進め、活力を維持していく上でも必須である。経団連はこれまで数次にわたって規制緩和要望を政府に提出してきたが、その着実な実現が望まれる。特に産業基盤の整備という視点からは、純粋持株会社の解禁、大店法の段階的廃止、独禁法適用除外見直し、金融・資本市場における規制緩和等を急ぐべきである。
    また、経済的規制の究極の姿は国営事業であると考えられるが、郵貯をはじめとする公的部門は民業を圧迫しているとの指摘もあり、民業補完という原点に立ち返った役割の見直しを急ぐべきである。
    さらに、縦割り行政の改善、産業構造の変化に合わせた省庁間の垣根を超える協力体制作りを進めるべきである。

  5. 企業活力の発揮に向けた税制の見直し
  6. わが国における法人課税は国際的に際立って高い水準にある。経済社会の活力を維持し、進展するグローバル化に対応するためには、諸外国並の税負担に適正化を図るべきである。
    法人課税の少なくとも米国水準への引下げ、証券市場の活性化と国際的整合性の視点からの配当に係わる二重課税の排除ならびに有価証券取引税の廃止、地価税廃止等土地税制の抜本的見直し等が求められる。

  7. 新しい社会資本の整備
  8. 国民生活の充実と産業活動の基盤強化のために、大規模拠点空港の整備をはじめとするハード面のインフラ整備に加え、情報通信、教育、研究など新しい社会インフラの整備を促進すべきである。また、従来型の公共事業についても、固定化しているシェアの見直しを行うとともに、国・地方公共団体の企画・設計業務を外注化するなど、効率化を図るべきである。
    また、高齢化社会への対応や出生率の低下、女性の社会進出等、社会構造の変化を見越した生活関連資本の整備も重要である。
    このため、630兆円の新公共投資基本計画の内容の具体化と計画自体の前倒しが望まれる。

  9. 新産業・新事業への支援
  10. 新産業・新事業の創出に向けて、さる7月18日に当会が発表した「新産業・新事業創出への提言−起業家精神を育む社会を目指して」において指摘した通り、規制緩和を通じた事業機会の創造、ストック・オプションの導入、「起業」を進める税制改革、資金調達環境の整備、等が求められる。

  11. 人材の流動化促進と人材育成・再教育への支援
  12. 日本経済を取り巻く内外の環境が大きく変化する中、日本が活力ある社会を実現し、今後とも持続的な成長を続けるためには、人材の流動化を進めることが必要である。労使ともに日本型の雇用慣行を見直し開放型の雇用体系を築くとともに、政府においても、派遣業の自由化、年金のポータブル化、長期継続雇用を有利とする退職所得課税の見直し等、人材の流動化に向けた制度の整備に努める必要がある。
    また、創造的な人材の育成に向けた学校教育の改革、さらには、産業構造を高度化していく上で中高年が円滑に職種の転換に応じられるような再教育プログラム等も必要である。

  13. 環境問題解決のための研究開発の強化と途上国への環境協力
  14. 地球環境問題解決のため、非化石燃料などの新エネルギー開発等の基礎研究および技術開発を強化すべきである。また、国民生活において大きな問題となっている廃棄物のリサイクル技術の開発促進ならびに循環型経済実現のためのシステム開発を進めるべきである。さらに、環境ODAの充実を図り、途上国への公害防止技術の移転を進める必要がある。


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