土地・住宅政策の再構築を求める
総 論

1995年11月14日
社団法人 経済団体連合会


  1. 緊急を要する資産デフレ対策
  2. わが国経済はバブル崩壊に伴う資産デフレ問題の解決に目処が立っていないことなどを背景に、景気回復の鍵を握る設備投資や個人消費の立ち直りが遅れ、依然として先行きの不透明感を払拭できない状況にある。こうした中、政府では9月20日の経済対策、本年度第2次補正予算編成に引き続き、来年度予算案の編成、税制改正案のとりまとめに向け、景気回復の方策を模索している。

    そもそも数次にわたり総額50兆円を超える経済対策がとられてきたにもかかわらず、全体として政策発動が遅れた感は否めない。特に資産デフレに関しては、その克服策すら十分に確立されていないのが現状である。既に地価は実体経済の水準を下回るところまで下落し、しかもその底値を見出しえない状況にある。その結果、資産デフレが景気回復の足かせとなり、さらに景気低迷が資産デフレに拍車をかけるといったデフレ・スパイラルの状況が生じている。こうした悪循環を一刻も早く断ち切るために政府は、当面、来年度の予算編成並びに税制改正において経済全体の浮揚を図る総合的な景気対策を盛り込むとともに、資産デフレを解消させる、より直接的かつ効果的な対策を講じていくことが求められる。

    具体的には、土地・住宅税制の抜本的見直しを図るとともに、都市計画道路や都市公園などの関連基盤整備や土地利用・建築関連規制の合理化を図ることを通じて、都心部における優良な都市再開発や郊外部における大規模な住宅開発を促進し、土地の有効・高度利用を図ることが必要である。

    こうした対策を通じて、真の意味での不動産市場の活性化を図るとともに、本格的な高齢社会の到来を目前に控えたわが国が、21世紀に向けた新しい時代にふさわしい都市、すなわち、そこに住む人々が機能性、利便性に加え、美しさや健康、安全性、快適性などを享受できる都市の建設を進めることが最重要の課題である。都市づくりに当たっては、国の一般財源を集中的に投入して関連都市基盤の整備を行うとともに必要な規制緩和措置を講ずるなど、民間事業者の活力を引き出すような環境整備を行うべきである。

  3. 土地問題の根本的解決に向けた総合的な検討
  4. こうした観点から、土地問題の根本的解決に向けた総合的な制度改革に政府をあげて取り組むことが重要である。関係省庁、関係審議会が同じ危機感と問題意識を持ち、根本的な土地利用、都市計画、税財政の改革について検討を行い、実行することを求めたい。

    89年に制定された土地基本法は、土地についての基本理念、すなわち、(1)土地についての公共の福祉優先、(2)適正かつ計画に従った利用、(3)投機的土地取引の抑制、(4)価値の増加に伴う利益に応じた適切な負担を明らかにしている。しかしながら、土地の利用に関する国民的な合意が十分に形成されず、専ら地価の抑制に偏った土地対策がとられた結果、各種の制度が土地基本法の理念に即して体系的に再構築されないままになっている。それが結果として、質の高い住宅の取得等を通じた国民の資産形成や大都市圏における土地の有効・高度利用、さらには内需拡大を通じた経済の安定的成長を妨げるなど、土地問題の真の意味での解決を遅らせることになったものと考えられる。

    したがって、土地基本法の基本理念に立ち返り、土地問題の根本的解決を図る、安定的かつ合理的な制度を確立する観点から、土地政策審議会や住宅宅地審議会、都市計画中央審議会、建築審議会、さらには財政制度審議会、税制調査会などにおいてそれぞれ縦割りで審議されている現行の体制を見直すことが必要である。

    具体的には、経済の実態にあった土地の利用や負担のあり方が総合的に確立されるよう、政治の強力なリーダーシップの下、それぞれの審議会が相互に連携をとりつつ、土地利用制度や税財政制度の改革の方向について同時並行的に検討することを望みたい。

  5. 大震災の経験を活かした住民参加の街づくりの推進
  6. わが国は新年早々、未曾有の大災害となった阪神・淡路大震災を経験した。被災地が、住民や企業、自治体の力で一日も早く新しい街に生まれ変わることを祈りたいが、今回の震災の経験を踏まえると、被災地のみならず全国各地の都市においても、わが国ではこれまで本格的に行われることがなかった計画的な街づくりを推進することが求められる。それによって形成される近代的な都市基盤こそ、21世紀に生きる次の世代にわれわれが残せる最大の遺産となるものである。

    こうした観点から、地方自治体が策定するマスタープランのもと、住民が個々の利害を超えて新しい街づくりに主体的に参加していくことが求められる。その際、民間事業者も、具体的な事業推進のために積極的に参画していくことが重要である。


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