土地・住宅政策の再構築を求める
各 論

1995年11月14日
社団法人 経済団体連合会


  1. 土地税制の抜本的見直し
  2. 固定資産税と地価税をあわせた土地保有税負担は企業収益を大きく圧迫し、また長期土地譲渡益重課は企業のリストラを阻害していることから、土地税制の抜本的見直しを緊急に行うべきである。

    1. 地価税の撤廃
    2. 地価税は、固定資産税との二重課税となっている上、生産手段として有効に活用されている土地にも課税されている。また、地価税による負担は特定業種、特定地域において過重となっている。地価税は土地の有効活用を図るという政策目的にそぐわない不公平・不合理な税であり、撤廃すべきである。

    3. 固定資産税の負担軽減
    4. 94年度の評価替えに伴い、地価の下落が続いているにもかかわらず、税負担は年々最低でも5%程度増加している。このような負担増加は、行政サービスに応じて負担するとされる固定資産税の本来の性格からしても受け入れられるものではない。
      96年度改正において、少なくとも現在の負担水準に据え置くべきであり、さらに次回(97年度)の評価替えに際しては、税率の引下げ、評価のあり方の見直し(地価公示価格の7割評価の見直し)等の抜本的改正を行うべきである。

    5. 長期土地譲渡所得課税等の軽減
    6. 企業がリストラを進める上で、長期保有土地の譲渡益に対する重課制度の廃止が不可欠である。また、大規模かつ優良な都市・住宅開発を促進する観点から、個人の長期土地譲渡所得課税について少なくとも91年度税制改正以前の水準に軽減すべきである。
      加えて土地を取得する側においても、土地の登録免許税、不動産取得税が固定資産税評価額の大幅な引上げに伴い過大な負担になっていることから、これら流通税の軽減が必要である。

  3. 住宅税制の抜本的見直し
  4. バブル崩壊後の景気低迷期においても、過去例のないほどのマンション・ブームが継続している現状を考えれば、大都市圏において、より安く、より広く、通勤・通学に便利な住宅・宅地に対する潜在需要がいかに大きいものであるかをうかがい知ることができる。このような大きな需要があるにもかかわらず、わが国の住宅関係税制は先進諸外国に比べ依然として不十分と言わざるを得ない。住宅投資が景気回復の牽引役の柱として期待されていることをも踏まえて、これまで社会政策的な色彩が強かった住宅税制を欧米の制度を参考としつつ、わが国の内需主導型経済への移行を着実に進める基幹的な税制として再構築することが求められる。また、そのことが取りも直さず本格的な高齢社会の到来への備えにもなる訳で、政治の決断を強く求めたい。

    1. 住宅取得促進税制の拡充
    2. わが国国民が保有する膨大な金融資産を住宅投資に向かわせるような新たな優遇税制に再構築することにより、内需振興と優良な住宅ストックの形成を図るべきである。
      当面は景気動向等を勘案して、現行の住宅取得促進税制の控除期間延長(現行6年→8年)、所得制限の撤廃(現行:2,000万円)を図るべきである。
      中期的には欧米の制度を参考としつつ、所得控除制度への移行等、住宅取得促進税制の抜本的見直しを検討する必要がある。

    3. 居住用財産の買換特例制度の拡充等
    4. ライフサイクルに応じた個人の住替えを促進すべく、居住用財産の買換特例制度における適用範囲を拡大すべきである。具体的には、所有期間並びに居住期間の短縮(所有期間現行:10年超→5年超、居住期間現行:10年以上→5年以上)、譲渡資産の価格限度額(現行:2億円以下)の撤廃、買換資産の床面積制限(現行:50平方m以上 240平方m以下)及び敷地面積制限(現行:500平方m以下)の撤廃を図るべきである。
      また、高齢者が一定要件の下、居住用財産を売却した場合の譲渡所得について非課税にすべきである。

    5. 居住用財産の買換えにより発生した譲渡損失の繰越控除の実現
    6. 現下の厳しい経済状況の下で低迷している住宅の買換えを促進することにより居住水準の向上を図るため、居住用財産の買換えに伴い譲渡損失が生じた場合には、翌年以降3年間の所得金額から損失を繰り越して控除できる特例措置を講ずべきである。

  5. 公共用地取得の促進
  6. 本年度第2次補正予算において、大都市圏に重点を置き公共用地等の取得を積極的に行う措置が盛り込まれた。特に、一般公共事業に係わる用地費については、工事費と区分して予算が計上されたが、これにより大都市圏における公共用地の取得が進捗することが期待される。
    今こそ、さらに思い切った予算措置を講じて、これまで予定地の買収が計画通りに進んでいなかった都市計画道路や公園用地並びにその代替地の取得を進めるべきである。こうした公共用地の取得が進めば、大都市圏において遅れている都市基盤整備を実現できるばかりか、不動産市場の活性化を促すことになり、不良資産問題の解決にもつながるものと期待される。

  7. 民間都市開発推進機構の土地取得業務の拡充
  8. 本年度の第2次補正予算において、土地の有効・高度利用を進める観点から、民間都市開発推進機構を活用した土地の先行取得に 5,000億円の追加事業費が計上された。
    同時に、同機構の土地取得業務については、土地取得要件の緩和や土地の保有期間の延長、土地の保有コストの軽減(利子補給制度の実施)、買い戻し特約の緩和措置がとられたが、これらに加えて今後、同機構による土地の長期保有を前提として、(1)土地の買い切り契約、(2)定期借地権等を活用した土地の貸与等を実現することを検討すべきである。
    また、企業の同機構への土地売却意欲を高めるため、会計上、売却損の償却期間を延長するなどの特例を認めるべきである。

  9. 都心部における優良な都市再開発の促進
    1. 都心居住推進のための規制の緩和等
    2. 大都市圏における土地の有効活用、とりわけ根強いニーズのある都心居住を推進する優良な再開発事業に対しては、(1)容積率の緩和(前面道路幅員に係わる容積率制限の緩和を含む)、(2)再開発街区を段階的に整備する場合の隣地斜線の緩和、(3)北側が都市計画公園等である場合の日影規制の緩和、(4)免震構造物建設に対する優遇などの措置を講ずるとともに、(5)国による関連都市基盤整備への補助を拡充していく必要がある。
      また、日照規制、公庫融資日照要件、採光面積など居室に係わる規制については、居住者のニーズに弾力的に対応できる新しいタイプの住宅が供給できるよう抜本的に見直すべきである。
      都心居住は優良なプロジェクトの推進を通じて進められるべきであり、民間事業者に住宅付置を義務づけている指導要綱は速やかに廃止すべきである。

    3. 空中権移転による容積率の引上げ
    4. 都市再開発事業を行うに当たって、事業区域に設定されている容積率が小さい場合には、周辺の低未利用の土地から容積率の全部または一部を移転するという手法が米国等で広く行われている。わが国でも渋谷・新宿両区にまたがる第二国立劇場建設とその周辺開発に当たり、低層建設で済む第二国立劇場の容積率を周辺の事業ビルに移転するかたちで空中権の売買が行われている例などがあるが、現状では特定街区などの一部の事業手法に限定されており、しかも隣接していない距離的に離れた土地からの容積率移転はできないことになっている。
      したがって、低未利用の土地の空中権を優良な都市再開発事業に活用できるよう、空中権の売買・賃貸を幅広く認めるなど関連制度の見直しに着手すべきである。

    5. 不動産シンジケーション(不動産特定共同事業)の推進
    6. 本年4月、いわゆる小口化商品の投資家保護を目的とする不動産特定共同事業法が施行された。不動産シンジケーション(不動産特定共同事業)は、資産デフレの続く中で、現在中止や延期に追い込まれている再開発事業等に息を吹き込むものである。
      しかしながら、わが国においては、欧米諸国に比べ不動産共同投資市場の形成が大きく立ち遅れていることから、優良な都市再開発事業等に対する健全な投資を促進すべく、当面、(1)個人投資家の土地借入金利子の損金算入、(2)任意組合への出資を登記原因とする場合の登録免許税の非課税措置などの制度改善を実現する必要がある。

  10. 郊外部における大規模な住宅開発の促進
    1. 市街化調整区域における計画的な宅地化の促進
    2. 市街化調整区域内の開発許可については、事実上、開発許可権者たる地方自治体の裁量に委ねられており、同区域における開発許可基準は明確化されていないだけでなく、住宅系の開発がほとんど認められていない。開発地域の多くの部分が、集団優良農地や災害防止のため保全すべき土地等として積極的に保全すべき土地区域外にある場合には、大都市近郊における良質な住宅地等の供給のため、積極的に開発許可を行うべきである。
      さらに、通勤、通学が十分可能な地域に膨大に存在する耕作放棄農地の宅地への転用を図る観点から、関係省庁と自治体、民間団体による協議を進め、早急に有効な利用転換策が確立されることが求められる。

    3. 鉄道整備と一体となった開発の促進
    4. 郊外部における大規模な住宅開発の促進のためには、通勤新線の建設や既存路線の複々線化といった鉄道輸送能力の増強が必要であるが、これは一鉄道事業者の努力だけでは到底困難である。そこで、それらの事業採算性を向上させる観点から、(1)一般公共事業として位置づけた国の補助、(2)資金調達の多様化(不動産小口化証券の導入等)、(3)土地区画整理事業方式の活用(鉄道施設区の公共減歩の対象化)、(4)第3セクターにおける民間主導の経営体制の確立などが重要である。

    5. 関連公共公益負担の適正化−開発指導要綱の是正−
    6. 地方自治体は、宅地開発指導要綱等に基づき民間事業者に対し過大な開発負担を求めているが、それが結果的に住宅・宅地の供給を妨げるばかりか、事業コストを高め住宅分譲価格の上昇を招いている。
      こうした状況の中、建設省は数次にわたり自治体に対して通達を出し、開発指導要綱の緩和を指導している。一部の地方自治体では教育負担金の廃止など、地域の実情に応じて指導内容の見直しを進めているが、依然として指導要綱改善の余地は大きい。
      指導要綱等に基づく行き過ぎた開発指導(負担金の拠出、公園・教育機関用地の提供、道路拡幅を目的とした用地提供、緑地の確保、近隣同意取得、住宅付置義務等)の是正の徹底を図るとともに、関連公共公益施設の整備における官民の負担ルールを明確化すべきである。

  11. 都市防災の充実と住民主体の街づくりの推進
    1. 都市の耐震性向上、不燃化促進
    2. 阪神・淡路大震災の経験を踏まえ、大規模な災害にも耐えうる街づくりが必要である。そのためには、街路拡幅、都市公園の整備などを進めることが不可欠であるが、それに加えて建築物の耐震性向上、不燃化の促進も重要であり、国による支援等を拡充すべきである。

    3. 住民主体の街づくりの推進
    4. より基本的には、住民自らが都市防災をも考慮した街づくりを進めることができるよう、都市計画制度や官民の役割分担のあり方などについて改めて考え直す必要がある。
      地域における土地利用の整合性を確保する役割を担うのは、マスタープランの作成を行う地方自治体であることは言うまでもないが、具体的な地区の街づくり計画を進めるに当たっては、住民が主体的に参加し、それに民間事業者が積極的に参画していくかたちが望ましい。
      まず住民側においては、良好な住宅環境を保全する観点から、自主的に街づくりのルールを決め、自治体にそれを承認させるという積極的な取り組みが求められる。米国の一部の都市では、カベナント(covenant)という住民相互の契約に基づく建築協定により街づくりが進められている例が見られるが、わが国でもこうした制度の導入を検討するなど、住民参加の街づくり推進のための環境整備を行うべきである。
      また、民間事業者が果たすべき役割としては、「地域住民のニーズのとりまとめ」、「地域の改造のための具体的なプログラム提示」がまず考えられるが、従来官側が行ってきた「プログラム実行のためのルールづくり」にも一定の役割が求められよう。


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