新輸出管理規制に関する考え方

1995年12月19日
社団法人 経済団体連合会


基本的な考え方

冷戦終結後の世界の安全保障にとって最大の脅威は、核兵器や生物・化学兵器などの大量破壊兵器、あるいはこれら兵器の運搬手段であるロケットなど(以下「大量破壊兵器等」とする)の開発・製造・使用又は貯蔵(以下「開発等」とする)にかかわる貨物・技術の存在及びその拡散である。
これまで輸出規制の対象外であった一般汎用品についても、大量破壊兵器等の開発等に用いられる可能性は存在する。よって、貨物・技術を対象に法規制を導入することは、国際的にその必要性が認識されているところであり、我が国も先進国の一員として速やかに対応していくべきである。
規制の導入により、企業の負担はこれまでに比べて著しく高まることになるが、我が国は世界的に見て高度な民生用技術を保有しているところから、本来必要な規制については、むしろ積極的に協力していく用意がある。
新たな規制の導入にあたっては、既に大量破壊兵器等の開発等に寄与する可能性の高いハイテク製品について国際的レジームの合意に基づき法規制が導入されていることを考慮し、あくまで補完的なものにとどめるべきである。
特に、我が国企業は一般に遵法精神が高いこと、我が国は武器輸出三原則を堅持しており、そもそも企業は輸入国の軍事能力を著しく高めるような取引きには細心の注意を払っていること、対象となる輸出者が多数となること等を考慮すると、(1)規制の透明性を確保し、誰にとってもわかりやすい規制にしていくこと、(2)明らかに大量破壊兵器等の開発等につながる懸念が低いとみられるものについては、規制による負担をいたずらに高めないことなどに留意すべきである。
これまでの通産省の検討の過程で、産業界との意見交換の結果、いくつかの点について、具体的な改善が行われたことは評価出来る。国際的な観点からみて極めて重要な新輸出管理規制の導入にあたり、規制の実効性を一層高めていくため、我々は以下の諸点について更なる改善が図られることを求めたい。

  1. 懸念の度合いに応じた合理的な規制
  2. 欧米諸国の規制とは異なる客観基準を採用することは、固有の問題を生じさせており、対象品目の限定化によっても解決されていない。既に通産省より提示されている国際的な輸出管理の全レジーム参加国に対する緩和策と併せて、省令中の「別表の行為」に代表される需要者要件の適用範囲の無用な広がりを抑えるため、以下を求めたい。

    1. 国際的な輸出管理の全てのレジームに参加している国々については、インフォーム要件の適用のみとすることが政令に明記されること
    2. 特定の懸念国及び紛争当事国(例えば輸出貿易管理令別表第1に係わる輸出事務取扱区分中の「と地域」(旧ココム規制国等)に含まれる国々)以外の国々については、需要者要件の適用を行わないとするか、または「別表の行為」の適用を行わないとするなど、需要者要件による弊害を最小限度にすること

  3. 省令、通達等の明確化のための官民共同の取組み
  4. 全国の輸出者が規制を十分に理解し、実効性のある社内管理体制を整えるためには、政令、省令、通達等が早い段階で完備しているとともに、その内容が明確なものでなければならない。輸出管理の効果的な実施のためには、政省令のみならず通達等についても規則の実態が明確になっていることが必要であり、少なくとも、政府は政省令の公布時点でも可能な限り通達等の方向性を明示していくべきである。
    現在提示されている案では、検討過程において曖昧な点が減少してきているものの、実務を行う上ではまだ不明確な点が多く、規制対象の除外品の充実、許可申請要件の一層の明確化が必要である。
    また、包括許可制度についても、この規制にとっての意義が判るように、また使い勝手のよいものとしていくよう、詳細について早急に明らかにすることが必要である。
    輸出取引の多様性と複雑性に鑑み、産業界としても省令、通達等の明確化について協力していく所存であり、対象貨物や別表の行為等のさらなる限定化、明確化のため、政府が官民からなる検討の場を通じ、産業界の経験と知見を積極的に活用することを求めたい。
    なお、新規制が実効をあげるためには通達が確定の後、相当期間(6ヶ月程度)の周知徹底期間が必要である。

  5. 通関申告手続きの簡素化・合理化
  6.  輸出貿易管理令により、税関は当該輸出が規制対象でないことを全て確認することが定められているが、輸出者が客観要件に該当しないことを判断するとしても、そのことを証明することは極めて困難である。また、一般汎用品の輸出件数が非常に多いために、輸出者の確認義務が著しく増加することになる。 そこで、通関時に税関での輸出貿易管理令の別表第1の16項の該当非該当の確認を不要とするとともに、客観要件に非該当であるエビデンスを原則不要とし、輸出者の自己申告に委ねるべきである。

  7. 情報提供や事前相談サービスの充実
  8. 今回の規制により高まることになる輸出者の負担を緩和していくためには、輸出者の事前調査業務を軽減していくことが重要である。特に、規制の施行当初においては遅滞なく業務が進められるよう、電話やFAXによる相談などを含め、情報提供や事前相談に係る行政サービスを充実・拡充していくべきである。

  9. コンプライアンス・プログラムの位置づけの明確化
  10. コンプライアンス・プログラム(CP)は、本来法遵守のための内部規定であることを明確にするべきである。特に、今回の新規制の導入にあたり、CPの中に「入手する文書の範囲」の詳細等は含まれないことが明らかにされるべきである。


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