税制改革に関する提言

1996年3月26日
社団法人 経済団体連合会


はじめに

21世紀に向け、活力ある経済社会を構築するためには抜本的な経済構造改革が不可欠であり、税制改革は経済構造改革の最も重要な柱となるべきものである。税制によって、個人の能力の発揮、企業家精神、企業の国際競争力が妨げられてはならず、むしろ税制によって、国民や企業の活力が十分に発揮されなければならない。
96年度税制改正においても長年の懸案である法人課税の見直しが先送りされるなど、税制改革は遅々として進んでいない。中長期の税制改革のビジョンを示し、それに沿って97年度から着実に実行を図るよう、経団連として税制改革の実現を強く訴えたい。

  1. 税財政改革の基本的考え方
  2. 高齢化社会における負担の平準化、経済社会の活力維持等の観点から、所得、消費、資産の税制全般にわたる抜本的見直しが不可欠である。とりわけ所得税、法人税等の直接税に偏った税体系を改め、直間比率の是正を進める必要があり、消費に対する課税の比重を高めていくことは避けられないと考える。
    税制改革を進めるにあたっては、行政改革の断行、予算の重点配分、人員の縮減、官民の役割分担の見直しなどにより、国・地方合わせた思い切った歳出削減の断行が求められる。

  3. 法人税負担の軽減
    1. 国際的に見て過重となっている法人課税は国内産業の空洞化、雇用情勢の悪化を加速させている。このままでは産業の空洞化は着実に進行し、将来におけるわが国経済活力の喪失につながる。メガ・コンペティションの時代、日本企業は懸命なリストラによって国際競争力を維持しているが、諸外国との法人税負担の差が企業体力を徐々に低下させている。法人税率を極力引き下げるとともに、法人事業税を大幅に軽減し、実効税率を少なくとも米国並の約4割とすることが喫緊の課題である。
      事業税については外形標準課税とするのではなく、地方の安定的な財源としての地方消費税で代替していくことを検討すべきである。

    2. 租税特別措置・引当金制度の縮減等、課税ベースを拡大して税率を引下げたとしても実質的な税負担の軽減とならず、企業活力の発揮にはつながらない。連結納税、欠損金の取扱い等をはじめ、国際的整合性の見地から、課税制度のより幅広い検討が必要である。
      経済構造改革のための新産業の育成、技術開発の促進等にあたって今後も政策税制は必要であり、先進諸外国においても、多くの政策税制が存在している。目的・内容に係わらず一律に縮減することは妥当ではない。
      また、引当金は本来、商法、企業会計原則によって計上が義務づけられたものである。特に退職給与引当金ならびに賞与引当金は従業員への支払いの確保のためのものであり、その縮減は、サラリーマンの生活に大きな影響を及ぼすおそれがあり、認められない。

    3. 分社化の進展に対応すべく、企業グループの経済的一体性を重視した税制として、先進諸外国のほとんどが採用している連結納税制度の導入を急ぐべきである。〔導入にあたって考えられる連結納税制度の基本的内容については、別紙『連結納税制度導入に関する提言』参照〕

    4. 現在、法人課税について政府税制調査会では専門家による技術的な検討を進めているが、企業活動こそが経済活力の源泉であり、法人課税の思い切った負担軽減が必要との大局的見地から、税制調査会総会の場での検討を早急に開始すべきである。

  4. 所得税体系の見直し
    1. 法人課税とあわせて、所得税についても抜本的な見直しを進め、わが国の経済社会を支えるサラリーマンの重税感を緩和し、勤労意欲を削ぐことのない体系とすることが重要である。

    2. 中堅所得者層における一層の累進緩和を図るとともに、最高税率を93年11月の政府税調答申で示された50%程度まで引き下げるべきである。併せて、総合課税への移行に向けて積極的に検討を進めることが求められる。その他、課税最低限の水準も含め、所得税体系のあり方全般について、検討を進めるべきである。

  5. 土地税制の抜本的見直し
    1. 96年度改正の一部手直しで終えることなく、土地の保有、譲渡、取得にか かわる税制全般にわたる見直しを進めるべきである。とりわけ、土地保有課税について抜本的に見直すべきである。

    2. まず、固定資産税との二重課税となっている地価税は廃止すべきである。企業収益を圧迫するのみで、土地の有効利用に結びつかない地価税の存在意義はない。

    3. 一方、固定資産税については、97年度の評価替えを目前に控えており、早急に、税率・評価のあり方について抜本的に見直し、税負担の軽減、適正化を図るべきである。特に、地価下落が続く中、評価額が時価を上回るような事態を繰り返さぬよう、評価替えを毎年行うとともに、全国一律で地価公示価格の7割という評価のあり方を改める必要がある。

  6. 金融・証券税制
  7. 金融・証券市場の空洞化の防止、税制の国際的整合性の観点から、金融・証券税制の改革を進めるべきである。流通税として市場の活性化を妨げている有価証券取引税は撤廃すべきであり、また、個人株主育成の観点からも、配当に係る二重課税の排除を進めるべきである。


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