創造的な人材の育成に向けて
〜求められる教育改革と企業の行動〜

創造的な人材育成のための『5つの提言、7つのアクション』


来るべき21世紀において、豊かで魅力ある日本を築くためには、社会のあらゆる分野において、主体的に行動し自己責任の観念に富んだ創造力あふれる人材が求められる。
しかし、わが国の現状を見ると、教育制度はもとより、企業の人事システムなど社会全般においても、このような創造的人材が育ちにくい状況にあり、このままでは世界における指導的国家の一つとして、活力ある日本を築くことは不可能といわざるをえない。今後、わが国にとって、人材育成の面で、誰もが自分の目標を実現するに相応しい教育や進路を選択でき、その能力を最大限に発揮できるよう、「複眼的」で「複線的」なシステムを実現していくことが大きな課題となっている。
こうした観点から、経団連では、創造的な人材育成のため、以下に「教育界・行政・家庭への5つの提言」、「企業・経済界としての7つのアクション」を掲げ、教育改革の一層の進展を期待するとともに、企業・経済界の自己改革を求めたい。

【教育界・行政・家庭への5つの提言】

  1. 教育にかかわる規制緩和を進める。
  2. 創造的な人材は画一的な教育システムの中からは生まれない。各教育機関はその特色を十分発揮するとともに、学生・生徒の個性・素質などをいかした教育を行い、互いに切磋琢磨しながら教育内容を高めていかねばならない。各教育機関が、そのような自己改革を進める上で、カリキュラム編成の弾力化、学校選択の弾力化など教育にかかわる各種の規制の緩和を進める必要がある(具体的項目は、参考資料1.参照)。

  3. 教育機関の多様化・個性化を進め多くの峰を持つ教育体系を構築する。
  4. 学生がその目的や意欲、能力に相応しい教育機関を主体的に選択できるよう、従来のピラミッド型の序列を改め、多くの峰を持つ教育体系を構築する。教育機関は、カリキュラムの改革などを通じて多様化・個性化を一層進める。
    また、学生の進路選択幅の拡大のため、編入枠や単位互換制度を拡充する。

  5. 複眼的評価の大学入試を行う。
  6. 教育機関のピラミッド型の序列を助長し、教育を歪める最大の要因ともいえる受験戦争を是正するため、現在の大学入試を知識の量を点数で評価する形から、学生の思考力を含めた学力、関心、素質などを複眼的に評価する方式に改革する。例えば、大学入試センター試験は高校までの基礎学力の有無を判断する資格試験的なものとし、各大学毎の試験はそれぞれの求める人材に合わせ、論文、面接など選抜方法を工夫する。
    また、シラバスの作成や、学生による授業評価制度の導入などにより、授業内容の改善に努める。

  7. 思考力と体験を重視しつつゆとりある学校教育を行う。
  8. 討論やフィールドワークなど、思考力と体験を重視する授業を通じて、自分で目標・課題を設定し主体的に行動することのできる子供を育てる。さらに、新時代のリテラシーである、英語をはじめとする外国語やコンピュータ関連の教育を拡充する。
    また、中高一貫教育の拡大などを通じて、ゆとりある教育を実現する。
    さらに、世界をリードする独創的人材を育成するため、飛び級の実施拡大をはじめ、優れた素質・才能を早期に見いだしこれを伸ばすための教育を試みる。

  9. 家庭の教育力を回復する。
  10. 家庭や地域は教育を学校任せにせず、各々の役割分担と相互の連携に基づき、適切な教育を行うことが求められる。家庭はこうした役割の重要性を改めて認識し、子供に社会生活の基本を教えるとともに、子供の資質、能力に応じた適切な進路選択へのアドバイスや、自然・社会現象への関心の醸成に努める。とくに、社会経験の豊かな父親が家庭教育に積極的に参加することが要請される。

【企業・経済界の7つのアクション】

  1. 採用時に学校名を聞かない〜開かれた採用の推進と求める人材の明確化。
  2. 企業の採用方法が学校歴偏重であるとの指摘は依然根強い。各企業は、こうした見方を払拭すべく、採用が学校名偏重でないことなどを具体的な行動で示す。オープンエントリー制(公募制)の拡大やリクルーター制の縮小は有効であり、学校名を一切聞かない採用方法も一案である。なお、この一環として、職種別の採用などを通じて、各企業が求める人材を具体的に示すとともに、「学習歴」、「個人の問題意識」、「個性」など、個人の資質を丁寧に評価する。

  3. 入社式がなくなる〜通年採用への移行。
  4. 通年採用や秋期採用の実施などにより、帰国子女や経験者を含めさまざまな人々の就職機会を増やし、多様な人材を社内に受け入れていく。これにより、従来の一斉採用方式では難しい面のあった、時間をかけた丁寧な採用活動も容易になる。

  5. 新卒にこだわらない〜経験者採用(中途採用)の拡大。
  6. 組織の創造性と活力は、様々な能力や個性を持った人材が集まる中から生まれる。すでに多くの企業では、必要に応じて他社などで勤務した経験を持つ経験者の採用を行っているが、今後は、例えば、経験者採用の門戸を常に開いておいたり、社内における経験者の比率を大幅に引き上げるなど、一層拡大する。
    こうした取り組みによって経験者マーケットが拡大していけば、企業に新卒で入らねばならないという意識もなくなり、人生早期における過度の競争も軽減されよう。

  7. 個人のやる気と能力を引き出す〜柔軟な処遇・評価制度の構築。
  8. 入社後も個人がその力を最大限に発揮できるように、柔軟な処遇・評価制度を構築する。
    意欲ある個人に活躍の場を与える社内公募制や、高度な専門能力を持つ人材を特別に処遇するための専門職制度の導入などを通じて、個人が職種・進路を選択し能力を活かせる機会を増やしていく。

  9. 「教育支援ネットワーク」を構築する。
  10. 経団連では、会員企業に対して、学校への講師派遣や教員の企業研修、施設開放・企業見学など、学校教育・地域に対する支援を一層拡大するよう呼びかけるとともに、こうした企業の支援活動に関する情報を収集・蓄積し、インターネットなどを活用して、教育界などに広く提供していくための「教育支援ネットワーク」を早期に構築する。

  11. 教員の海外派遣研修プロジェクトなど教育への支援活動に取り組む。
  12. 経団連では、創造的な人材の育成に向けて、資金面も含めた教育に対する支援の仕組み作りに取り組む。従来から、大学(院)生や高校生の留学事業、外国人留学生への奨学事業などに取り組んできたが(参考資料2.参照)、これらを一層充実させるとともに、新たなプロジェクトに取り組む。とくに、創造力あふれる子供を育てるには、まず教員が創造性を磨く必要があることから、教員に海外における創造的人材育成の取り組みを実体験し認識を深めてもらうことを目的とする、海外派遣プロジェクトなどを検討する。

  13. 「フォローアップ協議会(仮称)」を設置する。
  14. 経団連では、教育支援ネットワークの構築や教育への支援活動に加え、以下のようなフォローアップに積極的に取り組み、提言を実効あるものとしていく。
    今回の提言で取り上げた規制緩和要望の実現に向けて、関係方面に働きかけるとともに、新たな規制緩和項目についても検討していく。
    また、企業の自己改革にかかわる提言事項(採用、人事・雇用システムの見直しなど)について、各企業の取り組み状況をアンケート調査などにより取りまとめて公表し、学生が企業・職種を選ぶ上での有効なツールとするとともに、各企業の取り組みのインセンティブとする。
    さらに、教育改革を一層進展させるため、教育界、政界、労働界や海外の経済団体など、内外の関係方面との意見交換・交流を図る。


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