創造的な人材の育成に向けて
〜求められる教育改革と企業の行動〜

1.これからの社会と待望される創造的人材


戦後のわが国では、欧米に「追いつけ、追い越せ」を目標に、定められた目標を効率的に実現する人材を重点的に育成してきた。その結果、社会全般において、知識の量は多いが、自らの目標、解決すべき課題の設定に不得手な人々が増大している。
このままでは、来るべき21世紀において、豊かで魅力ある日本を築くことは不可能といわざるをえない。今後は、個人の創造力が最大限発揮できる社会に転換しなければならない。


  1. 戦後の経済発展と人材育成
    1. 戦後、わが国の産業は、「追いつけ、追い越せ」の掛け声のもとに、欧米の技術やノウハウ、産業システムを導入・応用しながら、効率の向上、コストダウンなどを中心に競争力を強化して、経済成長を達成してきた。

    2. この過程においては、教育の面でも、当然そうした側面に重点が置かれ、定められた目標を効率的に達成するために、平均的に質の高い人材、組織との協調を優先するような人材が育てられてきた。
      すなわち、学校教育では、総じていえば、与えられた問題を解くためにより多くの知識を吸収し、また特定の分野で突出するよりも、いろいろな科目で万遍なく良い点をとるための指導が行われてきたといえよう。
      このような教育は、わが国が戦後の復興をなし遂げ、経済発展を実現する上では効率的な選択であったが、以下のようにもはやその弊害が無視できなくなっている。

      1. 平均的な教育レベルの引き上げを目指す現在の教育の下では、子供は、一定の学力水準を維持できない限り、特定分野でいかに優れた特質をもっていても、その素質を開花できずに終わってしまう。

      2. 進学は偏差値によってほとんど決められてしまうため、参考情報の一つに過ぎない偏差値だけで進路が決まってしまうかのような認識が高まり、個人が自らの人生を主体的に築いていく意識が薄れてしまっている。また、偏差値によって学校の序列化がなされるため、受験戦争が過熱するという弊害も顕著となっている。

      3. 教育の課題は、問題解決の手法を知識として覚えさせる点に重点が置かれており、「じっくり考える」、「別の仕組みを工夫する」、「目標そのものを設定しなおす」など、創造力の養成に不可欠な要素は重視されていない。その結果、総じて、人生の各段階における目標設定、自ら解決すべき課題の設定に不得手な人々が増大しており、同時に、社会全体としても目指すべきビジョンや問題解決のための新しい方法を立案することが不得手な体質に陥っている。

  2. これからの社会と人材育成
  3. このような教育の下では、21世紀において、豊かで魅力ある日本を築くことは不可能といわざるをえない。すなわち、「追いつき、追い越せ型」、「官民協調型」の経済社会システムは、制度疲労を起こしているといっても過言ではない。日本が戦後最大、最長の不況からいまだ立ち直れない要因もここにある。欧米諸国の提供する独創的な科学技術に依存して事たれりとする時代はもはや過去のものになっている。とくにこれからは、高度情報通信ネットワーク時代といわれるにもかかわらず、わが国はソフトウェアの開発力などの先端技術分野において、すでに、世界に大きな遅れをとりつつある。また、民間の主体的な努力なしに、新しい市場の創造や、地球環境問題などのグローバルな問題の解決はできない時代である。政府規制をあらゆる分野で撤廃・緩和し、以下のように個人の創造力が最大限発揮できる社会に転換しなければならない。

    1. 経済の分野では、リスクを伴う起業に果敢に取り組む人材、組織の創造的破壊を行う人材が、新しい産業や事業を次々と興して、豊かな国民生活、活力ある経済を実現していく。
      また、ノーベル賞級の独創的な研究開発を行う人材が、わが国の研究水準を飛躍的に高め、「科学技術創造立国」として国際社会に貢献していく。

    2. 社会においては、個々の市民が、自律的に公益活動を行う市民活動団体(NGO、NPO)などに参加して、地球環境に配慮した循環型の経済社会システムの構築や豊かな長寿社会の確立などの諸課題に創意工夫しながら取り組んでいく。
      また、才能にあふれる人々が、文化や芸術など人類共通の知的資産の充実に寄与していく。

    3. 政治・行政の分野では、構想力・洞察力に優れた人材が、多極化する世界システムの中にあって、わが国の将来を見通し、進むべき道筋を定め、政策を実践していく。また、地域の特性に応じた個性的な政策を展開し、豊かな地域社会を実現していく。

    4. 教育界では、一人ひとりの子供を十分に理解する鋭い感性を持った教育者が、子供の個性や能力を引出し、次代を担える人材に育てていく。


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