創造的な人材の育成に向けて
〜求められる教育改革と企業の行動〜

2.創造的な人材の要件と望ましい人材育成システムの基本的方向


今後のわが国社会において求められる人材は、主体的に行動し、自己責任の観念に富んだ、創造力あふれる人材である。こうした人材を育成していくためには、誰もが、自分の目標を実現する上で相応しい教育や進路を選択でき、その能力を最大限に発揮できるよう、「複眼的」で「複線的」な人材育成システムを実現していく必要がある。


  1. 創造的な人材の要件
  2. 今後のわが国社会において求められる、創造的な人材とは、自己の責任の下に、主体的に行動する人材であり、こうした人々の能力を最大限伸ばすことができるような環境を整えていくことが求められる。さらに、独創性を持つ人材をいかに見いだし育成していくかも重要である。

    1. 主体性
    2. 創造性の根本は、個人の主体性にある。これは、他者の定めた基準に頼らず、自分自身の目標・意思に基づいて、進むべき道を自ら選択して行動することである。
      いろいろな問題への対応に際しても、知識として与えられた解決策を機械的に適用するのでなく、既存の知識にとらわれない自由な発想により自力で解決する能力が求められる。

    3. 自己責任の観念
    4. その一方、個人の自由で主体的な選択が、野放図とならずに、社会的意義、価値を持つものとするためには、個人一人ひとりが選択に伴う責任を引き受けることが必要である。選択とは、もう一つのものを捨て去ることであり、自己責任とはいくつかの選択肢の中から自分の判断で選びとることである。
      個人が主体性と自己責任を確立することは、他者の主体性を尊重する社会性の涵養や、社会規範・倫理に関する意識を高めることにもつながる。

    5. 独創性
    6. それぞれの人材が持っている創造性を引き出すことに併せて、科学・技術や、芸術・文化などさまざまな分野で世界をリードできる高い独創性をもった人材を発掘、育成していくことも重要である。
      各界で真に独創的で卓越した人材たりうるか否かは、潜在的な素質や才能に左右される面も大きいものと考えられる。そこで、このようなとくに優れた素質や才能を持った人材を早期に見出し、これを集中的に育成していくことも、今後の課題として求められる。

  3. 望ましい人材育成システムの基本的方向
    1. これまでの人材育成システムは、いわば「単眼的」な評価に基づく、「単線的」なシステムであったと総括できよう。すなわち、子供たちの進路には、有名進学校から有名大学、一流企業へという単一セットメニューが半ば押しつけられ、半ば当然のこととされており、こうしたコースに乗ることが将来の幸せにつながるという考えが、今なお教育界、家庭を中心に根強く存在している。また、この過程における上級学校への進学試験では、学力試験を中心とする画一的な評価が行われてきた。
      さらに、採用を中心とする企業行動も、こうした単眼的、単線的システムを助長してきたことは否めない。
      こうした中で、とくに受験戦争の激化が、学校教育にとっても、家庭においても、創造的な人材育成を阻害する最大の要因となっている。

    2. しかし、個人の幸せは、本来、あらかじめ決められた単線的な進路に従うのではなく、自分の目標を実現していくために相応しい教育を自ら選ぶことができ、また、これに挫折しても再度の挑戦や進路変更により、主体的に自らの教育の進路、人生のコースを選びとっていく中で、自分の能力を最大限発揮できるところにあるはずである。
      このような意味で、今後は、「複眼的」評価システムに基づく「複線的」選択機会を確立することにより、受験戦争の圧力を軽減していく中で、個人の主体性を尊重する人材育成システムを実現していく必要がある。
      人材育成システムをこのように変えていくことによって、自らの課題を設定し、これに取り組んだり、問題の解決において新しい方法を立案する能力も開発されることになる。

    3. 比喩的にいえば、これまでの進学競争は、偏差値により序列化された大きな山に対してどれだけ高くまで登れるかというようなものであったが、今後は、いろいろな価値尺度に基づいて、多くの峰を持つ教育体系が築かれ、学生は自らの関心と能力に応じて、それぞれの山を登っていくという仕組みに変えていくことが望ましい。
      企業の人材育成においても、社員の創造性を最大限に引き出すためには、各人が自らの選択とリスクに基づいて、自分のキャリアを主体的に築いていけるようにしていくことが求められる。
      また、進学試験、とくに大学入試や、企業の採用時における能力評価においては、個人の能力や個性をさまざまな角度から複眼的に評価できるシステムを構築していくことが不可欠である。


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