日本の将来はこの5年間の対応如何で決まる。産業界としては、日本をもっと魅力ある国にしなければならないという思いを日増しに強くしている。科学技術基本計画の策定は、日本の魅力を大きく高める絶好の機会である。
既に、産業界はもとより、大学、国立研究機関等においてそれぞれ新たな努力が始まっているが、今般の科学技術基本計画は、こうした研究主体毎、個別施策毎の対応を見直し、21世紀にふさわしい研究開発の道筋の全体像を裏付けをもって示すことが最大の責務である。
そのためには、2つのアプローチが不可欠である。ひとつは、予てから経団連が要望してきた科学技術予算、高等教育予算の倍増を5年間程度で実現し、国として科学技術強化の決意を、科学技術関係者のみならず国民が肌で実感できるように示すべきである。もうひとつは、教育面も含め日本の科学技術をめぐるシステム全体を抜本的に変革するためのスケジュールを呈示することである。
産業界として、科学技術に対する基本的な考え方を明らかにしたうえで、科学技術基本計画に対して以下の通り要望する。
最も重要な使命は、次代を担う若者に夢と希望、明るさを提供し、高い志を抱けるようにすることである。今後、世界は、ますます若い力、若い才能を必要としてくる。科学技術によって日本の知的活力を高め、若者が高い志を抱けるようにすべきである。
第2に、人類の生存に係わる問題の克服である。エネルギー問題、地球環境問題、人口問題、食糧問題、医療問題など、人類の生存そのものに係わる問題に関する科学的知識は、その重大性、緊急性にもかかわらず非常に不足している。世界のGDPの17%を占める日本としては、このような問題解決に向けて努力するとともに世界的レベルでの協調を行うことにより、大きな成果を挙げることを目指すべきである。その結果、世界に貢献する日本、世界から信頼される日本が築かれる。
第3に、日本経済の発展の維持である。情報通信化やソフトの重要性の高まりなどビジネスを大きく変革させる波が押し寄せつつあり、産業界としては、日本産業の将来に強い懸念を抱いている。日本的な良さや強みを新たな環境に即して発展させ、新事業・新産業の創造、世界と調和のとれた産業構造への改革などに向けた新しい産業のパラダイムを作っていくべきである。
第4に、質の高い安全で豊かな国民生活の実現である。高齢化社会への対応、防災・災害予知、安全の確保、難病の克服、都市問題の解決や過疎化対策など諸課題の解決に取り組み、真に豊かな国民生活を実現すべきである。
まず、第1に、センター・オブ・エクセレンスとしての役割を担うことを目指すべきである。研究開発のグローバルネットワークが様々なレベルで張りめぐらされるなかにあって、日本の知的活力を高めることにより、海外の研究者をひき付け、世界から期待され信頼されるようにすべきである。科学技術の研究開発の成果は、人文社会科学の知恵と融合して国家の発展基盤を形成するとともに、人類共通の知的資産として蓄積されるべきである。
第2に、研究者、技術者が生き生きと研究開発に取り組めるようにすることを目指すべきである。知的刺激と適切な研究評価・経済的処遇、ダイナミックかつ弾力的なマネージメントのもとで、研究者間の競争と協調が確保され、研究者が希望に燃えて生き生きと研究開発に取り組めるようにすべきである。特に、高い創造性を有する研究者、あるいは若い研究者の力を重視すべきである。
第3に、産学官の連携・交流の深化を目指すべきである。政府の研究開発予算を倍増し、産業界、大学、国立研究機関等の有する機能のバランスのとれた研究開発体制を築くとともに、研究者間のネットワークや研究者の流動化によって産学官の融合を推進すべきである。官のみならず、産業界と大学が、日本の国をどういう形で発展させるべきか、将来の技術開発はどうあるべきかを考え交流すべきである。産業界は大学のシーズを理解し、大学は産業界のニーズを理解するようにすべきである。
第4に、新技術の速やかな産業化を目指すべきである。情報ネットワーク社会において、技術分野のマーケットをよりオープンな形で成立させ、開発された技術を速やかに産業化に結びつくようにすべきである。既存産業分野において一層の高度化、効率化、低コスト化を進めるとともに、ベンチャービジネスの創成、活性化を含め、新事業、新産業が続々と誕生するようにすべきである。
第5に、技術革新を支える創造的人材を育む社会を目指すべきである。横並び主義を改め、優秀な才能に対する理解を深めるべきである。また、科学技術基本計画の策定を機に、国民が日本の20年先、30年先を見据えた科学技術開発のシナリオを共有できるようにすべきである。