循環型社会の構築に向けた課題

−廃棄物対策の促進に向けて−

1996年9月9日
(社)経済団体連合会


〔はじめに〕

 豊かな環境を守りその恵沢を次世代に残していくためには、国民各層が環境問題の現状を正しく理解し、自らの問題として捉えることが必要である。
 特に、廃棄物問題については、その排出量の増大と多様化が進んでおり、排出抑制、リサイクル、適正処理ならびに処理施設の整備が喫緊の課題となっている。現状を放置すれば、産業活動はもとより国民生活の基盤が脅かされることになる。廃棄物問題の解決のためには、行政、事業者、処理業者、消費者の間で各々の責任を分かち合い、共に取り組んでいくことが望まれる。
 こうしたことから、経団連では、地球環境憲章を発表して5年を経過した今年7月、この間の環境問題の深刻化を踏まえて、21世紀の環境保全に向けた経済界の自主行動宣言として「経団連環境アピール」を発表した。この中で、廃棄物対策については、資源の浪費につながる使い捨て型の経済社会を見直し、循環型の経済社会に転換すべく、“廃棄物”ではなく“資源”あるいは“副産物”と位置づける発想の転換が必要であることを指摘するとともに、リサイクルを企業経営上の重要課題と位置づけ、計画的に廃棄物削減・リサイクルに取り組むことを表明している。
 年末までには、環境アピールに沿って、産業毎の自主的行動計画を策定し、廃棄物の排出抑制・リサイクルを一層推進していく方針であるが、以下において、産業廃棄物対策のあり方について産業界としての考えを述べる。

  1. 基本的考え方
    1. 産業廃棄物処理施設を国の重要な産業インフラとして位置づけること
    2.  これまで産業廃棄物の処理施設の整備ならびに処理事業の育成については、法律において「事業者は、その産業廃棄物を自ら処理しなければならない」とされていることから、生産活動に直接関わる産業インフラと比べ、十分な施策が講じられてこなかった。しかしながら、循環型社会の構築に向けて、産業廃棄物を適正かつ効率的に処理・リサイクルするためには、リサイクル施設を始めとする処理施設を、豊かな国民生活を維持するために不可欠な産業インフラの一つとして位置づける必要がある。
       具体的には、国は広域処理を念頭において、全国的視野で産業廃棄物の処理施設の配置を検討し、その整備促進に向けて地方自治体間の調整を図ることが期待される。併せて、例えば保安林指定の解除、農地転用、開発許可等、関連法制度との調整を図るとともに、許可手続き段階での支援(住民への説明等)や処理施設に対する税財政上の優遇措置を講ずることが必要である。また、地方自治体は、地域整備や産業立地の推進と併せて、産廃処理施設の整備促進を図ることが望まれる。

    3. 産業廃棄物処理業の育成
    4.  適正処理やリサイクルを推進する上で、排出事業者とならんで処理業者の果たす役割は大きい。処理業の近代化に向けて業界自らが質の向上に努めるとともに、排出事業者も優良な処理業者の選定を通じてこれに協力する必要がある。また、国も産業廃棄物処理業が近代的な産業として成り立つよう、優良な処理業者の育成にむけて、新規参入の促進や税財政上の優遇措置をはじめとする施策を一層充実することが望まれる。また、不適正処理防止策の強化による市場の健全化、リサイクル促進のための規制緩和による市場の拡大等も処理業の育成につながるものと考えられる。さらに、排出事業者は自ら処理事業に参画することも検討すべきである。

    5. 中長期的課題
    6.  今後の課題として、欧米で広く見られるように、一般廃棄物と産業廃棄物の区分に基づく処理体制に代わり、廃棄物の質(特に有害性の有無)に着目した処理体制を構築する必要があろう。

  2. 廃棄物の排出削減・リサイクルの推進に向けて
    1. 排出削減・リサイクルへの自主的取り組みの促進
    2.  事業者は、規模の大小を問わず、また、輸入業者も含め、LCA(ライフ・サイクル・アセスメント)の視点に立って、廃棄物の発生回避・再利用やリサイクルの容易性を念頭においた製品開発に努めるとともに、排出されたものは極力リサイクルに努める必要がある。
       他方、政府にあっては、ISO規格に沿った環境管理・監査の実施もしくはそれに準じた各企業の自主的な取り組みに対する支援や、リサイクル設備への投資、技術開発等に対する財政支援・税制上の優遇措置等を一層充実すべきである。
       また、使用済み製品・部品等の回収・再利用システムの構築に向けた業界や各企業における自主的取組みを促進するため、例えば、リサイクル施設の建設にあたって住民同意の形成等の面で地方自治体が積極的な役割を果たすことが望まれる。
       さらに、リサイクル製品の市場の確保と安定化に向けて、事業者や消費者がリサイクル製品の積極的な購入を心掛けるとともに、政府も公共事業等で広く活用する等の施策を講ずることが有効であろう。

    3. リサイクル促進のための規制緩和
    4.  廃棄物であれば一律に規制するという現行制度を、リサイクルの推進の視点から再検討する必要がある。リサイクル率の向上が求められている汚泥をはじめとして一般廃棄物・産業廃棄物を問わず、再利用されることが明らかな廃棄物については、規制を見直すべきである。
       例えば、排出元とその利用先が予め明らかで、一定の性状を有する廃棄物については、二次原料として一次原料と同等の扱いとし、リサイクルを促進すべきである。
       また、区域内処理の考え方に立つ搬入規制は、スケールメリットが働かず、リサイクル事業を営む上での阻害要因の一つになっており、是正する必要がある。

  3. 産業廃棄物処理施設整備の促進
    1. 公共関与の一層の推進
    2.  経団連ではかねてより公共関与による施設整備を要望してきたが、92年に制定された「産業廃棄物処理特定施設整備促進法」においてその制度的枠組みが設けられたことから、同法に準拠する産業廃棄物処理事業振興財団の設立に協力し、施設整備に一定の成果を上げてきた。
       他方、住民からの信頼が得易いと考えられた廃棄物処理センターを含む第3セクターによる最終処分場や先進的な中間処理施設については、住民同意を得られず、せっかくの公的関与のメリットが十分生かされていない。その反省に立って、今後の公共関与のあり方を検討する必要がある。

    3. 設置手続きの明確化
    4.  住民同意が得られず処理施設の設置が進まない理由の一つに、施設の設置手続きに係わる規定が存在せず、各地方自治体の要綱で対応していることがある。設置手続きを法で定め、全国統一的に運用すべきである。その際、設置手続きの一つとして、生活環境を著しく損なうか否かを、専門的な立場から審査し判断する仕組みも検討されるべきであろう。これに関連し、住民同意が得られない限り審議を受け付けない都市計画地方審議会や地方自治体の現行の仕組みは改める必要がある。

  4. 不法投棄・不適正処理防止策について
  5.  産業廃棄物処理施設に対する住民の不信感は、現行の業許可のあり方、処理施設の設置基準の妥当性、運営管理・情報公開のあり方、更には閉鎖後の管理体制等に起因するところも大きいと思われるため、以下で述べるような適正処理に向けた環境整備も検討すべきである。

    1. 適正処理に向けた排出事業者の取り組み
    2.  一部の事業者による不法投棄が、産業廃棄物の処理に対する不信感に繋がっていることは極めて遺憾である。
       排出事業者としては、規模の大小を問わず、事業活動に伴う廃棄物の処理に責任を負うという観点から、企業毎もしくは業界団体内で適正処理に向けた技術指導や啓発活動等を進め、自社施設での適切な処理に努めなければならない。
       また、処理を委託する際には、信頼できる優良な処理事業者を選定することはもとより、委託する廃棄物の性状に関する情報の開示や処理確認等、適正処理に向けた取り組みを確実に実行する必要がある。

    3. 行政の役割
      1. 取締り・罰則の強化
         政府においては、不適正な処理に対して迅速かつ適切な取締りを行うための法整備を図るとともに、住民からの通報に対する迅速な対応をはじめとして警察との連携強化・環境衛生指導員の増強等により取締り体制を強化する必要がある。また、違法行為に対する罰則の大幅な強化が必要である。さらに、不法投棄の実態についてのデータが不備であることに鑑み、その整備と公表が望まれる。
         なお、委託後の不適正処理の責任を排出事業者に負わせるべしとの意見があるが、排出事業者が、委託先業者の業許可の有無の確認をはじめ、廃棄物の性状に係る情報の提供や適正処理の確認を行っている場合については、その責任を問うべきではないと考える。

      2. 適正処理に向けた環境整備
        1. 許可基準の見直し
           現行の処理施設の設置基準や搬入体制のあり方が適正処理の確保という観点から十分であるか否かを再検討する必要がある。また、処理業者の資金力や技術力という視点から、収集・運搬業者も含め許可基準の見直しと技術評価基準の導入を図るとともに許可に際しての審査体制の整備も必要となろう。なお、優良な処理業者を選定するために必要な情報を提供することも期待される。
           さらに、施設の運営状況の管理、情報公開のあり方、閉鎖後の管理体制等についても基準を明確にすべきである。

        2. 適正処理の確認体制の整備
           マニフェスト等による処理確認が事業活動の実態に即して効果的に行われるよう、マニフェストの偽造防止、積み替え・混載への対応、電子化を含めた事務処理手続きの簡素化等に向けた措置を講ずる必要がある。

        3. 有害廃棄物処理の推進
           有害廃棄物の適正処理という観点から、効率的かつ効果的に収集・運搬し処理するシステムを構築する必要がある。また、懸案となっているPCB処理については、保管に伴うリスクの高まりも考慮し、関係者間の合意形成を図りつつ、既に諸外国で導入されている処理方法を参考として、処理促進のための適切な措置を講ずるべきである。

  6. 不法投棄の原状回復
  7.  不法投棄の原状回復の問題については、リサイクル施設や自社処分場を設けて適正処理を行っている事業者、優良処理業者を通じて適正処理を行っている事業者等、善良な事業者に不当な負担を負わせるべきでない。法に則って適正処理を行っている事業者のモラルハザードを招いたり、不法行為者の捨て得を容認するようなことは決してあってはならない。われわれとしても、事業者が不適正な処理を行うことのないよう、これまで以上に種々働きかけを行っていく所存である。
     さて、現在生じている不法投棄の問題については、取締りが十分でなかった面は否定できない。個々の事例毎に実態を究明し、事態がそこまでに至った責任の所在を明らかにした上で、速やかに原状回復を図るべきである。
     今後については、これまでの不法投棄防止策が不備であった反省に立ち、まず、行政にあっては、監視・取締り体制と罰則の強化、優良な処理業者の育成および許可基準の強化を図る必要がある。また、排出事業者も、規模の大小を問わず、適正な自社処理もしくは委託先業者の業許可の有無の確認、廃棄物の性状に関する情報の提供、適正処理の確認等を徹底すべきことは当然である。さらに、処理業者は、廃棄物を適正に処理しなければならない。さしあたり、何よりもまず、こうした各主体の責任ある取り組みを通じて不法投棄を根絶することに最善の努力を傾けねばならない。
     それでもなお、投棄者が不明で、生活環境に重大な支障があり、浄化が必要とされる事態が生じた時は、その段階であらためて、行政、排出事業者、処理業者の責任を踏まえ、必要な費用を手当てする何らかの方策について検討すべきである。

以 上


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