1996年10月15日
(社)経済団体連合会
戦後復興、高度経済成長の中で作り上げられてきたわが国の社会保障制度は、経済社会の安定には貢献してきたものの、世界に例をみない急速な高齢化・少子化、成長率の低下の中で、財源面からも既にその綻びは覆いがたいものとなっており、総合的、抜本的な再構築が不可避となっている。
社会保障制度の再構築にあたっては、これまでの総花的、画一的な制度を改め、自立・自助を前提に、国民全体で高齢化に伴う負担を分かち合う、効率的で公平かつ多様な選択肢を持った、経済的に持続可能な社会保障制度を目指すべきである。
しかし、現在、提案されている「公的介護保険制度」には、社会保障制度全体の改革との関連や将来ビジョンが示されないまま、社会保険方式を前提とした議論が進行している。しかも、「公的介護保険制度」そのものについても、議論のための素材が示されてから日が浅いため、国民的コンセンサスが得られるほど理解が深まっているとは到底考えられない。
高齢化の進行とともに要介護老人の数は急増し、介護の社会化の必要性は急速に高まっており、本格的な介護制度の導入は避けられない。そのためにも老人保健、医療保険、年金保険、障害者福祉を一体のものとして捉え、相互の有機的連関を明らかにしながら、社会保障制度全体を改革していく必要がある。
われわれは、政府・与党が社会保障制度全体の将来ビジョンと高齢者介護のあり方を一体化したメニューを提示し、合わせてその場合の全体の国民負担を明らかにしたうえで、十分な議論が尽くされることを望むものである。
われわれとしては、将来負担のあり方を含め社会保障制度全体の改革像が明らかにされないまま、「公的介護保険制度」が先行導入されることには、俄には賛成しがたい。
このような基本的な考え方に照らして現行制度の実態を見ると、パッチワーク的な部分修正で対応することはもはや不可能である。われわれは、安定した社会保障制度を再構築するには、社会保障制度全体を見渡した将来ビジョンが不可欠と考える。
現在、政府・審議会では、年金、医療、福祉、介護など個別の制度毎の改革が検討されているが、そうした改革の前提として、まず21世紀を見通した社会保障制度全体の将来ビジョンを示し、それに則った総合的な社会保障制度改革を実施に移す中で、個別制度の改革に取り組むべきである。
われわれとしても、このような考え方にそって、社会保障制度のあり方と再構築のための具体的制度改革を提案すべく、目下、検討を進めているところであり、早急に総合的な社会保障制度改革の基本的方向を提案したい。その際、公的年金の支給開始年齢の見直し、給付水準の適正化、企業年金の設計の自由化、特別法人税の撤廃、確定拠出方式の導入、老人保健制度の抜本的な見直し、社会的入院の解消など、個別制度の改革の方向についても併せて提案したい。
以 上