「PRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度」導入についての見解

1997年4月15日
(社)経済団体連合会


潜在的に有害な環境汚染物質の環境リスク低減は、地球温暖化問題と並んで国際的に協調して取り組むべき課題であり、この中の仕組みの一つであるPRTR(環境汚染物質排出・移動登録)制度は、1996年2月のOECD理事会において加盟各国に対し導入勧告が行われているところである。

わが国産業界は91年の経団連地球環境憲章と昨年7月の経団連環境アピールを踏まえ、昨年末には産業毎の環境自主行動計画を策定するなど、これまで自主的かつ積極的に環境問題に取り組んできたが、今回のPRTR制度の導入も、こうした考えに沿って、各業界毎の推進組織の整備及びPRTR実施のための指針作成等、産業界内部の体制整備を進め、自主的にPRTR制度を構築していく所存である。

以下において、制度構築にあたっての産業界としての基本的な考え方を述べる。

  1. 制度の目的について
  2. PRTR制度は、OECD原則に示されたように、産業界にとっては環境汚染物質のリスク評価・リスク管理を目的とする。

  3. PRTRの実施主体について
  4. PRTRの実施において、調査・公表の実施主体及びリスク管理を行う主体は産業界であることを十分考慮すべきである。また、PRTRの実施規模を決める際、費用対効果を最もよく判断しうるのは、環境汚染物質となる化学物質の用途等を把握している産業界である。
    したがって、産業界の自主的取り組みによることが現実的であり妥当ではないかと考えられる。
    一方、広範な環境汚染物質の基礎的知見の充実を効率よく行う為、国に対しては事業者がリスク評価・リスク管理を行うことができるようハザードデータの充実に努めることを期待する。

  5. 対象物質の選定について
  6. PRTR対象物質は、事業者自身がリスク評価・リスク管理の必要性が大きいと判断するものを選定する。実施にあたっては、業種毎にその中よりハザードの高いものからプライオリティーを付けて順次選択する。
    OECDのガイドラインにもあるように、対象物質数は実行可能な範囲内に限定し、実績並びに科学的知見、リスク評価の積み重ねを待って、適宜見直すこととする。

  7. リスクコミュニケーションのあり方について
  8. PRTR制度において、公表されるデータが利害関係者によって的確に把握されるためには、対象物質に関するリスク評価の確立が不可欠である。
    このようなリスク評価を行わずに、単に物質の排出量のみを公表することは、いたずらに社会的混乱を招くおそれがある。
    従って、適切なリスクコミュニケーションができる体制を作ることが必要である。
    また、公表の方法については、まず全国ベースからスタートし、わかりやすい解説とトータルリスク評価が出来る専門家を養成する等の実績を積んだ上で、次に地域毎の公表を行う等の方法を検討する。
    また、企業秘密に係るデータの取り扱いについては、十分配慮する。

  9. 導入にあたっての合意形成について
  10. OECDは、PRTR制度導入に際しては、早い段階で、政府・産業界・国民の3者間の合意形成を行うことが重要である旨指摘しており、わが国においても、早急に合意形成に努めるべきである。
    その際、産業界の全ての業種が取り組めるよう、その規模・業態等の実情を踏まえて、有効に働く仕組みを構築すべきである。

以上が、PRTR制度を構築するにあたっての産業界の基本的な考え方であるが、今回、環境庁が、合意形成の重要性を指摘したOECD勧告にもかかわらず政府・民間の間で必ずしも合意が形成されていない段階で、一部自治体でのパイロット事業という形で先行実施しようとしていることは拙速の感を免れない。OECD勧告に立ち返り、先ず、政府部内での意見統一、政府・民間の間の合意形成に努めるべきである。

以 上


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