世代を越えて持続可能な社会保障制度を目指して

1996年12月17日
(社)経済団体連合会


  1. 時代の転換点と社会保障制度改革
  2. 21世紀の本格的な高齢社会、価値観の多様化、メガ・コンペティションの時代にあって、豊かで活力ある経済社会「魅力ある日本」を実現するためには、市場原理と自己責任原則を基本に、国民一人ひとりが自らの能力や個性を最大限に発揮できるよう、これまでのキャッチ・アップ型のわが国の諸制度を抜本的に見直していかなければならない。

    戦後の復興と高度経済成長の中で作り上げられてきたわが国の社会保障制度は、経済社会の安定に貢献してきたものの、世界に例をみない急速な高齢化・少子化、成長率低下という時代の転換点を迎え、財源面からも既にその綻びは覆いがたいものとなっており、総合的、抜本的な再構築が不可避となっている。

    社会保障制度の再構築にあたっては、これまでの総花的、画一的な制度を改め、自立・自助を前提に、国民全体で高齢化に伴う負担を分かち合う、効率的で公平かつ多様な選択肢を持った、経済的に持続可能な社会保障制度を目指すべきである。

  3. 改革の基本的な考え方
  4. 社会保障制度の改革を推進するにあたり、われわれは、次の5点を基本に据える必要があると考える。

    1. 財政構造改革
    2. 国、地方を通じ440兆円もの債務残高を抱え、厳しい財政事情の中、公民の役割分担の見直しをてこにした財政構造改革は喫緊の課題となっており、公共事業、文教を含めあらゆる分野について根本的に見直す必要がある。そのためには、単なる歳出入の辻褄合わせだけではなく、既存の諸制度、行政組織、国と地方の関係などの根本に立ち返って改革を断行することが前提となる。
      なかでも社会保障関係費は、1996年度予算で一般歳出の33.1%を占め、最大の歳出項目であり、今後ともさらに増大して財政を大きく圧迫することが懸念される。社会保障といえども聖域ではなく、無駄の排除、制度間の給付調整などにより歳出の効率化、合理化を徹底的に進めることが必要である。

    3. 民間活力の最大限の活用
    4. 従来、社会保障は公の役割と考えられ、全ての社会保障サービスを公が提供するとの考え方を基本に進められてきたが、国民のニーズの多様化に対応できないばかりか、財政的にも破綻しつつある。社会保障においても、民の全面的な参加を実現しないかぎり、望ましい社会保障給付水準を実現することはできない。今後は、むしろ公の責任をシビルミニマムに限定し、公的サービスの適正化、効率化を図るとともに、社会保障制度の再設計、運営にあたっては、民間の知恵と活力を最大限に活用すべきである。
      また、多様なニーズに応じて効率よく社会保障サービスを提供することは、まさに民間企業、NPOが得意とする事業である。社会保障分野においても、経済的な規制については原則自由として競争原理を導入し、新産業・新事業として位置づけていくことが、質・量・価格の全ての面でより効率的なサービスの提供につながり、利用者の選択の自由も確保されるものと考える。利用者利便を図る立場からは、サービス内容のディスクロージャーの充実、債券格付けのような第三者による評価が求められる。

    5. 公的負担の抑制
    6. 活力ある経済社会を実現するためには、橋本行革ビジョンに示されたように、国民負担率を45%程度、少なくとも50%以下に抑制すべきである。
      経団連が本年7月に実施したアンケートでは、95年度の企業の公的負担(税負担+社会保障負担)率は70%を超えており、現行制度のままでは、今後さらに高まっていくおそれがある。これ以上の企業の公的負担の増大は、経済活力を削ぎ、社会保障制度を支えるための財源を枯渇させることにつながりかねない。

    7. 財源方式の再検討と弱者への配慮を前提とした適切・公平な負担
    8. 社会保障制度を支える財源は、社会保険に限らない。従来は、とりやすい所からとる形で財源を求めてきたため、制度的には社会保険方式に依存しながら、負担感を薄めるために公費を投入するという、極めて判りにくいシステムが構築されてきた。
      年金、医療、福祉を柱とする社会保障制度を再構築するにあたっては、それぞれの制度が持つ目的、役割に照らして、最も適切な財源方式を検討すべきである。その場合、各制度毎に社会保険方式、税方式などの選択肢があり、その是非を国民の前に明らかにして、各制度を再設計すべきである。
      また、高齢者といえども全てが経済的弱者とは限らない。真の経済的弱者に対する適切な措置を前提に、高齢者も含めた国民全体、全世代の公平な負担により、社会保障制度を支えるべきである。

    9. 少子化への対応
    10. 急速な少子化の進展は、国民経済全体に大きな影響を及ぼしつつある。中でも社会保障制度については、人口構成の少子化、高齢化は、否応なしに現役世代の負担増につながる。少子化は国のあり方そのものに関わる大きな問題であり、その対策には社会全体で取り組む必要がある。
      価値観の多様化が進む中で、個人のライフスタイルを政策で規定しようとすることは望ましくないが、育児を社会的に支援することは、経済社会の活力を維持し、社会保障制度を安定化させるうえで不可欠と考える。

  5. 社会保障制度の将来ビジョン
  6. このような基本方針に照らして現行制度の実情を見ると、パッチワーク的な部分修正で対応することはもはや不可能である。今後の社会保障制度の改革にあたっては、社会保障制度全体の将来像を見据えつつ、当面の制度改正を推進していかなければならないと考える。

    そこで、われわれは社会保障制度の将来ビジョンとして、前述の社会保障制度改革の基本方針にそって、医療、介護、年金の改革の方向を示すこととした。

    現在、政府では、社会保障関係審議会会長会議で、社会保障構造改革の方向について検討を進めているが、社会保障制度は税財政、地方自治、労働、産業構造など国民生活、行政全般に関わる問題であり、経済界としては、総合的な視点からの検討を期待するものである。

    そのうえで、政府は21世紀を見通した社会保障制度全体の将来ビジョンを示し、それに則った総合的な社会保障制度改革を実施に移す中で、個別制度の改革に取り組むべきである。

以  上


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