法人税制改革に関する提言

1997年9月16日
(社)経済団体連合会


現在、政府・与党は全力を挙げて6大改革に取り組んでおり、これを具体的に推進していく上で、税制の抜本改革は極めて重要な役割を担うものである。
現在の我が国の税制は諸外国に比べて個人・法人の所得課税に大きく依存している。これは企業及び経済全体の高コスト構造を助長し、国際競争力を弱め、国内企業の海外移転、外国企業の日本回避による産業の空洞化を加速するなど経済活力を維持・強化していく上での大きな障害となっている。
加えて、我が国は世界に類を見ないスピードで高齢化が進んでおり、目先の財政事情が厳しいことのみに目を奪われ、適切な税制改革が行われないならば、税負担ならびに社会保険料負担という公的負担の急増によって経済成長力の低下は避けられない。経済構造改革の実効をあげるためにも、抜本的な税制改革を実施することが極めて重要である。
すなわち、所得課税への過度な依存を改め、国民全体で負担を分かち合う方向で直間比率の是正を行うことを税制改革の基本とすべきであり、この基本に立って、今後、法人税制や個人所得税制などの改革を進めていく必要がある。
中でも法人税制の改革は、早急に取り組むべき極めて重要な課題である。我が国の法人課税は、主要先進国の中でも最も重い課税となっているが、これを主要先進国水準なみに引下げることにより、今後、我が国の産業立地上の競争力と企業の活力を維持・強化し、日本経済全体の活性化に結びつけていくことが非常に重要な施策である。
こうした認識を踏まえ、早急に取組むべき主要な税制改正のあり方について、法人税制改革を中心に、下記の通り提言する。

  1. 法人課税の実効税率10%引下げ
  2. 我が国の法人課税の税率は主要先進国と大きな開きがあり、経済の国際化の中で企業の国際競争力の維持、企業活力の強化を図り、日本経済を活性化するためには、法人実効税率を少なくとも国際水準なみの40%に10%引下げ、企業の実質的な税負担の軽減を図る必要がある。
    このためには、国税である法人税のみならず、地方税である法人事業税と法人住民税も含めた法人課税全体での負担軽減を行う改革が不可欠である。それとともに、国税・地方税の改革の全体を包括的にスケジュール化すべきである。
    これらの観点を踏まえ、以下の内容で実効税率の引下げを実現していく必要がある。

    1. 法人税の改正
    2. 平成10年度税制改正においては、現在37.5%の法人税率を少なくとも5%程度引き下げる。併せて後述の通り課税ベースの適正化を行うが、この場合、税収中立ではなく実質減税を実現すべきである。
      同時に、課税ベースの適正化に伴い中小企業の負担が増加しないよう、軽減税率(現行28%)ならびに軽減税率の適用上限額(現在800万円)の見直しを行なう必要がある。

    3. 地方税の改正
    4. 平成10年度税制改正において、地方法人課税についても実質的な負担軽減を行なうべきであり、特に法人事業税率の引下げを法人税率の引下げに併行して行う必要がある。
      法人事業税については、付加価値を課税標準とする外形標準課税とすべきとの意見があるが、企業の実質負担軽減につながらず、むしろ業績にかかわらず課税されることや、賃金コストが大半を占める付加価値への課税であることから、雇用維持に努めている企業や中小企業、成長途上にある新規事業にとって極めて重い負担となり、経済活性化を妨げる。のみならず、税の簡素化にも反するので容認できない。
      また、地方自治体の提供するサービスに対し広範かつ公平な課税を行う観点から、法人住民税あるいは法人事業税の税率引下げとあわせて、法人住民税の均等割を拡充することが考えられる。

    5. 早急な改正の必要性
    6. 実効税率10%引下げが段階的に行われる場合でも、2年以内に実現できるよう、平成10年度税制改正においてワンパッケージで改革のスケジュールを明らかにすることが必要である。
      この場合、法人税率の追加引下げとあわせて法人事業税の大幅な軽減が必要となるが、この財源として、地方の行財政改革を進めるとともに、経済活性化による税の自然増収を見据えながら直間比率是正を実行していく必要がある。

  3. 課税ベースの適正化
  4. 課税ベースについては、過去30年以上本格的な見直しが行われていないが、法人税制改革にあたり、公平・中立・簡素などの観点から、国際的な潮流も踏まえ全面的に見直しを行い、踏み込んだ適正化を行う必要がある。
    租税特別措置はもとより、各種引当金など期間差にかかるものをはじめとする課税ベース全般について適正化を行う。その際、欠損金の繰越・繰戻、減価償却の耐用年数など諸外国に比べて我が国の制度が不利になっている項目の是正も必要である。

  5. 連結納税制度の早期導入などの企業集団税制の整備
  6. 法人税制の中で、これまで我が国の取組みが遅れていた基本的な分野として連結納税制度を中心とする企業集団税制がある。近年の、分社化の活発化、持株会社の解禁によるグループ経営の進展、企業会計における連結重視の方向などに鑑みると、本格的な連結納税制度の導入を急ぐべきである。企業が経営環境に応じた事業組織形態を選択する上で税制は中立的であるべきであり、連結納税制度の導入は企業活力強化と経済の活性化につながる。
    また分社化・持株会社設立に係る税制(土地等の現物出資をした場合の100%圧縮記帳、不動産移転に係る登録免許税・不動産取得税の非課税化、株式交換時の簿価引継ぎ等)の整備も早急に進める必要がある。

  7. 法人関連税制の見直し
    1. 土地税制(地価税ならびに土地譲渡益重課の廃止)
    2. 固定資産税との二重課税となっている地価税は、導入時の政策意義が地価下落により失われ、有効利用している土地に過度な税負担を負わせており、土地政策が地価抑制から有効利用促進へと転換した中、ただちに廃止すべきである。
      また、土地譲渡益に対する重課制度も、企業のリストラや不良債権処理を阻害し、経済活性化の足枷となっており、速やかに廃止する必要がある。

    3. 年金税制(特別法人税の撤廃等)
    4. 超高齢化社会に向けて、現行の公的年金制度は構造的な財政問題を孕んでおり、今後益々、国民にとって私的年金、中でも企業年金の重要性が増してくる。この中で適格年金積立金にかかる特別法人税は年金財政の改善を大きく阻害しており、これを直ちに撤廃すべきである。また、平成11年度に予定されている公的年金制度の抜本的改正と併せて確定拠出型年金制度の導入に向けた検討を早急に進める必要がある。

    5. 金融関連税制(有価証券取引税等の廃止とストック・オプションにかかる税制の整備)
    6. 金融システム改革が本格的に進められている中で、金融関連税制も時期を逸することなく対応する必要がある。中でも、我が国証券市場の活性化を阻害している有価証券取引税ならびに取引所税は直ちに撤廃すべきである。また、配当にかかる法人税と所得税の二重課税を排除すべきである。
      先般の商法改正で一般的に導入されたストック・オプション制度が有効に機能するよう売却時のみの有価証券譲渡益課税とする必要がある。また、自己株式の消却にかかるみなし配当課税の停止措置を恒久化する必要がある。

以 上

上記法人税制および法人関連税制に加えて、個人所得税の改革についても、次の通り進める必要がある。
個人企業の行き過ぎた法人化を是正し、法人と個人との課税上の公平性を維持するために、法人所得課税と個人所得課税の税率の乖離が生じないよう、出来るだけ早期に個人所得税の最高税率の引下げを進めていく必要がある。当面平成5年11月の政府税制調査会答申で示された方向に沿って、国税・地方税合計の最高税率を50%まで早急に引下げ、あわせて累進税率構造を緩和する必要がある。
一方、課税の公平の観点から総合課税への移行や納税者番号制度の導入も検討が必要である。


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