開発途上国における民活インフラ事業の推進に向けて

1998年1月27日
(社)経済団体連合会


世界経済が健全に発展していくためには、開発途上国の経済成長は欠かせない。途上国経済が着実に成長するための要諦は、整備されたインフラの存在である。周知のごとく、アジアを中心とする途上国におけるインフラ開発の需要は大きく、日本の協力に対する期待は極めて高い。
本来、インフラ整備は政府が自ら民生向上のために行うべきものであるが、途上国の多くは財政難に陥っており、財政資金でこれを賄うことには限界がある。かかる背景から、昨今、途上国政府は民間資金を活用し、効率的な開発が期待できる民活インフラの導入に力を入れている。
途上国の期待に応え、民活インフラ事業を円滑に推進するためには、事業を主体的に実施する民間の意見を、初期の段階から途上国の政府が十分に汲み取ることが肝要であるのみならず、民活インフラ事業の有する公益性や非商業的リスク等に鑑み、わが国政府の一歩踏み込んだ公的支援が求められている。
経団連は、97年4月、「政府開発援助(ODA)の改革に関するわれわれの考え」を発表し、行財政改革の流れの中で、ODAの企画・立案を担う省と実施機関の各々一元化・簡素化を訴えるとともに、民間ベースの経済協力とODAのパッケージ化を図ることにより、質の高い効率的な援助の実現を提唱した。ODA予算が向後3年にわたり削減されるにいたった今、わが国官民は知恵を絞り、民間資金を活用しうる国際協力の方策を模索すべき時にある。
そこでわれわれは、途上国の期待の高いインフラ整備への協力を行うための方策として、公的支援(輸銀、貿易保険)のあり方ならびに民活インフラ事業とODA等との一体的実施について、以下のとおり提言するものである。

  1. 民活インフラ推進における公的支援のあり方
  2. 民活インフラ事業は所要資金が大きく、公益性が高いゆえに複雑かつ多様なリスクを伴う。こうしたプロジェクトを民間ベースで遂行していくことは極めて難しく、日本輸出入銀行および貿易保険という公的制度の支援が重要な鍵となっている。昨今、両機関ともに民活インフラ事業支援のための体制整備に努めてきており、これを評価するものであるが、現状の取り組みでは必ずしも十分ではない。われわれは、これら機関のあり方について、次のとおり考えるものである。

    1. 日本輸出入銀行のあり方
    2. 民活インフラ推進においては、長期の資金提供・リスクテイクが可能な金融機関の果たす役割は大きく、その意味において、輸出金融、投資金融、アンタイドローンおよび保証等の多様な長期の金融機能を有する輸銀の役割は重要である。他方、2年後の統合に向けて輸銀および海外経済協力基金(OECF)は、組織の改革と業容の抜本的な見直しを求められている。

      1. 海外経済協力基金(OECF)との統合における輸銀機能
        昨今の行政改革の流れの中で、1999年に輸銀とOECFとの統合が予定されている。われわれは、統合を通じ両機関の重複業務が省かれ、効率化が一層図られ、統合の効果が最大に発揮されることを切に望むものである。その際、輸銀の有する機動性と柔軟性が、統合によって損なわれることのないよう強く希望する。

      2. 公的金融機関としての役割への期待
        相手国政府が民活インフラ事業に対する適切な施策(たとえば発電所の場合の燃料供給・電力引き取り保証、外貨転換・送金保証等)を講じ、かつこれら施策を確実に履行するよう助言し、支援する機能を強化すべきである。
        また超長期貸し出し(10年超)や保証、出資など、民間を補完し支援する機能の積極的な展開を期待する。

      3. 外貨建て融資の拡大
        民活インフラ事業は、収入が地場通貨であり、地場通貨による資金調達が望ましい。しかしながらアジアを中心とする資金需要国においては、地場通貨市場が未成熟であり、ドル建て資金調達が主流となっている。輸銀の外貨建て融資は年々拡大してきているが十分とはいえず、これを一層拡大すべきである。
        昨今のアジア通貨のドルリンク離れや1999年の欧州統一通貨ユーロの登場等を背景として、通貨に対するニーズはますます多様性を増すものと思われ、これに柔軟に対応していくべきである。

    3. 貿易保険のあり方
    4. 民活インフラ事業は、長期にわたり、かつ多様なリスクを伴うことから、貿易保険制度の充実は不可欠である。しかるに貿易保険制度にとって民活インフラは、まさに新しい概念であり、新たな対応が求められているといえよう。一方、行政改革の観点から、通商産業省の一部局として存在する現行制度のあり方が問題視され、抜本的な改革が迫られている。

      1. 効率的な貿易保険の構築
        貿易保険業務は、いわゆる現業であり、行革に際しては政策・立案を担当する省と切り離し、独立行政法人とすべきである。これに伴い、組織の簡素化と業務の効率化を進めてコストの削減を図るとともに、透明性を確保し、職員の専門性とサービスの向上を目指すべきである。
        なお民活インフラ推進のためには、迅速なる引受け・審査体制の整備が極めて重要であり、早急な改革を促したい。

      2. 機能の充実
        信用危険のてん補率の引き上げや、海外投資保険のてん保事由の拡大および期間の拡大など、民活インフラ事業に対応した保険の充実、ないし弾力的な適用を行うべきである。さらにグローバル・スタンダードを考慮しつつ、途上国の貿易保険制度の整備に協力し、わが国貿易保険の再保険引受け制度の活用に道を開くべきである。

  3. 民活インフラと政府開発援助(ODA)等との一体的実施
  4. 開発途上国に対する民活インフラを含む経済協力が、わが国民間企業の主体的な参画を通じて効果的に実施されるためには、途上国との政策対話の段階から、政府は民間の意見を徴した上で取組む必要がある。また実施にあたっては、ODA等との一体的かつ効率的な推進が求められる。
    即ち民活インフラ事業の推進にあたって、初期の段階における開発調査、事業化調査には技術協力を、また実施段階において基礎インフラや周辺インフラには円借款あるいは輸銀融資を、さらに環境関連施設に対して無償資金協力を活用することは、民活インフラ事業の総合的推進を可能とし、事業全体の健全性と安定性を高める。加えて、OECFの海外投融資の機動的対応ならびに世銀の保証など国際機関の協力も、民活インフラ事業を一段と促進させる要因である。
    わが国企業としても、日本の技術・経験が反映しうる分野における民活インフラ事業を推進し、途上国への経営ノウハウや技術の移転を積極的に進めるべきである。たとえば環境にやさしいクリーンエネルギー事業は、日本が優位性を有する技術を十分活かしうる分野であり、ODA等との一体的実施により今後積極的に推進していくべきである。
    民活インフラとODAを含む公的支援の一体的な実施に際し、関係諸機関は民間企業との協議の場を設け、民活インフラ支援プログラムを策定すべきである。また官民共同で出資設立した日本国際協力機構(JAIDO)の有する中立性を認識し、その役割を積極的に活用すべきである。

以 上


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